言葉隠し

陰陽由実

言葉隠し

最初に言った言葉は何のためだったか。

気づけば事実と違うことを口が踊って紡いでいた。

矢継ぎ早に出てくる事柄。

しかし平然を装って。隠した事がバレないように。

はた、と気づけば自分の周りに嘘の防壁が築かれていた。


次に言った言葉は嘘をより本当にする言葉。

一度貼り付けてしまった金箔は、下に塗り固められた黒い漆の姿を隠すように。

硬く硬く、強く強く、圧をかけて押し付けて。

絶対に剥がれ落ちないように。

嘘の防壁が、また一段と高くなった。


何度目とも分からない言葉を紡いだ。

もう原型がわからなくなってしまうほどに重ね張りした金箔。

何を守っていたかわからなくなってしまうほどに高くなった防壁。

この賞賛と、自分を見つめる輝かしい視線がないと。

自分を保っていられない。


どこから漏れた?

どこの漆が剥がれた?

誰 が 漏 ら し や が っ た ?


ボロボロと足元に積もっていく金箔と漆の屑。

どんどん剥がれるスピードが早くなっていく。

ちょこまかとネズミのように立ち回って、硬い前歯でネズミのように刈り取っていく奴がいる。

どうやっても修復できない。

テープも。

のりも。

接着剤も。

セメントも。

溶接も。

漆を継ぎ足したって、何を使ったってくっつきやしない。

とうとう何も無くなってしまった。


……何も無くなってしまった。

自分を自分たらしめていたもの全部。

剥がれ落ちてしまった。


だって仕方がなかった。

だって仕方がなかった!

僕は、僕だけじゃ弱いんだ!

何かを鎧のようにまとわないとだめだったんだ!

そうじゃないと誰にも見向きされない!

記憶の片隅にだって置いてもらえない!

僕という存在を認めてもらえない!

だって僕には何もないんだからさぁ!?

ちょっとくらいならみんな漆塗って金箔貼りつけてとかどうせしているくせに!

少しくらい偽りを着ないとだめなんだよ!!

そうじゃないと、僕なんかは平凡すぎて、何も、特徴がなくって。

何も……

何も…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言葉隠し 陰陽由実 @tukisizukusakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ