第48話 アクアの呪い

筆頭執事ラダカンは1人の屈強な若者を呼ぶ。

「ヴォイス!」

「はっ!」

ヴォイスと呼ばれた若者、帝都近習長ヴォイス=オ=カ=メサーンは

アリールの前に進み出る。


「アリール様。この者に特徴を伝えてくださりませ。」

アリールはあの鍛冶屋で手に入れた、紋様のある剣を持ってくるように伝える。

「ルーエ様に言えば、どこにあるか分かりますので…」

「了解いたしました!」

「ヴォイス!近習衆ら3、4人でアリール様の邸宅へ向かえ。

くれぐれも丁重に扱い、粗相などするなよ!」

「心得ました。」


「アリール様、こちらへ…」

ラダカンが離れに案内する。

「クォス様はアクア様の自室にてお待ちです。」

ラダカンが前を歩き、アリールを案内する。

「こちらです。」

大きな扉をノックするラダカン。

中からクォスが出て来た。

「済まぬな。アリール殿。こちらだ。」

クォスがアクアの眠っているベッドに案内する。


「まだ薬が効いているようだ。しばらくは目が覚めまい。」

クォスはそう言うと、アクアの着ている召し物を慎重に脱がせ始める。

上着を取り、下履きを脱がせ、下着の上をめくりあげる。

ちょうど臍の下、下腹部あたりに黒い紋様が顔をのぞかせた。

鍛え上げられた腹部に、どす黒く禍々しい紋様。


「どうだ…わかるか?」

クォスは自分のときより、心配そうにアリールに尋ねる。

「全て見させて頂いても大丈夫でしょうか?」

クォスは一瞬、逡巡する。


「アリール殿。驚かずに聞いてもらいたい。」

「…何でしょう?」

「アリール殿は、アクアは男だと認識している、相違ないな。」

「…はい。」

本人がそう言っていたのを聞いている。

それを疑う余地はない。


「アリール殿…アクアは生来、女なのだ。」


「……!」

そう言うと、クォスはアクアの下を完全に取り払う。

男性にあるべきの、男性自身が存在していなかった。


「これが、アクアの呪いだ。」

「………」

「正確には、男性器も女性器も無い、無性別状態になったのがアクアの呪いだ。」


「…”深淵で踊る人形の術”…」

クォスの目が見開かれた。

この青年は、この術も知っている。


「そ、それで、この術は解呪出来るのか??」

「……私では、アクア様を死なせてしまう可能性があります…」

アリールは、紋様を凝視したまま、硬直する。


「…どうにかならぬか…?」

クォスは膝を地につけ、無念の表情を浮かべる。


「術式に対応する触媒が何なのかが分かりません。

触媒無しで術式解除をすれば、私の魔力では五分五分の

賭けになるかも知れません…」

「五分五分…だが、解呪する方法はある、ということだな?」


「方法はございます。触媒さえあれば、安全に術式解除も出来るはずです。」

「その触媒が何なのかは調べることは出来るのか?」


「いえ…」

「そうか…」


クォスは膝を地につけたまま、うなだれている。

五分五分…

それならば、アクアの意志を確かめねばならない。

アクアならば望んで五分五分の賭けに出るだろうが。

クォスは愛娘を失う可能性がある賭けに出る勇気は無かった。






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