第21話 「愛のカタチ」
「私のスキル、なんだったか覚えてる?」
「覚えてるよ……それが、なんだって……」
「そう。私のスキルは『サーチ』。敵の位置を感知する能力――なんだけど。そんな能力を持ってる割に、おかしい出来事が何度か起こったよね」
アリシアがいるにも関わらず、「サーチ」があるにも関わらず起きた出来事。
逆にいえば本来、サーチをすれば起こらなかったはずの出来事。
その心当たりはあった。
「ナナの時か……っ!」
「うん、正解だよ」
あの時、アリシアに索敵を任せ、ナナの追手から逃げていた時のことだ。
サーチを使っていたにも関わらず――俺たちは見つかった。
俺だってあの時はおかしいと思った。だけど、アリシアも追手に捕まればどうなるか分からない。
だからこそ、アリシアがサーチをしていないなんて考えもしなかった。
だけど、改めて考えるとあり得ない。アリシアのサーチをすり抜けて、大量の兵士が近づくなんて。
「でも、それだけじゃないよね? まだあったもんね」
キマイラのダンジョンの時も、アリシアがいながら魔物の大群に襲われた。あれだって、アリシアには分かっていたはずなんだ。
分かっていて、言わなかった。寧ろ、俺たちを誘導したのだろう。
おかしい点はあった。だけど、それら一つ一つがそこまで大きい違和感じゃないから、最初から疑いの目を向けていないと糾弾することはできない。
「何度もカイリに死んでもらおうと思ってたのになぁ……まさかカイリが、あんな力を持ってるなんて驚いちゃったよ。カイリが強すぎて全く死ぬ気配もなかったし……あの日、神様と約束しておいてよかった」
「神様……そんな、こと……」
「覚えてない? 私が神様に身体を譲った時だよ」
ナナを拾う直前、アリシアは俺を驚かせるために神様に身体を渡していたことがあった。
アリシアが神様と直接関わるとすれば、あそこだ。
「身体を渡す代わりに、私の願いに協力してって言ったの。カイリが死ぬ状況を作るために」
「だったら……なんで今なんだよ。俺を殺すだけならいつだって……」
「いつ、私が殺したいって言ったの?」
そこで俺は気づく。アリシアはずっと、カイリが死ぬことを願ってはいても、「自分が殺す」ということを望んでいるわけではないことに。
「私が殺しちゃ、ただの殺人じゃん。それじゃ満たされないの。そんなことじゃあ駄目なの。私の手の届かないところで、私じゃどうしようもない傷を負って、私の目の前で死んでほしいの。私は助けたくても助けられない。だからこそ、良いのよ」
「……」
「自分の身体を傷つけることに快感を覚える人っているでしょ? 私はそれと同じなの。ただ、私が傷つけるのは、心の方。愛する人が死ぬのって悲しいでしょ? 苦しいでしょ? それは私も同じよ。私だって苦しいの。今も、胸がはちきれそう。だけど……だからこそ、その苦しい気持ちが快感なの!」
「……」
「カイリを助けることもできず、目の前で死ぬのを見ることしかできない。そうやってもっと私を悲しませて、もっと私を苦しませて! 私の脳を、身体を、心を壊すほどの辛さを味わわせて欲しいの! 悲しければ悲しい分、苦しければ苦しい分、すっっっっごく、気持ちが良いの!」
開いた口が塞がらない。アリシアの言っていること一つ一つが理解できない。
……狂っている。どう考えても、正常な人間の考え方じゃない。
「狂ってるよ、アリシア……」
「そうかな? 愛って、こういうものじゃない?」
歪んだ愛を一心に向けてくる。それが、とてつもなく気持ち悪かった。
でも、アリシアにとって、愛というのはこういうものなのだ。
一方的で、自己中心的で、理不尽なもの。
「だから、ナナちゃんが一緒に来てくれた時は嬉しかったな……これから数多くの兵士に襲われて、私とナナちゃんじゃカイリを守れない。きっとカイリは私の目の前で殺されて、私は涙を流しながらカイリの綺麗な死に顔を拝むの。それだけを、夢見てたのに……」
いつか、俺がアリシアに言った言葉が蘇ってくる。
ナナが厄介ごとに俺とアリシアの二人を巻き込んでしまったと言って謝った時。
『良かった。アリシアがナナのことを恨んでたらどうしようかと思った』
『恨まないよ。むしろ……』
あの時、アリシアはその言葉の続きを話さず、話を逸らそうとしていた。
今なら、あの言葉の続きが分かる。
「そろそろ喋るのも辛くなってきた頃合いでしょ? まだまだナナちゃんは帰ってこないね。怖い? 苦しい? 辛い? 気持ち悪い? 寂しい? 死にたい? 死にたくない? ねえ、カイリの気持ちを聞かせてよ」
「アリシアの言ってること、なにからなにまで訳わかんねえって思ってたけど……一つだけ、分かることがあったよ」
「うーん、それって、なんのこと?」
「ナナがまだ来ないってアリシアが思い込んでることが、間違いだってことだよ」
どうしてか、詳しい理由までは分からないけど、俺はナナの居場所を感じている。ナナが近くにいることが、感覚で理解できる。
アリシアが背後を振り向く。その視線の先には、アリシアとイオリが立っていた。
「アリシアさん……貴方は、ずっとなにを言っているんですか……?」
「なんで……ナナちゃんが、間に合ってるの……?」
完全に油断していたアリシアは、突然のナナの登場に驚きを隠せないでいた。
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