第2話 炎の恋情

「――それで?」

慧依えいの追求は止まるところを知らない。

「火曜日は?」

「――ちょっとぼーっとしてたら火傷した」

「えっ!? 火傷!?」

 慧依はと僕の手を掴むとめつすがめつ見回す。

「ちょっと、怪我したんなら言いなさいよ、ミチくんそーいうの雑だから、引っれになったりするよ!!」

「大したこと無ぇよ。もう殆ど治ってるだろが」

「だからって――」

 よしよし、これで後はなんとかなりそうだ。

「まったくもぉ――で、水曜は?」

 まーだ忘れとらんかったんかーい!!


***月***月***火***水***木***金***金***


「す、水曜は……」

「水曜は?」

「水曜日どうでしょう?」

「いーからさっさと言う!!」

 慧依の眼が何時にも増して冷たい。

「――H-海岸に行ってた」

「海に!? なんで!?」

「丸一日泳いでたら脚が攣った」

「ちょ!? ホントに何やってんのミチくん!?」

「いーだろ別に」


「まぁいいわ――じゃ木曜」

 もうここまで来たら無理か……仕方が無い。

「T-山に行ってた」

「今度は山ぁ!?」

「いちいち驚くなよ」

「山で何やってたのよ?」

「木登りしてたら落っこちて捻挫した」

「ちょ、今度は捻挫って、ちょっと足見せて足!!」

 いきなり屈み込んで僕の足を掴もうとする慧依。

「わ、コラ、やめ、もう治ってるってば!!」

「こーいうのは放っとくと残るんだからね?」

「だから大した捻挫でも無ぇよ!!」

「ホントにぃ……?」

 疑わし気な慧依のジト眼が痛い。


「で、金曜は?」

「……言わなきゃダメか?」

「はーいキリキリ言う!! 男の子でしょ!!」

「……その"男の子"の大事な処をぶつけて悶絶してた」

「――へ!? 大事な? 処……?」

 一瞬呆けたように考え込んだ慧依だったが、それの意味する所に思い至り、顔面が朱を刷いたように真っ赤になる。

「ちょ!! 何言ってくれてんのよ仮にも女の子の前で!!」

「お前が言えっつったんだろうが!!」

 共感性羞恥と言う奴で慧依に釣られてこちらも真っ赤になった僕も負けじと言い返す。

 真っ赤になった顔を互いに見合わせ、暫くぜいぜいと息を吐く二人。


「ま、まぁ良いわ。じゃ最期、土曜」

「色々あって疲れてたんで一日畑で土いじりしてたら蛇に噛まれた」

「こ、今度は蛇ってちょ、ちょっと、毒とか!!」

「カナヘビだから毒は無ぇよ。いちいち心配し過ぎ」

「だからって――」

「お前は俺の母親かw」

 むぅーと頬を膨らませてこちらを睨む慧依えい


***月***月***火***水***木***金***金***


「――で、結局」

 気を取り直したらしく、再び仁王立ちになる慧依。

「理由は一応判ったけどさ、なんでそんな無茶ばっかしてた訳?」

「――だから、最初にいったじゃねぇかよ」

「最初?」

 と首を傾げる慧依。

だよ」

「だからなんで?」

「一時の気の迷いかもしれんと思ったから」

「気の迷い? 何の?」

「――なぁ、やっぱコレ言わなきゃダメ?」

「ここまで来て往生際が悪いわよ!! さぁお姉さんに洗いざらいぶちまけなさーい!!」

 えへん、とドヤ顔で宣う俺より1歳ひとつ上の彼女。まぁ背は俺の肩までも無いし童顔だからどう見ても年下にしか見えんのだがw

「――またなんか悪いこと考えた!!」

「ホントに要らん時だけ鋭いなお前――だからこっちはこんなに……」

「こんなに?」

「あーもう!! じゃ言ってやらぁ!! って自覚しちまったからだよ!!」

「――へ? 好き? って――えぇぇぇぇぇ!!」

 再び盛大に茹で上がる慧依。はん、こんだけハッキリ言えば解るか。

「そりゃお前とは物心ついた頃からの付き合いだから、もうほぼ姉弟っつーか家族みたいなもんだし、今更何でって思うけど」

「……」

「自覚しちまった以上、本気なのかどうかハッキリするまで顔合わせらんねーよ流石に!!」

「……」

「だからってのはその通りだ。心配掛けて悪かったな」

「……」

 さっきから慧依が静かだ。

 あれ、と思って見ると、茹で蛸になったままで俯いている。

「――あ、こっちで勝手にうだうだやってただけだから、お前は気にすんな、じゃぁな」

 帰ろうとしたら袖を引っ張られた。

「――ズルい」

「はぁ!? もう洗いざらい喋ったぞ!!」

「――ズルいよ、ミチくん」

「いやだから――」

「私だって――」

 掠れ声でそう言って僕を見上げた慧依の眼には涙がキラキラと滲んで――。






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1weekの言い訳 ひとえあきら @HitoeAkira

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