第6話 界渡り

 マグノリアさんには、準備を進めてもらうことをお願いした。父さんも母さんもきっと僕を待っていてくれるはずだ。何年経っても二人が処分しないであろう僕の物については、後日連絡をするとした。二人が取っておいてくれそうな物が直ぐには思いつかなかったからだ。最低でも5、6年は取っておいてくれそうな物って何だろう。一発勝負なのだから、慎重に選ばないといけない。

 ジェミニさんはマグノリアさんとの話し合いでは何も言わなかった。ただ、帰りに

「前の世界に帰るという話は、家ではしないでほしいの。失敗する可能性もあるのでしょう。無事に帰れたら、皆には私から話をするわ」

とお願いされた。僕は、帰れるかもしれない可能性が出てきて、でも帰ったとしても何年も経っているだろうということなど自分のことだけで頭の中が目一杯詰まってたから、彼女の思い詰めた表情が何を意味しているのか、判らなかった。帰らないでほしいという言葉ではなかったので、承諾した。正直、このときの僕はジェミニさんの心中まで慮る事なんてできなかったのだ。


 次の日、神殿に赴くとディギダリアさんにクレピディフォリア司祭との面会をお願いした。そうすると、今日の夕方帰り際になら時間がとれるということになった。

僕は、司祭様に現在の状況について話をした。それから疑問に思っていた部分をぶつけてみた。

「僕のスキルについて、お伺いしたいんです。あの日、他の人に告げなかった【界渡り】について。僕は、もしかしたら自力で僕がいた所に帰れるんでしょうか」

 最初の日に他の人に告げない方が良いといわれたのは、スキルが2つではなかったことだった。多分、その名前や周りの人の話から【界渡り】はそのまま、世界を渡ることができる能力なのだと思う。

「【界渡り】は、確かに別の世界に渡れることができる能力だと言われている」

「言われている、ていうことは他にも持っている人はいるんですね」

「そうだよ。スキルに【界渡り】を持っている人は少ないながらいるのだよ。また【転移】が変化して【界渡り】になるとも言われている。だが、この【界渡り】は難しいスキルなのだ」

 スキルについては説明してもらっていた。一般的な火や水、風などを扱う魔法については、スキルが無くても使えるらしい。そうした誰にでも使える魔法とは違った能力を発現させる物がスキルだという。

スキルには2種類あるという。最初から感覚的につかえる、もしくはある程度魔力コントロールなどができ、基礎的な知識などが身につけば使えるようになる一般的なスキルと、かなり鍛錬した後に使えるようになる上位スキルだ。

この上位スキルの中でもかなり難度が高いと言われているスキルの中に【界渡り】が位置すると言われた。なぜなら【界渡り】を使いこなせるという人がほとんど記録されていないから。

「ディギダリアから、君はかなり筋が良いという話を聞いている。もう魔力のルートの半分以上を認識できているのだろう。また魔力量も多い。【界渡り】に必要な魔力量も購えるだろう。だから、自分がいた世界に戻るということであれば、君は【界渡り】を使えるようになる可能性は高い。なんといっても、君はその世界がある事を知っているからだ。

【界渡り】の下位互換だと言われている【転移】は、一度訪れた場所でなければ移動することができない。だから、【界渡り】も同様に知らない場所には移動できないと考えられている。

【界渡り】を使えるようになるためには修練を積まなければならない。最低でも【転移】を使いこなせるようになる必要がある。【界渡り】はその延長線上と考えられるためだ。きちんと制御できなければ、どこに飛ばされるか判らないからね。水の中、土の中になってしまう可能性さえあるのだから。

そこまでしても、普通は行く場所が設定できない。異世界に行く術は界渡りしかなく、界渡りはその場所をしらなければ行くことができない。だから、極めたいと思う者はほとんどいない。

だが、。だからその世界に戻るためにきっと使えるようになるだろう。他の【界渡り】のスキルを持った者達との大きな違いだ」

「修得にはどのくらい、時間がかかると考えられますか」

「そうだね、人にもよるが長距離の転移を習得するのに1年と言われている」

1年か、2ヶ月で13年ならば単純計算でも1年経ったら向こうでは78年は経っていることになる。父さんも母さんもいないよ。浦島太郎かよ。それならば、数週間で4,5年空くだけの方が、まだましかもしれない。

「なぜ、秘密にしたんですか?」

ふっとクレピディフォリア司祭が笑った。

「君はきっと他の世界に渡れる【界渡り】を使いこなせるだろう。それを知れば、君を利用しようという人たちに目をつけられる。相手は王侯貴族だけではない。そうなったら安寧な生活などできなくなるよ。君の意思などお構いなしに、ね。この世界にはね、従属魔法もあるんだよ」

心の底からゾッとした。絶対、誰にも【界渡り】の事は言わないと誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る