第44話 闇の邪竜の降臨(2)

「黒き竜がねぐらへ帰ると、そこには故郷を追われた人間どもが集っておった。」

「見れば皆、疲労困憊で食べる物にも事欠き、這う這うの体で逃げ落ちて来たことが分かる。」


『我の根城であることを知っての狼藉か?』

「黒き竜がその人間どもに質すと、1人の若者が黒き竜の前に進み出る。」


『御気に障ったのでしたら、謝罪いたします。黒き竜の王よ。』

『何用であるか?』


『我らは故郷を追われ、流浪の民となっております。願わくば安住の地を我らにお与えくださるよう…』

『自らの行いの報いであるとは考えぬか?若者よ。』


『報いだとしても、その罰は私だけが受けるべきものであり、この者たちが受ける道理ではございません。』

『ほう…ではお主が妖魔に憑かれたという者か。妖魔と共に滅したと思っておったが…』


『いえ!私もですが、妖魔も生きております。妖魔グラグバイリストニは自分の身が危うくなると、私から離れ、波を統べるラムスビクの王に取り憑き…私の妻を…波を統べるラムスビクの姫を害したのです。』

『ほう…。なるほど。それは相違ないか?』


『はい。間違いございませぬ。』

『証拠となるものはあるか?若者よ。お主らの言だけでは証拠にならぬぞ?』


『こちらで試して頂ければ…』

「若者は背負っていた袋の中から、1枚の鏡を取り出す。」

『…瑠璃色の水鏡。蒼き竜が持つ秘宝。お主、これはどうした?』

『蒼き竜の王が”これを持って静まりの森に行け”と。我らに与えてくださいました。」


『なるほどな…全て合点がいったわ。』

『…』

『では問う。お主らの話に相違ないか?妖魔が波を統べるラムスビクの王に憑いておると。』


「当然、水鏡は何も起きず、その若者の言っていることは真であったわ。」

レイアは瞑想するように目を閉じ、無言になる。


1,2分経っただろうか。

応接室の扉が叩かれた。

「ルーエ様。」

扉の外からカリナ=ブルームの声。

ルーエはレイアに断りを入れてから扉の方に向かう。


「アリール様から、今夜は遅くなる、と連絡がございました。」

客に聞こえないように小声で話すカリナ。

「分かった。ありがとう。」

ルーエはカリナに礼を言って、元の位置に戻る。


「アリール君の帰宅が遅くなる、との連絡がありました。」

ルーエはレイアに先ほどの話を伝える。

「…良い良い。我は一目会えればいいのでな。」

目を見開いてレイア。


時刻は18時を回った頃。

そろそろ夕食の時刻が近づいてきている。

アリールが連絡してきた、ということは夕食は不要なのだろう。

早く帰って来て欲しいのだが、それはそれで怖くなるルーエ。

アリールとレイアを会わせたらどうなるのだろう?

そんな気持ちになっていた。







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