友達
翌日。目が覚めて学校へ行く準備をする。
だけどその足取りは重く、軽くなることはない。
思い出したように師匠からもらった指輪を箱から取り出して太陽にかざす。
「自信なんて持てないです、師匠」
そう尋ねても、あの優しい笑顔は返ってこない。
このまま、休もうかな。
寮を出て学校に行くまでの間、そんなことが頭によぎる。釈明も、謝罪も、なにもかも逃げているようで。正解が分からない。
もっとこの眼のことをちゃんと話していれれば。いや、最初からここに来るべきじゃなかったのかもしれない。不安は募ってばかりで、悪い方にしか考えられない。
そんな時だった。
「何やってるんだ、ぶつかるぞ」
ふっ、と服を引っ張る人影。振り返るとそれはヲルスだった。
「おはよう、エレインさん」
にかっ、と笑顔を振りまくのはいつものレイルで、私を助けてくれたのもいつもの仏頂面のヲルスくんだった。
いつもなら温かい気持ちで見ていられるその光景も、今はとても心が痛む。
「どうして、優しくするの?」
「それはどういう」
「私の目を見ても何も思わないの?」
私は、半ばやけくそだった。いつもなら絶対に人に見せたくないその絶対領域を開く。萌黄色のその目は、はっきりと二人の顔を射抜く。しばらくして、レイルがk賭場を放つ。だけど、それは私を貶めるものなんかじゃなかった。
「……僕は、そういう目のことを知ってる。それは人とは違う特別を生み出すけど、それを望んでいない人だって多くいるって知ってるんだ。だから、エレインさんのその目が一瞬見えたとき驚きはしたけどそれ以上何も思わなかったよ。だって初めての友達だし、そんなことで失いたくない。ね、だから顔を上げて」
「俺はそんなの今はもう気にしない。うらやましいとは思うけどな」
「本音出しちゃだめだよ、ヲルスくん」
「黙れ」
そしてまたいつもの二人のやり取りに戻ってしまって、私は思わず笑ってしまった。悩んでいた気持ちは少しだけ和らいで、同時に逃げたことを後悔した。
「ごめん、二人とも。私のこの眼のことを黙っていて」
いつかちゃんと話すから、私の抱えた原罪を。
私はフォラスからもらったその手紙を見て思ったのは、驚き半分、楽しみ半分だった。
「エレインという少女が学園に入学してくる。そうすればきっと必ず”観測”される。占星の魔女に聞いたんだ、間違いはないはずだよ」
手紙を閉じて空を眺める。静かになった部屋に吹き込むのは、夏を思わせる湿気のなくなった空気。
「まさか、こんな年になってもまだ好奇心というものが私の中に眠っていたとは。人生、案外続けてみるものだね」
これから彼女が出会う数々の出来事は、きっと彼の心を躍らせるものばかり。
だけど、当人からしたら必ずしもそうとは限らない。
置手紙は解決した。この物語はここでおしまい。
「さて、私も返信を書くとするかな」
バエルは、筆を握る。「久しいな、フォラス」そこから続く文は、届くまで分からない。なぜなら、人に届いてこそそれは手紙と呼べるのだから。
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