第23話 「ナナの能力」

「なんでナナちゃんが追いつくの!? そんなの、あり得ない!」


「わたしがずっとダンジョンの外で待ってたら確かに間に合いませんでした。ですが……なんだか、嫌な予感がしたんです。言葉にはできないですけど、わたしの中から警鐘を鳴らす音が聞こえたんです」


「イオリちゃんが三層に上がったくらいのところで合流して、そっから戻ってきたんだよ」


 だから間に合ったのか。ナナが一人でダンジョンに入ってくるのは危険すぎるけど、そのおかげで助かった。


 道中で俺たちが多少魔物を倒しながら進んでいたからナナは三層まで降りてこれたのかもしれない。


「アリシアちゃん、ずっとカイリに集中してたから気づかなかったでしょ。サーチを使えばイオリちゃんたちが近づいてるってことくらい分かるはずなのにね」


「くっ……!」


「カイリに危害を加えようとしたら、イオリちゃんが止めるから、大人しくしな。イオリちゃんの目はどんな攻撃だって見逃さないから」


 イオリは一人でダンジョンくらいなんだから、戦闘が苦手な訳じゃないだろう。


 アリシアは戦闘できない。それは俺も、前のパーティーでよく知っている。


 状況はこちらが圧倒的に優位だ。だからこそ、アリシアもイオリがいない隙を狙って本性を表したんだ。


「さ、ナナちゃんはカイリを治療してあげて」


「は、はい!」


 ナナがアイテムボックスから回復アイテムを取り出して俺に使ってくれる。


 俺の身体が溶けていくのは止まった。止まった――けど。


「治らない……」


 ナナの持っていた分だけでは治りきらなかった。


 当然だけど、ダンジョンに潜る俺たちの方が回復アイテムはいっぱい持ってるからな。

 俺たちの分で足りないのに、ナナので足りないのは想定すべきだった。


「ど、どうしましょう……! このままじゃ、カイリ様は……っ!」


「どうしたらいんだろ……そ、そうだ、配信でお医者さんとか集めたらいけるかな。イオリちゃんはファンもいっぱいだし……」


 ナナとイオリが焦ってる。正直、俺も絶対治ると思っていたから完全に予想外だ。


 アリシアは気分が悪そうにこちらを見ている。俺の治療はできてないけど、溶けるのが止まったことで、俺の死自体は回避された。


 だから、アリシアはガッカリしているのだ。俺の死ぬところを見れないから。


 あるいは……もしかしたら、この状況で魔物に襲われるのを期待しているかもしれない。

 現状、戦える人間はゼロと言っても過言じゃない。


「ナナ、イオリ……それと、アリシアも。三人で帰ってくれ。みんなで協力すればきっと――」


「――それじゃカイリ様は死ぬじゃないですか!」


 ナナの瞳から、大粒の涙が滴る。


「こんなところで動けなくて、助けが来るまで待つなんて……現実的じゃありません!」


「でも、俺を抱えても俺が足手まといになるだけだし、配信で助けを求めるにも結局助けがくるまで魔物が来ないことを祈るしかない。このままだと助かる可能性はほぼないんだ」


「だからって、簡単に諦めないでください! わたしは……カイリ様のいない世界なんて嫌なんです!」


 ナナにそこまで想われているなんて、考えたこともなかった。


 昔から俺は、ラノベやアニメが好きなだけの一般人。特別好かれもしなければ嫌われもしない、空気みたいな存在だったのに。


 そんな俺を受け入れて、好きでいてくれるなんて。


 死ぬための覚悟を決めていたはずなのに、少しだけ、思ってしまう。


 ――ナナやみんなを残して、死にたくないと。


「ナナちゃんにも、治す手段はないんでしょ? だったら置いてくしかないじゃん。カイリは覚悟を決めてるでしょ」


 アリシアは完全に俺を置いて行く気だ。そして、俺が死んだという報告を待つだけ。


 アリシアの厳しい言葉を受けたナナは、ふと、自分の胸に手を当てる。


「わたしの、内側……」


「ナナちゃんどうしたの? 早く帰ろうよ。それがカイリの最期の望みなんだから」


 アリシアがナナを急かす。だけど、ナナにはそんな言葉、届いていないようだった。


「わたしの、役目……。きっと、この為に……」


「ナナ、どうしたんだ」


「カイリ様、このまま……動かないでくださいね」


「なにをする気だ……?」


 ナナが俺の身体に手をかざす。


「魔力の流れ……『スキル』か!」


 空気中の魔力がナナに吸い込まれていく。それは、スキル発動の前兆だった。


「カイリ様、今……治します!」


 ナナの掌から白い光が溢れ、俺は暖かい感覚で包み込まれる。

 光が収まった後、溶けていた俺の腕と足が元に戻っていることに気づいた。


『アイリちゃん、スキルに関してすごい才能がありますよ! こんなに光ることなんて滅多にないのに!』


 冒険者登録をした日に受付嬢が話していた。

 ナナには才能がある。戦闘に関するものではないと言っていたけど。


『早くスキル鑑定士さんのところに行ってどういうスキルか調べてもらった方がいいです! 過去の英雄にも負けない冒険者になれるかもしれませんよ!』


 色々あったせいでナナのスキルがなんなのか、確かめられなかったけど……


「これが、ナナのスキルなのか……」


 人の傷を癒やす、「治癒」のスキル。優しいナナにぴったりのスキルだと思った。

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