再会の下準備
彼も、自分が造った魔剣によって人が傷ついたとことに罪悪感を感じているみたいだ。
「ならあの魔剣がどんな能力を秘めているのかも分かるんだな」
「ああ。だがそれにも問題点がある」
問題点?能力が分からないということ?
「俺の造ったその魔剣だが、能力は極めて単純だ。それは対象の相手に斬撃を加えることで傷を負わせる。ここまでは普通の刀と違いは無い。だが、あの魔剣はその際に魔力を練ることで影と本体をつなぎとめることで真の効果を発揮するんだ。太陽が昇って、その影がはっきりと見えるようになる。するとその影のダメージは本体にも反映されて、急に死を体に刻み込まれるというものだ」
まるで暗殺のために生まれたかのような魔剣。聞いているだけでも恐ろしい。
「対処法はないんですか」
ここであの魔剣のからくりが判明したのはよかったけれど、解除ができないのでは意味がない。
「まだ、話は終わっていない」
彼は続ける。むしろここからが深刻な話だとでもいうように、彼の表情はだんだんと硬くなっていく。
「あいつが持っている魔剣は、私が知っているものとは違っている。このほかに『能力』が増えているのは確実だ。それだけは忘れないでほしい。そして、その魔剣について、少なくともわたしが知っている範囲での能力は、解呪等で対処はできる。まぁそれを戦闘の間にできるかは別の話だが」
「解呪が有効なんですね。それなら私でどうにかできます」
シレさんは初めて安堵の表情を見せた。私たちもひとまず彼女の安全は確保できたことで一安心する。
「では私は少し外で解呪のための陣を張りますから、皆さんはもう少し彼にお話を伺って何かあの魔剣を封じる対処法を考えておいてください」
ふすまを閉めて彼女が出ていくと、おじいさんは、薪を少し動かして火の勢いを殺さないようにする。
ひとまずは彼の持つ魔剣のことについて考えないといけないけれど、そのほかにもこの町には魔剣を持つ人がいると考えるとできるだけ早く事に動いた方がいい。人斬りが彼だけだったらいいのだけれど。
「さあどうするレイル、エレイン」
「おじいさん、他にも魔剣を造ったりしてないの?」
「そんなことを聞いてどうする」
「いや、それがあったら対抗できそうじゃない?」
いい案だとは思うけど、どうだろう。そう思ってヲルスのほうを見るとあまり肯定的ではない感じがする。
「あるにはある」
「そうなんですか!」
「だが、あいつの持つ魔剣とお世辞にも相性がいいとは言えない代物だ」
「別にそれは大丈夫です。僕が使いこなして見せるんで」
うすうす感づいてはいたけど、やっぱりただレイルが魔剣を持ちたいだけだった。
こんな時でもレイルはいつも通りでなんだか安心する。
「そんなことをしなくても、ここには魔剣が一本あるだろ」
「そういえばそうだった」
二人してこちらを見る。奥からおじいさんも怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「それは、お前の魔剣か?」
腰に差していた剣が魔剣だと気づいて彼は興味を持った。だが、それはいい意味ではない。
「いや、私がじぶんで作ったというかなんというか」
「自分で作っただと?……まあいい。いったんその刀を見せてみろ」
「は、はい」
私は彼に言われるがままに刀を渡す。それを受け取ると躊躇なく鞘から出して、状態を確認し始めた。そして開口一番、
「酷い管理だ」
と嘆いた。
「私に一旦これを預けなさい。代わりにといっては劣るかもしれないが、私が鍛えた刀だ。少しは役に立つだろう」
これが魔剣。抜いてみて分かることだけど、だいぶ私の魔剣とは感覚が違う。やっぱり自分の魔眼を用いて造ったというのが大きいのか、この魔剣は使うとどんどん自分の力が引き抜かれていく気がする。
「いいなぁ、僕が使いたかったのに」
「お前にはお似合いの箒があるんだから我慢しろ」
「まーた僕をからかう。もうその手には乗らないからな」
「ごめんレイル」
「いいよ気にしてないから。それに、僕の新技を今回は披露できるかもしれないからさ!」
むしろやる気を出してくれたみたいで安心する。
「さっきの人斬りだけしかこの町に魔剣を使うやつがいるわけじゃないんだ。お前のその新技とやらで、一人くらいは倒してもらわないと困る」
「言われなくても、それくらいはするさ。それより君のほうこそまだ何もできてないけど、どうするつもりなんだい?」
「安心しろ。俺は新技なんぞ考えんでもお前よりもとから強い」
「言ったな!その新技を見てからでも同じことが言えるかな」
二人の会話はきりがなさそうなので、おじいさんが貸し出してくれた魔剣に目をやった。刀自体は、私が持っているものより少し重い。少しだけ試し振りだけしてみようかな。
私は外に出て人の少ない場所へ行く。そこで刀を抜いて一度使ってみることにした。もちろん、魔力も流してみるつもりだ。
「うわぁ」
体が軽くなっていく。まるで雲にでも変身したかのように重さを、重力を感じない。
試しに一歩踏み出してみてそこで気づいた。
「これが、この魔剣の能力」
明確な俊敏性の向上。まるでそれこそ雷鳴のように。
後ろを振り返ると、そこにはまるで雷が落ちたような焦げ跡があった。
「雷のような俊敏性を備えた魔剣……」
「そうだ」
突然声がしたと思ったけれど、それはあのおじいさんの声だ。
「雷を司る悪魔、フルフルの残滓が染みついた魔剣。まあ私は韋駄天と名付けたがな」
72柱の悪魔の力が込められた魔剣。こんなものを造れるこの人は一体何なんだろう。魔剣から出てきた思わぬ名と、彼に新たに向ける疑問。
だけど、優先順位を見誤ってはいけない。今私たちがするべきなのは一刻も早くあの魔剣使いを見つけ出すこと。そして、出会う敵を打ち倒すこと。
「どうだった?ってうわ、何その剣。かっこいい!」
私の持っている魔剣を見て興奮するレイル。確かに刀身には私が魔力を流しているせいもあるのだろうけど時折電気が流れているし、そのせいか若干光を刀自体が帯びている。むしろ、この魔剣のほうが私のものよりも戦闘という面では役に立つ気がする。
「すみません。この剣お借りしますね」
「ああ。帰ってくるまでにはきちんと整備を終えておくこと、約束しよう」
シレさんのほうは、ちゃんと解呪に成功したようで何よりだったけれどやっぱり大事を取って今日はおじいさんの家に泊まらせてもらうことになった。
「すみません。本当は私がもっとまとめる役を全うするべきなのに」
「そんなに気にしないでください。私たちだって弱くはありませんから」
「もし傷を負ったら私のところにすぐ来てください。今日はもう日が昇るまで時間はあまり残っていませんから、無理はしないでくださいね」
シレさんからの激励の言葉を貰ったところで、私たちも準備も整ってきたので再び夜の街へと繰り出す。
「手分けは、しない方がいいな」
「僕がまずは上から見てみようか?夜だとあんまり目立たないし」
「でもこの暗さじゃ人を見つけるのなんてできるの?」
「それなら大丈夫。こう見えても、けっこう夜眼が利くほうなんだ」
そう言って、彼は箒にまたがって空に舞う。
「意外と優秀だな」
ボソッとヲルスが呟くので、私もそれにボソッと返事する。
「きっとあの魔術に関してならだれにも負けないよ」
「そうだな」
きっと彼は朝も夜もかまわず空を飛んでいたに違いない。その道のりは、案外いろんなところで役に立ったりする。一芸は道に通ずるということかな。
「見つけた」
上からレイルの声が聞こえてくる。ゆっくりと降りてきたレイルはそのまま箒を抱えて足をつく。
「この先民家を三軒超えた先を右に曲がって進んだ二軒目のあたりでさっきの人斬りと誰かがすれ違おうとしている。急ごう」
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