第6話 「配信者、始めます」
「お、王女様!? なんで、そんな人が追われてるの……?」
「分かりません。……お父様は急に変わってしまわれたので……」
ナナの泣きそうな顔を見てると俺も悲しくなってくる。
「お父様は理想の王と世間で囁かれているほど、立派な政策を行ってました。それなのに、まるで人が変わったようにわたしを敵視して……ごめんなさい。カイリ様と、アリシア様を巻き込んでしまって」
「大丈夫だよ、気にしてない。アリシアも……大丈夫だよな?」
「うん。結果論とはいえ、カイリが追っ払ってくれたからね」
「良かった。アリシアがナナのことを恨んでたらどうしようかと思った」
「恨まないよ。むしろ……」
そこでアリシアはなにかに気づいたように口を閉じる。
「ううん、なんでもない。それより、ナナちゃんの話の続きを聞きたいな」
「それで、その……今のお父様はなにか違うんです。わたしの命を狙うような人じゃなかった。今のお父様は無理に税を増やしたり、人攫いまがいのことをしたり、酷い有様なんです。だから……」
そこでナナが大きな瞳に涙を浮かべる。それを手で拭って決意を秘めた声を上げる。
「わたしが、変わってしまったお父様の代わりになろうと思うんです」
「それって、ナナちゃんが王位を継ぐってこと? 今の王様を失脚させて」
「そうなりますね……元々、お父様はわたしを次期後継者にしようとしていましたから、小さな頃から教育を受けています。かつてのお父様のようになるのはまだ少し時間はかかるでしょうが……そこで、カイリ様とアリシア様に助けて欲しいのです」
「それはいいけど……どうしようか。俺たちは立場が高いわけでもないし、王様目指すってそう簡単には行かないと思うんだけど」
「アウスト王国は過去の英雄に敬意を表し、王族でなくても王位を継承できる仕組みがあるんです」
この世界のことに詳しくないから、そんなシステムがあるなんて知らなかった。
「どういうことだ?」
「千年前に邪神を封印した五人の英雄がいたことは常識ですし、知ってますよね。そして英雄たちのリーダーであったシオンという方が作った国こそがアウスト王国です。そのため、かつての英雄を思わせるほどの実績と人望を積んだ者が現れれば王位を譲ることも可能なのです」
「なるほど……って、過去の英雄とか当たり前みたいに言うなよ!? なんだよそれ! 初耳なんだけど!」
知ってますよね、じゃないんだ。いきなりそんな情報量をぶつけられても混乱するって。
「そうなんですか……大体物心つく時からこの話は聞かされている筈なんですけどね……」
「確かに、私もその伝承は聞いたことあるね。ただ、それが王位継承の話と繋がってるのはびっくりしたけど」
「じゃあ知らないの俺だけかよ」
元々この世界の住人ではないとはいえ、ある程度知識をつけてきた自負はあったけど、そんな常識的な知識も知らなかったと言われると少し悲しい。
「過去の伝説だか伝承だかの話は置いといても、王位を取り返せるかもしれないってのはデカいな」
「そして実績も人望も両方を獲得できる方法をわたしは知ってます」
「それは――配信です!」
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