#6
「いやはや、あの花永ちゃんが結婚した事も驚きだが、それがまさかボクの息子のホノカくんだとはね。これは流石のボクにも予想外だったと言わざる得ない。想定の範囲外だ。実に面白い。ああ、面白いとも。この入り乱れた人間関係面白いと思わないかい?実の妹の旦那が義理の息子となるとだ。前述した通り、ボクの立場はお姉ちゃんでありママである訳だ。中々無いよこんな事は。ボクと同じ血が流れる花永ちゃんと彼の血を引いたホノカくんが結ばれたとなるとこれは実質的にボクの2度目の結婚なんて解釈も出来たりしないかい?いいじゃないか。やはりこの血族はこうして巡り巡って結ばれる定めにあるのかも知れない。不思議なものだ。化学なんかでは到底証明できないオカルト引力とでも言おうか?これはこれで研究などしてみるのも一興かも知れない。この世の全てを知り尽くしたなどとはやはり傲慢だね。世の中には人知では解き明かせない謎ばかりだよ(ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ)」
まくし立てるようにしーちゃんママお姉ちゃんはひとりで語り初めて、止まらない止まらない。我々をそっちのけであれこれと決壊したダムの様に次から次へと何事かを語っていた。うん。いつもの奴。
「姉さんが……歩乃佳の……義理の母……?」
対して花永は未だによく状況を理解できてないのか唖然として様子で心ここに在らずの状態。いまならちょっとイタズラしてもバレなさそう。太ももモミモミ。なんやこれムチムチやんけ。気持ちよ。
「それでは義弟になるホノカくん。ボクの妹を頼むぜ?花永ちゃんは意思が弱く誘惑には直ぐに屈するし、小心者で陰湿な所がある。正直、脆弱であるから寄り添って支えてあげるといい」
「姉さん……私の評価……」
「おやおや?何か間違っていることを言ったかな?」
「いや……言い方ってものが……」
「取り繕っても仕方ないとは思わないかい?こう言ったダメな部分は隠していてもいずれは露見してしまうからね。最初から宣言してその弱さ事愛してもらった方がいいだろう?だいたい既に概ねバレているのだろう?」
「まぁ、そうかも知れないけど……」
「次にボクの義理の娘になる花永ちゃん」
「私が姉さんの義理の娘……意味がわからん」
「ホノカくんは多少ヤンチャなところはあるが、純粋で良くも悪くも影響を受け易いし、1度、何かに熱中するととことん突き詰めるタイプだ。それを踏まえて上手くコントロールしてあげるといい。あとはかなり粘着質だから捨てられてしまう心配は無いとは思うが、花永ちゃん、あまりオイタをしてはいけないよ?」
「オイタ……?」
「それが愛情の裏返しと言うならば、粗方の事は多めに見て、目を瞑るし、干渉するつもりは無いのだけれども。度を越した事をするようであれば、ボクが何かしらしてしまうかもね?ホノカくんは"彼"の息子でボクの息子でもあるわけだ。正直な話、妹である花永ちゃんよりボクの中では優先度は高い。それを重々承知しておいてくれたまえ花永ちゃん」
「は、はい……」
「ボクにはまるでさっぱり検討もつかないのだけれども、花永ちゃんは人の好意を利用した不義理な事はしないと信じているよ?」
「…………はい」
ニタニタと笑顔を浮かべているしーちゃんママお姉ちゃんではあるが、その瞳は全てを見透かしているように花永を捉えていた。
それに対して居心地が悪そうにちっちゃくなる花永。姉妹間の上下関係が明確に見て取れた。
「さて、なかなか話し込んでしまったね。ボクはそろそろ帰ろう。あとは若い(?)2人にまかせてと言ったところかな?」
スルリと立ち上がったしーちゃんママお姉ちゃんだったが、何かを思い出したかのようにポンと手を叩いた。
「あっ、そうだ。キミ達にはこれを渡しておこう」
そう言いつつ何処からとも無く取り出したのはラベルの無い栄養剤の入ってそうな瓶。それを手渡される。
「しーちゃんママお姉ちゃん、これは?」
「これはしーちゃんママお姉ちゃん特性の妊娠促進剤さ。これを飲んですれば一撃で妊娠してしまうすぐれものだよ。最近、出来上がって売りに出そうと思っているものでね。効果と安全性は既に検証済みさ。これで大いに励んでくれたまえ!そしてボクに孫の顔を早く見せて欲しいところだ」
「ぶっ……!?ね、姉さん……なんてもんを……」
「遂にボクにも孫が出来るのかと思うとじつに感慨深いモノがあるね!家族が増えることは実にいい事だ!言えばいくらでも渡すから遠慮なく言ってくれたまえ!はっはっはっー!」
「うーん……でもしーちゃんママお姉ちゃん、俺はこれなんか違うと思うから、いらない」
「おや?それは残念だね。ホノカくんがそう言うなら仕方ない」
「なんかこう自分の力で頑張りたいっていうかね?そんな感じ」
「なるほどなるほど。それではこういうのはどうだろうか?ホノカくんは今度彼女ちゃん達を連れて温泉旅行に行くのだろ?実は偶然に!丁度よく!たまたま!最近!「妊娠しないと帰れない温泉宿」というものを作ってしまったんだ!」
「な、なんだと!?「妊娠しないと帰れない温泉宿」!?えっ、何それ凄くいい響き!行きたいっ!めっちゃ行きたいっ!」
「ホノカくんならそう言ってくれると思ってたぜ?既に準備は出来ているから何時でも来てくれて構わないよ!」
「わーい!流石はしーちゃんママお姉ちゃんだぜ!もうなんか常識とかいろいろぶっ飛ばしてやりたい放題だ!マジかっけー!」
「そんなに褒めるんじゃない照れるじゃないか!可愛い息子で義弟の為ならば、これぐらいの事はお安い御用ってワケだよ!はっはっはっ!」
そうして温泉旅行の行先はしーちゃんママお姉ちゃん特製「妊娠しないと帰れない温泉宿」へと決まったのであった。
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