第一話 狙われた陰陽寮
季節は
陰陽寮には寮を統括し、天文、暦、風雲などのすべてを監督する
さらに毎時ごとに
安倍晴明は
「陰陽寮に賊が侵入したそうですね?
出会った頃はまだ黒かった
師に寄れば、賊が盗んでいったのは
「
師――
彼は高齢ではあるが術師としても
ゆえに星を読み、日々の
陰陽寮での仕事は多い。だが世を騒がすモノたちは、こちら側の都合などお構いなしにやってくる。賊なら
「そのような
忠行曰く――殺生石は、ある人物によって王都に持ち込まれたという。
その者は今上帝を
男は捕らわれ、
その殺生石はあらゆる
だがその騒動の際、殺生石に
急いで欠片の回収に当たったが、回収できたのは一つ。
その一つが、今回盗まれたと、忠行は言った。
「欠片だけでは何も起きぬが、本体のほうが
聞けば欠けた殺生石から封印が解け始めているらしい。欠片を回収し封印しなければならない。
「まさかと思いますが――、お前もその欠片を探せと言われるのではないでしょうね?」
「お前の忙しさはわかっておるのだが……、ここに賊が入ったことを関白さまが知ってのぅ……。いやはや、耳が痛いわぃ」
晴明には、関白――
――あの者は妖の
以前に帝がいる
今や
鬼や妖を
――安倍晴明は
大内裏では晴明のことをそう噂する者が多い。半妖の陰陽師――、
晴明は
母に
晴明の人間嫌いは、今も続いている。
拾ってくれた師には感謝しているが、
安倍晴明は
出仕以外は
妖の血を引く安倍晴明は怖いが、霊符は欲しい――、いやはや人とは身勝手よと晴明は
晴明は
どこにいても、晴明は
それに――。
――殺生石を目覚めさせてはならぬ。
晴明にそう、警告をしてきた鬼がいる。
――アレは
確かに殺生石が目覚めることは防がねばならない。
まさかその殺生石本体が、陰陽寮にあったのも驚きだが。
何処の誰だか知らないが、よくもそんな
★★★
平安王都には、都での起きる事件にあたる
その内の一人、
「眠そうだな?
見上げると、もう一人の左近衛中将・
「なぁ? これ、いつになったら片付くんだ?」
欠伸をした彼は
二人の左近衛中将の前や両隣には、山積みにされた書の山がある。主にこれまで起きた事件についての経緯から処理など記されたものだが、これらを記した者は慌てていたのか、それとも
よくもまぁ溜めたものだと感心するも、それを二人だけでまとめろといわれたときから、冬真の筆はなかなか進まない。右近衛府の二人の右近衛中将はどうしたと聞くと、一人は今日は非番、もう一人は
「我々が落ち着いて座っていられるということは、それだけ平和だってことさ。良かったじゃないか」
「良くない。もうすぐ
賀茂祭とは、
祭りの日に先立って、帝の名代として賀茂神社に奉仕する
その行列は圧巻で、貴族たちは一番いい場所で見物しようと場所争いを繰り広げるのである。
「賀茂祭など、興味はないと以前言っていなかったか?」
「うちの
冬真は山積みされた書類の山を
開けられた
冬真も藤原一門に連なる人間で、父は右大臣である。しかし冬真は和歌は苦手で、宴などもっての外、酒は好きだが愛想笑いも苦手なため、他の貴族と
馬に乗り、好きな弓を射っていたほうが気楽なのである。
もちろん、出世欲もない。周りは彼を、『藤原の
「お前の所も大変だなぁ……」
義家が再び苦笑する。
藤原一門とはいえ、
冬真でさえ、一門の人間とすれ違ってもわからない。あとになり、藤原のなにがしと聞かされ「そうなのか」と知るくらいだ。
「そういえば、陰陽寮に賊が入ったらしい」
ようやく筆を持った冬真に、義家が告げる。
「陰陽寮? なんでそんな所に……」
「詳しくは知らんが即、侵入者を調べよとの上からの指示だ」
彼が言う上とは、関白・藤原頼房だろう。
「まったく……、人使いが荒い関白さまだ」
嘆息した冬真は腰を上げ、義家が驚く。
「おい、冬真。まだ終わっていないぞ」
「即、侵入者を調べろ――なんだろ? あとは任せる。義家」
これ幸いと立ち上がった冬真に、義家は慌てた。
「待て冬真! これを一人でやれと!?」
義家は書類の山を押しつけられて不満を
――しかし、陰陽寮とは……。
冬真は以前、陰陽寮の陰陽師に出会い頭、妙な事を云われた。いきなりだったため
陰陽寮に赴くと
「賀茂どのは、どこにおられる?」
「内裏に
船岡山は王都の中心を貫く朱雀大路の
寮官曰く、賀茂忠行の帰りは三日後らしい。
安倍晴明なら自邸にいるという寮官に、冬真は眉を寄せた。
彼の噂なら、冬真も知っていた。
妖の血を引く半妖の陰陽師――、
安倍晴明に関する噂は
幸いと言うべきか、明日は
「あの――、行かれるのはおやめになったほうが……」
呼び止める寮官に、冬真は振り向いた。
「なにかあるのか?」
「かの邸には妖が棲んでいるとのこと……」
陰陽師の邸に妖が棲む――、恐らくそれも晴明に関する噂の一つなのだろう。
だが藤原冬真という男は、妖と聞いて畏れる男ではない。
妖にはまだ出会ったことはないが、そんなものを畏れるのなら内裏を護る近衛府にはいない。
さて、どんな妖が出てくるのやら――。
冬真はふっと笑って、陰陽寮を後にした。
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