第22話 「アリシア」

 私が初めて自らの性癖を理解したのは、十歳の頃だった。


 十歳の誕生日を祝う日に、私の母が死んだ。

 元から病弱な人だったし、だんだんと衰弱していたから、もう治らないっていうのは分かってた。


 だけど、弱っていく母を見るのは悲しかった。いつも元気で私を励まして、勇気づけてくれる、素敵な親だったから。


 そして母が死んだ日、私の誕生日を祝うおめでたい日になる予定だったその日は、母を弔う日になった。


 目の前で息を引き取った母の前で私は泣き崩れて……そして笑った。


 胸が痛くて息が詰まるほど苦しいのに、その痛みがどこか気持ちよく感じた。


 私が笑っているのを見た父は私を病院に連れていったりもしたけど、別になんともなかった。


 お医者さんは私に質問して、一つの結論を出した。


 大切な人が死ぬことに耐えられない心が、敢えて気持ちよさを感じてると錯覚させることで精神を守っているのかもしれない。


 そんなことを言っていたけど、私にとってはどうでもいい。


 今まで母に愛されること、母を愛することが一番の幸せだった私。

 母がいなくなった今となっては、「大切な人が死んで悲しい=一番気持ちいい」となってしまった。


 私の能力も、性癖と合っていた。自分だけがこの先危険かどうかを知ることができる。


 それを逆に利用すれば、危険な場所に他人を誘導できる。


 私は大きくなって、冒険者になった。理由は単純。

 人が死ぬ可能性が一番高いから。


 私自身が死んでも構わない。冒険者生活の中で、大切な人と出会って、その死を間近で見れさえすれば、私は自分の命すらどうでもいい。


 私はパーティーに入ることにした。私が心から大切だと思える人と出会うには、人が多い方がいいしね。


 パーティーを選んだ決め手とか特にない。どうせ好きになれそうな人がいなかったらすぐに見切りをつける予定だったし。


「はじめまして……俺、カイリって言います」


 このパーティーも潮時かと思ってた頃、カイリが入ってきた。


 一目見た瞬間、私は「只者じゃない」って思ったの。


 無能力だし、特別カッコいいってわけでもないのに、私は運命を感じた。


 自分勝手で独りよがりなハルトと、それを無理やり擁護する女子で作られたつまらないパーティー……だったけど、カイリがいればそれだけで価値があった。


 すぐに追い出されちゃって、私も後を追ってパーティーを抜けることになるんだけど。


 カイリと過ごした日々の中、私は本気でカイリを好きになってた。

 だからこそ……私は、期待していたの。


 カイリは死の間際に、どういう表情を見せてくれるんだろうって。










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