第7話 「冒険者登録」
「配信って……あの?」
「そうです! 特にアウスト王国では配信に力を入れているので、特別な功績を出せば一気に名を上げることができます!」
「それだったら俺も配信やってみようかと思ってたし、ちょうどいいや」
「配信するつもりだったって、カイリ配信機材持ってたの?」
「過去に一回やったことがあるからな。アイテムボックスの奥底にしまってるから取り出すのが面倒だけど」
アイテムボックスは異空間に道具をしまえる便利な魔法だ。この世界では誰でも使えるものである。
「配信をするって言ったらやっぱダンジョンものだよな」
「私、配信ってあんまり見たことないんだけど、ダンジョン行くのが人気なの?」
「そうそう。魔物と戦ってるところの方が派手で見応えがあるし」
「あ、配信するのに一番の問題があったよ」
「ん? なんだ?」
「多分私たちも追われる身になるよね。それで配信してたらすぐバレちゃうんじゃ……」
「無名の間は見つからねえと思うぞ。配信してるのって今やかなりの数いるし。見つかるくらい名が売れる頃にはそれなりの実績を積んでるから、国王も迂闊に手出しはできないはずだ」
そもそもナナを極秘で始末しようとしてる辺り、この行動が問題だという自覚はあるはず。
ナナの殺害を公にできない以上、有名になってしまったナナや俺たちに手を出せなくなる。
「だから問題ないと思う。でも、王様も馬鹿じゃないし、多分俺たちが思いつかない方法で追い詰めようとしてくるかもしれないけど……手っ取り早くナナを王様にする手段が配信しかない以上、やるしかねえ」
俺の決意を聞いて、ナナとアリシアが同時に頷く。
「じゃあ決まりだな。それで、ダンジョンに潜るには冒険者登録が必須なんだけど、ナナの分もやらないとな」
「それって時間がかかったりするんですか?」
「いいや、書類を書くだけだからそんなに時間はかからないと思う。……そういえば、冒険者登録には本名を記入しないといけないんだけど、ナナは追われてるし、偽名を作った方がいいかもな」
「それなら安心してください。そもそもナナっていう名前自体、偽名ですから」
「そうだったんだ!?」
「わたしの本名はナナリィと言うんです。逃げる時に本名は使えないと思って……」
でも、偽名の作り方、雑すぎないか……?
こういう年相応のポンコツ感があるところもナナの魅力だよな……
変な方向に思考が向かいそうになっている。俺は咳払いをして思考を切り替える。
「ともかく、偽名もあるんだったら問題ないな。じゃあギルドに行こうか」
ナナの手を繋いで、俺たちはギルドへ向かう。
ギルドに着くと、受付嬢が笑顔で迎えてくれる。
ピンク色の髪をした幼い見た目の女性だ。噂では冒険者の中でファンクラブができているらしい。
「いらっしゃいませ。あ、カイリさんとアリシアさんですね〜」
「俺たち、今日は冒険者登録してもらいたくて来たんだけど」
「あれ、お二人は既に登録なさってますよね?」
「俺たちじゃなくて、この子なんだ。ナナ、出てきてくれ」
俺の背中に隠れるように立っていたナナに呼びかけると、恥ずかしそうに前に出てくる。
「わぁ、可愛い子ですね! もしかして、カイリさんのお子さんですか?」
「ちちち違うよ!? そもそも、相手がいないし……」
自分で言ってて悲しくなってきた。いや、彼女とかできないわけじゃなくて、作ってないだけだし!
……心の中で意地を張っても虚しくなるだけだ。
「私でよければ……いつでも、なのに……」
「あ、ごめん。周りの音がうるさくて聞こえなかった。なんて言ったんだ?」
「な、なんでもない、です……よ?」
受付嬢がなにか言っていたのは分かっているのに、ギルド内の冒険者の声で全く聞こえなかった。
もしこれで重要なことを言ってたらどうするんだよ……!
「……は、はい」
ナナ、が緊張した返事をする。俺と会った時は距離感が近かったのに、案外人見知りなのだろうか。
なら俺と会った時はなんであのテンションだったのか、本当に不思議だけど。
「じゃあこちらにお名前と居住地と出身地をお書きください。あと、持っていれば、スキルのことも。代筆でカイリさんが記入しても大丈夫ですよ、保護者枠として」
「確かに、今の私たち、家族みたいに見えるかもね」
隣で笑うアリシアが俺とナナに交互に視線を向ける。
「ついでですし、適性検査もやっちゃいますか?」
受付嬢が当たり前のように言った言葉に、ナナは聞き覚えがないようだった。
「適性検査っていうのは、簡単に言えば才能を調べるものです。武器を使った戦闘が得意なのか、スキルを使った戦闘が得意なのか。そういうのを調べる検査です」
事前にどこが成長しやすいのか自分で知っておけば得意な分野だけ伸ばすことができる。
逆に、適性がない分野を敢えて極めようとする生き方を選ぶ人もいるわけだけど……
「俺の時はなにも反応しなかったな。無能力だから仕方なかったのかもだけど」
「今、カイリさんも一緒に測ってみませんか? どうせ無料ですし」
「それならついでに測ってもらうか」
ナナが書類を書き終えるのを待って、俺たちは適性検査へと向かった。
ちなみにナナの書く文字は超綺麗だった。今まで見てきた中で一番上手かもしれない。流石は王族だ。
「では、この水晶玉に手をかざしてください」
台座の上に乗せられた透明な水晶玉。そこに魔力を流すと
水晶玉にはスキル適正と戦闘適正の二つの種類がある。
前者は文字通り、スキルがどれだけ強力に成長するかを示す。後者はスキルを除いた戦闘能力の伸び代を表している。
「まずは戦闘適正から始めましょうか。アイリちゃん、ここに乗ってね」
ナナは身長的に水晶玉に手が届かないから、台を用意してくれた。
そして水晶玉に魔力を流し込むと淡く光を発した。
水晶玉が放つ光の強さによって適性が分かれる。
「うーん、アイリちゃんは戦闘能力の伸びがあんまり良くなさそうかもですね。次はスキル適正行きましょう」
ナナが元々戦闘を得意としていないことは分かっていた。国王の刺客からも逃げてたしな。
二つ目の水晶に手をかざすと、部屋中に光が溢れ出す。
「アイリちゃん、スキルに関してすごい才能がありますよ! こんなに光ることなんて滅多にないのに!」
受付嬢が歓喜の声を上げる。
「わたし、すごいんですか! やったあ!」
「早くスキル鑑定士さんのところに行ってどういうスキルか調べてもらった方がいいです! 過去の英雄にも負けない冒険者になれるかもしれませんよ!」
ナナの才能が発覚し、興奮を隠せない様子の二人。受付嬢に関しては過去に何人も適性検査をやってきているだろうに、ここまでナナに期待を寄せているのは、やはり才能が規格外すぎたんだ。
「この次にやるのか……やり辛えよ」
冒険者を始めたばかりの頃もやったことがあるが、俺はどちらの水晶玉も光らせられなかった。
そんな人間が才能溢れるナナの次を任される……これで光らなかったら気まずすぎるだろ。
「そ、そんなに見なくていいって!」
「カイリ様の勇姿をしかと目に焼き付けます!」
期待が重すぎるーー!
俺は若干冷や汗をかきながら戦闘適正の水晶玉に手をかざす。すると――
――バリン!
……嫌な音が鳴った。現実を直視したくなくて目を瞑っていたから、目の前でなにが起きたか分からない。
恐る恐る目を開けると、そこには。
「壊れた……?」
粉々に砕けた水晶玉が、辺り一面に広がっていた。
「いや、あり得ませんよこんなこと!?」
ギルド内に、受付嬢の声が響き渡る。
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