第50話 ミシエルとレイアと幼子

「ミシエルか。あの者、出世しおったのか。」

「やはり知っておられるのですね。」

予想が当たる。2人は知り合いだった。


「我が赤子を抱いて、根城の奥に向かう途中、魔物に襲われて

瀕死になっていた魔術師がおった。そやつがミシエルと名乗っておったわ。」


やはりだ。レイアは黒き竜の王アリルレイア。

そのレイアが抱いていた赤子がアリール。

ミシエル御大はその2人を目撃していたのである。


「その魔術師は瀕死の重傷であったが、赤子が発した”慈母の癒手キュアオブホーリー”のスキルで完治しおった。」

「待ってください!その赤子はスキルで神聖魔法を扱うことが出来たのですか??」

「そうだな。そのときは我も驚いたよ。」

高らかに笑うレイア。

「赤子ゆえ、魔術は唱えられないからな。」


荒唐無稽とは思わない。

現に目の前には黒き竜の王アリルレイアが居るのである。

それにややもすると人間離れした達人の域にいるアリール。

何があってもおかしくはなかった。


「その魔術師は礼だと称して、今際の者どもの言語と世界の有様を教えてくれた。

その知識は今でも十分に役立っておるよ。我は礼に、変色した漆黒の輝水晶の破片をその魔術師に持たせ、出口へ同行してやった。無論、赤子を連れてな。」


「魔術師はとても感謝しておったよ。もしも地上に来られるときは、是非、お礼をさせてくださいとな。あれだけの魔術師だ。もしアリールを任せるのであれば、大学にいると思ってな。」


全て合点がいくルーエ。

「あとは、アリールがお主のような今際の者の実力者と交合って子を為せば、妖魔を滅する魔術を得られるかも知れなかったからな。大学、という場所はそういう意味でも都合が良さそうだったのでな。」


もはや、レイアに黒き竜であることを隠そうとする意志は見られない。


「どうだ?今の話を聞いてもまだ、交合いたいと願うか?」


レイアは含むような笑みを浮かべてルーエに質す。

ルーエは俯きながら、静かに頷くしかなかった。


レイアの話が終わったとき、再び扉をノックする音が聞こえた。

「ルーエ様。」

再びカリナ=ブルームの声。

「ノーザンテリトリー伯クォス=ビリニュス様からの使いが来られています。」

「北方辺境伯様の?」

「ルーエ様に至急で大切な用件がある、とのことです。」


ルーエは少し困惑する。今はレイア、黒き竜の王の化身が居るのである。

いくら辺境伯様からの至急の用件であっても、このお客を待たせることなど出来ない。


「内容は何と?」

「ルーエ様にしか話せないそうです。」

「少しお待ちしてもらう訳には?」

「大至急だそうです。」


「ルーエ。」

レイアが応接間のソファから声をかける。

「アリールの部屋に案内してくれ。」

もしかして、気を利かせてくれたのだろうか。

「今からですか?」

「アリールがどのように過ごしているか、興味を惹いてな。

そこな娘でも構わぬ。案内してくれぬか?」


ふと思う。

邪悪な闇の竜、と伝承では言われているが、実際は人間に一番好意的な古代竜なのではないか、と。

レイアの語った内容が真実であれば、6大古代竜の中で最も人間に親い。

もちろん、黒き竜の王であるレイアが嘘をつく理由など全くない。

彼女にとっては人間など、取るに足らない生き物でしか無いからだ。


「あ、はい。では…」

「ルーエよ、長々と済まなかったな。」

レイアはカリナに連れられて部屋を出て行く。

ルーエは玄関先に出て、ビリニュス家の使いを応接室に案内した。






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