第19話 「奇襲」

 カナの応急処置をアリシアに任せ、俺はハルトの元に向かう。



 すると、ハルトのパーティーが壊滅していた。

 血まみれで倒れ、ひたすら呻き声だけを上げている。


 彼らの前には見上げるほどの大蛇。鱗が棘のように尖っていて、体液が地面を溶かしている。

 眉間の辺りに宝石のような物体が輝きを放っていた。


「こいつに近づいたら俺も巻き込まれそうだな……」


 体液の蒸気ですら物を溶かす作用があるようで、ハルトの武器や防具はほとんど溶かされていた。


 ちょっと身体まで溶けてるように見える。


 勝負にすらなっていない。ただ正面に立っただけで、ハルトたちは敗北したのだ。


「――限定解除」


 いつも通り、俺は神の剣を出そうとする――が。


「……あれ?」


 俺の手に、デュランダルはなかった。


「なん、で……」


「あれれー、カイリどうしちゃったの?」


「なんか、剣が出ないんだ。いつもなら、一言で呼び出せてたのに」


 今までよくわからず使っていた力だったけれど、こんなところで急に使えなくなるというのはおかしい。


 これまでと、今。一体なにが違う……? どうして、この力は使えなくなった……?


「一旦、こいつらを回収して退こう!」


「らじゃらじゃ! じゃ、スキルを発動させちゃうよー!」


「スキルって、なにをするつもりだ?」


「イオリちゃんの目で敵の攻撃を見極めるの。集中するとどんな攻撃も止まって見えちゃうから! マジで!」


「じゃあなんでゴーレムに負けたんだよ……」


「見えるとは言ったが避けられるとは言ってない!(キリッ!)」


「自信満々に言うことじゃねえ!?」


「ということで、イオリちゃんが敵の攻撃を視るから助けてね! 後は任せたぜっ☆」


 神の使徒としての権能で身体能力も上がっていて良かった。

 流石になんの能力もなしにイオリを助けつつ攻撃を避けるなんて不可能だった。


「右から尻尾!」


「了解!」


 俺はイオリを抱えて左へ走る。

 音を立てて迫る太い尻尾が、いつのまにか迫ってきていた。


 全く気づかなかった。イオリがいなかったら危なかったかもしれない。


 俺は尻尾から逃げつつ、倒れているハルトたちを回収しようとするが……


「遠い……っ!」


 ハルトは恐らく突撃していったのだろう。そのせいで、ハルトだけウロボロスとの距離がやたらと近い。


 他の女子二人―― シャルとソニアはウロボロスからは遠く、最下層の入り口から近い。

 二人だけなら……恐らく助けて逃げる分には問題ない。


「くそ……剣さえあれば……」


 ウロボロスを倒してしまえば悩むことなんてないのに。

 駄目だ。まずは一人ずつ助けていこう。


「一番近いのはソニアの方だな」


 ソニアは黒髪ロングの眼鏡っ子。委員長タイプの女の子だ。

 一度決めたことは譲らない的な性格が、ハルトに心酔しているせいで逆効果。洗脳状態みたいになっていた。


 パーティーでは支援職を担当していて、身体強化のバフを得意としていた。


 後衛だから一番後ろの立ち位置に慣れているのだろう。今回はそれのおかげで助けやすい。


「カイリ、上!」


 ウロボロスの体液が降ってきていた。俺がそれを避けると、さっきまで立っていた地面が溶ける。


「まずは、一人目」


 ソニアを抱えて上層への入り口に戻った俺は、イオリにソニアを任せる。


「ソニアを連れて戻ってくれ。上でアリシアが応急処置をしてくれるはずだから、終わったらこっちにきてほしい」


「イオリちゃんがいなくて大丈夫なの?」


「まあ、なんとか生き延びるさ」


 イオリが視ていてくれれば初見殺しとか不意打ちにも対応できるけど、多分もう見てない攻撃はないんじゃないか。


「今のうちに、シャルの方も入り口近くに置いておきたいな……」


 シャルは騎士の女の子だ。ソニアよりウロボロスに近い位置にいるのは、前衛職だからだ。


 硬い鎧で身体を張ってハルトの護衛をしていた。


 今は鎧もかなり溶かされ、自慢の防御力もほとんどない状態。だいぶ危険だ。


 ウロボロスはまだ余裕があるせいか、直接俺を仕留めにはこない。


 攻撃も激しくないし、このままなら助けられる……と、思っていたのに。


「――は?」


 横から、大きく開いた口が迫っている。

 正面のウロボロスはその場から動いていない。


「二匹目」のウロボロスが現れていた。

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