第36話 友として

「何か懸念があるのか?」

アクアはアリールの顔を少し心配そうに覗きこむ。

「いえ…」

アリールの表情は変わらず、少し曇っている。

穏やかな表情の合うこの青年が、このような表情をしていることに憂慮する。


「心配事があるなら…」

何でも言ってくれれば良い、とアクアは心から思う。知り合ってまだ日が浅いが、この仲間は不思議な魅力で自分を惹きつけている。

もちろん、アクアにはビリニュス家の呪いの件という理由があったから、アリールに執着する理由は自分でも分かる。

ただそれだけでは無い何かが彼にはあるような気がするのだ。


アリールが重々しく口を開く。

「…宮廷作法が分からないので、失礼が無いかと心配しているのです。」

「ふぇ?」

思わず妙な声を出してしまうアクア。

「宮廷作法を知らないので…」

神妙な顔つきで重々しく話すアリール。

「あはは。そんなことか!」

アクアは大きく吹き出して、アリールを見る。

豪胆な男だと思っていたが、存外可愛らしいところがある。

「そんな笑うことでは。」

「それに…その口調は止めて欲しいと言ったぞ?」

アクアはさらに悪戯っぽく笑みを浮かべて爆笑している。


「そういう人間は嫌いじゃないぞ?アリール。」

アクアにいつもの冷静さは微塵も見られない。

ただただ楽しくて仕方ないといった様子である。

「恐らくだが…」

「恐らく?」

「君のような田舎貴族には誰も何も言ったりはしないさ。ましてや、エドガー卿の物言いなら、君の立ち振る舞いなんかは問題にならないだろう。」

「?」

「君が特別だってことさ。」

アクアは微笑を浮かべてアリールを見る。

分かってないんだろうな…自分がどれだけ他人から一目置かれているかを。まして皇帝アルレイアも注目している存在である。宮廷作法など問題になるまい。


「そんなに気にするなら、私が多少なりとも教えるが?」

アクアは満面の笑み。

ビリニュス家の次男として、宮廷作法については叩き込まれている。

満足にはいかないかも知れないが、礼を失するほどじゃないだろう。

それに、クラスの友人としてではなく、ビリニュス家の呪いのためにもアリールの傍に居なければならない。


アクアは急速にアリールに惹きつけられていることを自覚していた。




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