課された代償
翌日、教室に入ると前方で人だかりができているのが見えた。見ると、レイルの持っている箒を男子生徒が奪おうとしていた。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
「いいだろ、一回ぐらい乗せてもらっても。へるもんじゃないんだ」
「それに知ってるぞ。お前、親がいないみたいだな。昨日一人で歩いているところを見たんだ。あいつは地位も関係ないと言っていたが、俺は有名な貴族の息子だ。これくらい使っても良いよな?」
「そんないくらなんでも」
「うるさい!お前みたいな貧民が口答えするな!」
ぶんっ、とレイルから無理矢理奪うとそれに跨がる。
「ミル・スプリゲン」
ゆっくりと彼の足は浮き上がっていく。だがすぐにそのバランスは崩れて、あらぬ方向へと飛んで行ってしまった。大きな音を立てて壁にぶつかり、埃を舞い上がらせて落ちた場所にはひどく体を打ったのか、うめき声を上げる姿があった。
「おい、なにがあった」
その音を聞きつけてか見知らぬ教師が教室内に入ってきて彼に目が入ると、その少年を連れて保健室へと向かった。その付き添いとして近くにいた彼の友達らしき人がついて行く。
「大丈夫だった?ごめん、教室に入った時点で私も止めに入ればよかった」
「そんな、エレインが謝ることはないよ。僕がしっかりと彼のお願いを断っておけばよかっただけで」
その引き金となった箒は、強い衝撃で折れてしまっていた。
「これ」
「大丈夫。ほんとに気にしなくていいよ。僕はこの箒に特別な思い入れがあるわけじゃないし、そこまで高いものでもないから」
だけど、そう言い訳するにはとても使い古されたあとがこのこの箒にはあった。
教室の空気は非常に悪く、とても入学二日目とは思えないものだった。
「あえて深く聞くことはしないが、私はお前達を少々見誤っていたらしい」
担任が教室に入って早々口にした言葉は、あまりにも冷めていた。
「君たちの中には見込みのあるもの、つまり可能性を持った生徒が幾分か見られたことは認める。だがしかし、それ以上にこの教室の空気を腐敗させる劣性遺伝子が含まれていたと知れば話は変わる。ある有名な話だ。箱中に詰まったミカンがあるとする。それ一つ一つはおいしく食べることができる。だが、その中に一つでも腐ったミカンがあれば、それはあっという間に他のミカンも腐らせてしまう。なぜ私がこの話をするのか、理解できるだろ?」
つまりは、私たちも腐ったミカンだと。罪を犯した者が、改心したといろいろなことをなそうとしてもそこにはいつも過去の過ちがつきまとうように、先生は私たちをそんな風に見ている。
「君たちには今日から魔術について教えるというカリキュラムが私には課せられている」
担任は、教室に入るときに一緒に持ってきた教本の一ページを開いてみせる。
そして、すぐにそのページを破ってビリビリに引き裂いてゴミ箱に捨てた。
「私は君たちが学園に不利益になるようなことをした場合、容赦なくそのカリキュラムを削る。そして代わりに、私が作ったこのカリキュラムをこなしてもらうことにする」
その教本の間から出てきた薄い小冊子。ページは十数ページにしかみたないような小さなもの。その一ページ目を破いて読み上げる。
「どんな方法を使ってもかまわない。私に負けを認めさせること」
全員が呆然とした。あんぐりと口を開ける者もいた。
「だが、ここでは他の生徒に迷惑を掛ける可能性もある。少し遠いが、校庭に向かうぞ」
彼は普通に校庭に行こうとしているが、こちらはまだ理解が追いついていない。
先生を倒すってどういうこと?だって、先生は魔道士で私たちはまだその足下に立つことすらままならないのに?
「何をぼおっとしているんだ。早く行くぞ」
今になって全員が気づく。この先生、何かがズレていると。
ここで校庭に行かなかった時の先生を想像した方が怖いので素直に従う。でも、たった一日でその印象を植え付けてしまう先生もすごいと思う。
先生は校庭の真ん中に立って杖を握ると、
「もう良いぞ。今日の授業はこれだけだ。逆に、これができなければ帰るな。勝手に帰ったらそいつの単位は私がすべて黒く塗りつぶす」
帰ったときの代償があまりにもでかすぎる。
私たちは半ば強制的に協力せざるを得なくなった。
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