第24話 「ダンジョン踏破」
「ありがとう、ナナ。これでまた戦え……あ、駄目だ」
「そういえば、カイリ武器出せなくなったんだったね」
色々起こりすぎてすっかり忘れていたけれど、別に俺の怪我が治ったからっていって状況が良くなったわけでもない。
だって、俺の剣――デュランダルは出せないのだから。
「カイリ様、あのおっきな剣出なくなっちゃったんですか!? ど、どうして!?」
「分かんねえ。急に出なくなっちまったんだ」
俺はナナに剣を出せなくなったと証明するために、いつも通りの言葉を唱える。
「限定解除」
俺の手の中は空っぽ――じゃなかった。
「……出てますよね、剣」
「……なんか、出てきたな」
出せました。ちゃんと俺の手の中にデュランダルは存在している。
なんでだよ!?
俺の頭は疑問符でいっぱいだった。
「まあいいや、剣が出たなら戦いに行こう。もう救助の必要はないから遠慮はいらねえ」
敵を倒すのより人を助ける方が難しい的な話ってよく聞くけど、それは本当だったんだな。
人を殺すより、負傷者をいっぱい出した方が戦いでも勝ちやすいらしいし、全員を助けようとすると色んな枷ができてしまう。
「あいつをぶっ倒してみんなで帰るぞ」
俺はデュランダルを携えて、再び最下層へ降りていった。
◇
ウロボロスは俺が逃げる直前と全く変わらない体勢で待っていた。
「……で、なんでイオリちゃんは抱えられてるの?」
――俺は脇にイオリを抱えて立っていた。
「なんかウロボロスって一体だけじゃないっぽいんだよな。俺が攻撃食らったのも不意打ちだったし。だからイオリに見ていてもらえれば安心かなって思ってさ」
「確かにイオリちゃんはスキルの影響で目がいいですけど〜あと可愛いですけど〜なんかこの持ち方されるの可愛くなくて嫌〜」
「だってお前見えてても避けれねえんだもん」
「お姫様だっこでお願い☆」
「どうやって武器振るんだよ」
そういや某大作RPGの初代主人公は姫を抱っこしながらダンジョンで戦闘してたりしたな。
俺には真似できねえ……
「とにかく行くぞ」
「あい~」
イオリの返事が適当すぎる。
俺は正面のウロボロスを見据える。
近づいてはいけない。触れてもいけない。できることは少ないけれど、どちらにも当てはまらない攻撃なら通るはずだ。
俺は一番最初にデュランダルを出現させた時を思い出す。あの時にヒントがあったはずだ。
俺は剣を全力で振る。すると押し出された空気が砲弾のように飛び、ウロボロスの身体に風穴を開けた。
……やろうとしていたことはできたんだけど、ここまでする予定じゃなかった。
初めてこの剣を具現化させた時、思い切り振ると衝撃波と風圧で兵士を吹き飛ばした。あれと同じ感じで吹き飛ばしてやろうと思ったんだけど、まさか穴が開くとは。
「とりあえず一体目……か?」
ウロボロスは二体いたはずだから油断できないけど、一匹減らしただけでも大分楽になると思う。
俺はウロボロスの死体に近寄って、違和感を覚える。
「……空洞?」
ウロボロスに空いた穴。そこからウロボロスの体内を覗くと、そこは完全な空洞だった。
内臓が一つも入っていないのは、いくらなんでも変だろう。
「もしかして……」
「カイリ、後ろ!」
咄嗟に俺は飛びのいて避ける。さっきまで俺の立っていた場所に蒸気のような物体が押し寄せ、地面を溶かした。
「俺が食らったのはアレか……」
体液を蒸気に変えてこちらを溶かす。こんなの、知ってなきゃ避けられない。
「ウロボロスは、二匹いたわけじゃなかったんだな」
「カイリ、どういうこと?」
「蛇は――脱皮するんだよ」
つまり、さっき俺が倒したのはただの「抜け殻」だったってことだ。抜け殻なのに動いて攻撃してくる辺り、流石異世界。俺の常識を超えてくる。
「つまり本体はまだ生きてる。俺を襲って来た奴を倒さなきゃ、終わりじゃねえ」
上記の飛んできた方向を見ると、もう一匹のウロボロスが俺を狙っていた。
「カイリ、視えたよ。あいつの弱点。さっきまでは全く見えなかったんだけど、アイツのは見えた。多分、本体だからなのかも」
「なるほどな……イオリはそういうのも見えんのか」
「あいつの弱点はおでこにある宝石みたいな物質だよ」
ウロボロスの両目の間にある紫色の宝石。
魔物にはコアがある。魔物を動かす動力源だから、それを壊せば身体を維持できずに崩壊する。
「うおおおおおお!」
俺はまた剣を振る。遠距離から衝撃波を飛ばし、そして、ウロボロスのコアを破壊した。
「――ッ!」
ウロボロスは大きな叫び声を上げて絶命。
「やった、か……」
思わずそう呟いた。
俺の読んでた漫画だと、この台詞が出る時は大抵やれてないけど、なんとなく言いたくなる気持ちは分かった気がする。
ウロボロスは灰になって消えた。復活しそうな雰囲気もない。
『ウロボロスの生命活動は完全に停止した。カイリ、キミの勝ちだ』
「神様っていつも急に現れるな」
『……そうだね。ただ、今回は謝りに来たんだ。カイリが食らったウロボロスの攻撃、あれはボクも知っていた。だから、教えればカイリの身体が溶けることもなかった。だけど、言えなかったんだ』
「アリシアとの約束だろ? 俺が死ぬ状況を作るのに協力したって。だから敢えて黙ってたんだろ。別に責めねえよ」
『……そうか』
また、神は黙ってしまった。なにを基準に出てきたり引っ込んだりしてるんだろう。付き合いはそこそこだけど、全然生態を知らないな。
俺は上に上がってナナとアリシアの下に向かう。すると、助けたカナ、シャル、ソニアが起き上がっていた。
「ようやく起きたんだな。おはよう。もう全部終わったぜ」
俺は抱えたイオリを地面に降ろして、挨拶しておく。
ハルトのパーティーにいた時はまともに話せなかったからな。今回はちゃんと会話が出来そうだ。
俺は三人に向かって言う。
「――一緒に帰ろう」
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