最後のネクロマンサー
主席は末席
図書館での手紙の一件から数日、期末試験を終えた私たちは夏休みを目前に残りの日数を数えていた。
「あと一週間で夏休み」
「長かったぁ」
レイルと私は売店で買ったアイスキャンディをペロペロと舐める。夏の暑さは、うだるような日差しと共に私たちを照らしこの身とアイスを溶かす。
この時期になると正門での荷物の出入りがせわしなくなるらしい。それはきっと、みんなが夏休みを皮切りに実家へと帰るためだからだ。
「レイルは、実家に帰るの?」
私は、師匠のもとにかえってもよいのか分からなかった。立派な魔女になると啖呵を切ったのに、夏休みだから帰ってきたよ~っていうのはなんだか違う気がするからだ。だから、彼が帰るのならひとりでこの学園にいてもどうかと思うので聞いてみることにした。
「うーん。それが悩んでいるんだよね。僕は家族の反対を押し切ってこの学園に入学したからさ、合わせる顔がないというかなんというか。だから今年はここに残ろうかなぁなんて」
「……そっか。じゃあ私も残ろうかな」
「えっ?」
「えっ?」
彼が驚いたのに私も驚いて声が出る。もしかして嫌だったりしたかな。
「いや別に悪いとかじゃなくて。……なら夏休みは一緒に楽しもう」
「うん!」
と、二人で夏休み楽しむ宣言をしていたところに背後から肩に腕が回る。
「俺を忘れるな」
「うわっ!」
「そこまで驚かなくてもいいだろ」
「いや、だれでも背後から迫られたら驚くよ!」
「そ、そうか。それはすまない」
「あれヲルスくんは実家に帰らないの?有名な貴族出身じゃなかったっけ」
「それなら……お前にやってしまったことが家族にばれて今年は帰ってくるなだそうだ。俺は家族の恥さらしだから顔も見たくないんだと」
こればっかりは慰めることはできない。彼は反省するべきだし、それを簡単に許して済むことでもないから。
「いいじゃん。こっちで三人で過ごした方が有意義だよきっと」
「すまないな、レイル」
「いいって!それより、そのことをまた掘り返したら僕は逆に許さないからね」
「分かった」
つまりは、三人で夏休みを過ごすということで。
私は友達との夏休み、楽しさに胸を膨らませていた。
「それで夏休みはさあ」
レイルがその予定について話していたときだった。「パリンッ」突然窓ガラスの割れる音がした。その音のほうを見ると建物の三階の窓が粉々になっていて、そこから煙が出ていた。
「なにあれ」
「行ってみるぞ」
私たちは、その建物に乗り込んでみることにした。本当は行きたくないなんて言い出せるはずもなく、二人はまるでその状況を楽しんでいるかのようにどんどん進んでいく。私はその廃墟のような不気味さにおびえながらも、はぐれないように彼らの後ろについていく。
「ねえ、やっぱり帰らない?」
「あの爆発はきっと何かあったんだよ。何もないにせよ一応見に行くべきじゃない?」
そんなに正義感丸出しだったっけ。そんなことを疑問に思ってもその足を止めることはできない。私はその決定に従わざるを得ない。というより、こんなところで置いてけぼりにされたら死んでしまう。
軋む階段を勢いよく上る二人の後ろで、一歩一歩確かめながら登る私。
三階まで登ると、ドアの隙間から煙が漏れていたのでさっきの爆発があった部屋がどこかはすぐに分かった。
そして、私たちを待っていたかのように再びの爆発音。ヲルスは私たちを待つことなくその扉を開けた。
そして中から出てきたのは部屋に充満した煙、そして一人の少女だった。
だが、彼女は少女というには豊かに実りすぎたものを持っており、部屋から勢いよく出てきた彼女はヲルスに正面から覆いかぶさるようにして倒れる。
「いったぁーーっ」
頭をなでながら顔を上げる彼女。上からまたがるようにして倒れたから彼女自身に怪我はなかったみたいだけど、その下にいた彼は別だった。
しばらく体を動かして暴れていたが、その体は動かなかくなる。
「だ、大丈夫ですか!」
あわてて起き上がった彼女だけども、原因は彼女自身といっても差し支えなかった。
「……保健室に行こう」
私はなぜかもやもやした胸の内を抱えながら四人で保健室に向かう。
数時間して、彼は目を覚ます。幸い大した怪我でもなかったみたいで安心する。
「ほんっとうにごめんなさい!」
頭を下げる彼女にヲルスは別に気にしていない、と返すがなんだか雰囲気がおかしい。
「そうですか!ありがとうございます!」
彼の手をブンブンと握る彼女に対して、なぜかヲルスは照れ臭そうにしている。
「妙だな」
隣でレイルがつぶやく。やっぱり君もそう思うか。私は彼と目が合うと、頷いて握手する。
「よし、じゃあ僕たちはそろそろ帰ろうかなあ」
「看病お願いしますね」
彼女にスマイルを送って部屋をあとにしようとしたが、それはヲルスの掛け声によって止められる。
「二人とも待て。自己紹介くらいはお互いにしとくべきなんじゃないか」
それはそう。私も彼女の名前すら知らない。
「では改めまして、三年B組屍術科のミレスト・ヒーデルックです」
「一年C組のエレインと」「レイルと」「ヲルスだ」
「三人ともよろしくね」
健気なその表情は、心を穏やかにさせてくれるみたいだ。
挨拶もすんだところで、話は先の件に戻る。彼女はいったい何をしていたのか。それを彼女に尋ねると、心底答えずらそうな顔をされてしまう。
「ネクロマンサーって知ってる?」
「名前くらいなら。でも、内容の複雑さと適性を持つ人が少なすぎてほとんど絶たれた魔術じゃないんですか?」
「私は、そのネクロマンサーなの」
「「ええっ!」」
私とレイルは二人して素っ頓狂な声を上げた。
「私がいた校舎、あれはもともとネクロマンサーの生徒たちが使っていた屍術科の校舎だったの。今はあんなだけど、私の祖父の祖父くらいの頃は凄かったのよ」
どうりであんなにも廃墟のように手入れが行き届いていなかったのか。内心納得しつつも、あんなところで一人勉強していたかと思うと悲しくもあった。
「私には、どうしても習得したい魔術があるんです」
やがてしんみりと、だけど決意を持った声で言う。
「私が父から受け継いだ魔術、それを使えるようになるまで私は家に帰れない。なにより帰ったところで意味がない。だからあそこで毎日毎日いろんな試行錯誤を重ねていたの」
彼女もまた、由緒正しき魔術師の一族なんだろう。私のようにどこの馬の骨か分からない人を育ててくれて弟子にしてくれた師匠はきっと、例外なんだと思う。
「なら、協力しますよ」
私はなんのけなしに言った。たくさんの人の知恵が集まったほうが、その問題を早く解決できると思ったから。なによりさっきから不安そうにしていた彼女の顔が、その言葉を聞いて晴れたから。
「なら俺も手伝う」
もちろんレイルもだった。授業はもうほとんどない。彼女のその問題を解決するのに、時間をかけることができる。きっとこれは彼女にとっても、私たちにとっても僥倖な気がする。
「本当に?ありがとう!」
「それじゃあ、他のネクロマンサーの方たちにまずは聞きに行ってみませんか?」
善は急げ。何事も早いに越したことはない。
「それをしたいのはやまやまなんだけどね。この学園にはもう私しかネクロマンサーはいないの」
うすうすわかっていたことだけど、実際言われると悲しいものがある。
今更だけどこの問題、なかなかハードモードじゃない?
初っ端から前途多難で雲行きが怪しい。
「あ、そんなに暗い顔しないで。まずは私たちネクロマンサーの魔術について教えるね」
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