第43話 闇の邪竜の降臨(1)

「さて、どこから話したものか。」

ルーエとアリールの住まう邸宅。

レイアはアリール不在のこの屋敷で語り始める。


「古来、この大地には強大な力を持つ竜がおった。」

「ある者は赤く炎の力を、またある者は青く水の力を、と。6頭の強大な竜がこの地を治めておった。」

「それぞれ人々の信仰を集め、豊かな大地の恵みを教授しておった。」

「…ところがある日のこと。人間たちの振る舞いに対して、とある竜の眷属たちが大いに怒り、自分たちの支配する土地から人間を根絶やしにしようと、人間たちに襲いかかった。」

「その土地の人間たちは故郷を追われ、北西部を根城にしていた黒き竜の土地に命からがら逃げ落ちて行く。」

「黒き竜へその眷属たちが、逃れた人間たちを引き渡すように要求。」

「初めのうちは無視していたその要求も、日を追うごとに苛烈になり…」

「挙げ句の果てには、人間どもを庇いだてするならば、人間共々滅ぼす、とその眷属たちは黒き竜を脅し始めた。」


ルーエはレイアの話に聞き入る。

(失われし古代竜の伝承…)

アランストラ大陸に居た6頭の古代竜。

迫害を受け新天地を目指す古代人。

古代人を庇護する竜。

いずれも聞いたことのある伝承だった。


「脅し、ともなればこれ以上は捨て置けないと考えた黒き竜は、その眷属の主たる竜の真意を質すことにした。」

レイアは話を続ける。


『お久しぶりね。リーベンデール。』

『おお。アリルレイアか。久しいな。大災害以来か。』


『私があなたのところに出向いた理由はお分かり?』

『我が眷属どもが済まなかった、アリルレイア。』


『我を滅ぼす、とまで言ってきたわ、リーベンデール。それは貴方の意向?』

『まさか。そんな訳あるまいよ。』


『だとすると、貴方の眷属どもは貴方の許し無しに私を狙っているのかしら?』

『怒りは尤もだ、アリルレイア。穏便にしろ、と厳命していたのだが…』


『リーベンデール。あと、あの人間たちは何をしでかしたのかしら?執拗に根絶やしにせねばならぬ理由があるとでも?』

『…うむ…不幸な事故だったのだが…』


『何があったの?』

『1人の人間が妖魔に操られ…波を統べるラムスビクの姫がその人間を庇って死んだのだ。』


『それはどういう…?』

『あの大災害で討ちもらした妖魔が居たのも驚きだが、波を統べるラムスビクの姫が人間と懇意になり、結果、我が眷属たちが妖魔を討ち果たす際に人間を庇って致命傷を負ったのだ。』


『そんなことが…』

『儂は懸命に説得したが、波を統べるラムスビクの王は、愛娘の死を受け止め切れずに人間を憎悪しているのだ。』


『ふむ。』

『妖魔を討ちもらした我々のせいでもあり、実際、人間どもは汚水を垂れ流し、我々を敬わない者どもも現れたりで、儂は好きにさせることにしたのだ。』


『憎悪の余り、見境がつかなくなっているのね。』

『儂には眷属の者どもを非難する資格はない。無論、お主に迷惑をかけていることも理解しているのだが、止める手立てが無い。』


『そうね、リーベンデール。そういう事情なら仕方無いか。ただ、人間どもだけでなく私を狙ったことは相応の報いを受けてもらうことになるのだけれど、それで良いかしら?』

『弱者は強者に従うのが我らの理。波を統べるラムスビクの王も異存は無かろうよ。』


『そうね。ただ覚えておいてね、リーベンデール。私は私の意思でしか動かない。人間どもを根絶やしにするもしないも私の自由。他人にあれこれ指図される云われは無いわ。貴方であってもね。』

『分かっているよ、アリルレイア。久しく見ていない貴方の力を見せてもらうことにしよう。』


「こうして、黒き竜と蒼の眷属である波を統べるラムスビクの死闘が始まったのじゃ。」

レイアは目を閉じながら、何かを振り返っているような表情をする。

レイアは黒き竜の眷属の者なのだろうか?

蒼の眷属から故郷を追われた者の末裔?

いずれにしても只の人間ではない。

ルーエは固唾を飲んでレイアの話に聞き入っていた。






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