第18話 「ウロボロスのダンジョン」
馬車ですらダンジョンに着くのは時間がかかった。結局、全員で行くことになった。
馬車の中、俺の頭の中に声が響いてくる。
『本当に、戦うつもりだったんだね』
「嘘だと思ってたのかよ。せっかく俺は力をもらったんだ。助けられるやつは助けたい」
『そうだね。キミはそういう奴だった。キミの、そういうところがボクは――』
「そういうところが?」
『おっと、そろそろダンジョンに着く頃合いのようだよ』
「今露骨に話を変えたよな」
『全く、隙あらば女の子の秘密を暴こうとするのは野暮だよ』
神様からの俺の評価が下がっているような気がする。
『ダンジョンの中に、人間の気配を感じる。随分弱っているね』
「間違いなく、ハルトたちだな……」
『死んではいない。けど、このままじゃ確実に殺されるね。とてつもない魔力の魔物がいる』
「大魔獣ウロボロスってやつだろ。名前からして、どんな奴か大体見当はついてるけど」
『へぇ……お察しの通り、蛇型の魔物だ。牙には毒があるし、皮膚の表面についてる粘着性の液体ウロボロスの体液に触れるとアレルギー反応を起こして死に至る』
「思ってたよりやべえ奴なんだな……」
ウロボロスといえば自分で自分の尻尾を飲み込む蛇の絵を思い浮かべた。
けど、神の言い分からしてもっとやばいのか。
『不安かい?』
「いいや、俺には神様がついてんだ。頼もしすぎるくらいだよ」
『あぁ、そうかい。本当に――忌々しいよ』
神の声にいつものような無感情さはなかった。そこまで神はウロボロスに嫌な思い出があるのか。
もしかして、神の天敵だったり……なんて、そんなわけないか。元の世界におけるウロボロスにもそんな逸話はなかったはずだし。
「着いたみたいだ。じゃ、頑張って来るよ」
『……そうだね』
馬車から降りた時、俺はナナに言う。
「ダンジョンの中に入ったら、安全地帯はない。だから、外で待っていてくれ。ダンジョンの外に魔物が出ることは稀だし、ダンジョンの中よりは安全なはずだ」
それに、街からも離れているからナナの追手に見つかることもないだろう。
ダンジョンの中を俺は迷わず走り抜ける。アリシアの「サーチ」による案内で道中敵と出会わないようにしてもらったが、何度か雑魚とエンカウントしてしまう。
その度、デュランダルで全部吹き飛ばしていく。
そして、ダンジョンの五層にたどり着いた誰かとぶつかる。
「きゃあ!」
「いてっ」
正面衝突したのは女の子だった。咄嗟に手を伸ばして倒れそうになった女の子を支える。
見覚えがある。そうだ、この子は……
「ハルトのパーティーにいた子、だよな……」
以前ハルトと再会した時のことを思い出す。
『無能なんだから礼儀くらいは考えてほしいよね~。あ、無能だからそんな簡単なことも分かんないのか~! きゃはは!』
俺を馬鹿にしたような発言をしていた女の子だった。名前は、カナと言ったはずだ。
生意気な態度が目立った子だったけど、今は見る影もない。
「ひぃ……!」
俺を見るなりビビり散らかしている。ここまで変わるとむしろ怖いな。
「ご、ごめんなさい!」
「――へ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい今までの非礼は謝りますから……助けて下さい……っ!」
涙で顔をびしょぬれにして土下座してくる。あまりにいきなりすぎて思考が追い付かない。
「許してくださいなんでもしますから! せめて、せめて……シャルとソニアだけでも……」
ハルトの取り巻きだった女子の残り二人だ。最悪自分は助からなくても良いと思ってるのか。あと、ハルトも。
「ハルト様に、無理やり連れてこられて……私たちは嫌だって渋ってたのに……ついてこないと、捨てるって言われて……それで、仕方なく……」
カナの声が震えている。
「だから、せめて二人だけは……嫌がってたの! 本当に! だから……だからっ!」
「――分かった」
俺の言葉に、カナが顔を上げる。
酷い顔だ。顔が土で汚れているし、涙と鼻水で化粧も落ちている。
俺はこの子に酷い扱いを受けた。だけど、こんな顔晒してでも仲間は助けて欲しい、なんて言われたんだ。過去がどうあれ、選択肢は一つしかない。
「助けるよ。誰も――見捨てなんかしない」
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