いいわけ無用!

楠秋生

第1話

 部活帰りの春の夕暮れ。隣の家の門の前で女の子が二人おしゃべりしている。幼馴染の朱里あかりとその親友の花菜はなちゃんだ。

 がさつな朱里と違って、花菜ちゃんは名前の通りお花のようにかわいらしい女の子だ。ふわふわと柔らかそうな髪にほんわり柔和な笑顔は見てるだけで癒される。


「おー、お二人さん。ただいまーって、え? 花菜ちゃん、泣いてたの?」


 見るからに真っ赤に泣きはらした目をしている。


「……なんでもないの」

「なんでもないことないだろ。朱里とケンカでもした?」

「ううん、違う」


 花菜ちゃんはそのまま俯いてしまう。


「お前、いじめたんじゃないのか?」

「何言ってんのよ。違うわよ。良太には関係ないからもう帰りなよ」


 朱里は怒ったような声で言い返し、しっしっと手を払う。


「ちぇっ。かわいくねぇなぁ」


 横を向いてぼそっと呟く。いつもなら聞き逃さず、すぐに言い返してくるのに何も言ってこない。あれ? と思って朱里に目を戻すと、なんとも悲しそうな顔をして今にも泣きだしそうだ。え? 朱里が?

 慌てた俺が、フォローの言葉を発しようとした瞬間、背後から殺気を感じた。


「りょーおーたー?」


 押し殺したような怒りを抑えたあねきの声。あ、まずい。これってやばい状況じゃ?


「女の子を泣かせるなんて言語同断!」

「ちょ、ちょっと待って」

「いいわけ無用!」


 あねきは俺の言い分も聞かず、すっと腕を伸ばし俺の胸ぐらを掴む。よける間もなくズダンッときれいに一本背負いをかけられた。


「痛ってぇ……。頭ごなしに決めつけんなよ!」


 睨みあげた俺の視線の先、あねきの肩越しに見えたのは、あっかんべする朱里の顔。


 あっ、こいつ、まさか……。


 隣の花菜ちゃんは、あんまりびっくりして涙は引っこんだようで、それはよかったけど。




 二人を泣かせたわけじゃないとあねきの誤解をといて謝罪を受け、駅までUターンして花菜ちゃんを送った帰り道。


「お前絶対わざとだろ」

「お弁当のからあげ取った良太が悪いんじゃん」


 朱里がぺろっと舌を出す。


 そんなことで! っていうかあれは、お前のだから、なんだぞ。やきもちでも焼いてくれたんならまだしもさ。


「勝美姉さんが『いいわけ無用!』って投げ飛ばしてくれるの、すっきりするのよね~」

「お前なぁ。あれ、結構っていうか、かなり痛いんだぞ」

「し~らない」


 朱里は素知らぬ顔で口笛を吹いてそっぽをむいた。


「デレデレするからじゃん」


 口笛が途切れたほんの一瞬、ぽそっと聞こえたのは気のせいか?


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