第28話 皇帝陛下
あれから数日経ち、いよいよ皇帝陛下のグリムワール帝国大学の視察の日が来た。
この日はPr-Aクラスの学生と大学職員、お付きの親衛隊以外は完全に大学から締め出され、皇帝陛下とその弟君の安全を確保する。
昨年、皇帝陛下が北方のとある村を視察中にアランストラ王国からの刺客に襲われたことがあったが、冒険者崩れの暗殺者などは親衛隊の敵ではなかった。
ノーザン伯クォス=ビリニュス率いる北方軍も活躍し、暗殺者たちは全員瞬く間に捕縛されている。
気品ある馬車が親衛隊騎士に囲まれて大学内の玄関口に到着する。
馬車の扉を親衛隊騎士の1人がゆっくりと開け、中から騎士鎧を来た1人の少女が降りてくる。
少女は周りの安全を視認すると扉の開いた方に立ち、中にいる人物が降りてくるのを待った。
グリムワール帝国の紋章が象られた白く輝く騎士鎧に身を包んだもう1人の少女が神官服に身を包んだ子どもと手をつないで下車する。
この少女こそ皇帝アルレイア=グリムワールであった。
アルレイアは自分の影武者であるリーズの方を見て頷き、自分の弟である次期皇帝マールハイド=グリムワールの手を取って大学玄関に入る。
アルレイアの気品は皇帝のまさしくそれで、この1人のか弱そうな少女に大の大人が平伏してしまいそうなそんな威厳もある。
アルレイアの父、前皇帝ゲルハルトが生前に遺した子の中から次期皇帝をアルレイアに選んだとき、守旧派の貴族たちはこぞって反対していたのだが、いざアルレイアが即位するとその気品と尊厳に畏怖し、貴族たちの派閥争いは急速に鎮静化した。むしろ守旧派の重鎮であったフェンディ家などは熱狂的な皇帝信者になったほど。
サーズ=フェンディは実家から皇帝陛下に絶対の忠誠を誓うべし、とここ3年ずっと言われ続けていた。
(なるほど…)
親父の言っていたことが分かる。頭を下げ、皇帝アルレイアが見えていなくともその厳粛な威厳は周りの空気を変えている。姿が見えていなくとも、どこに居るのか分かるほどだった。
皇帝アルレイア=グリムワール。即位して3年経つ。この少女は見目麗しい外見に似ず、恐ろしい能力の持ち主だった。
知性が高く即位1年目から摂政は必要としていなかった。
治水や開墾などの平民政策も率先して行い、平民からの支持も高い。
また、少女と侮った守旧派の一部が自らの権限内で賄賂や買収を行っていた際もこの少女皇帝によって露見され断罪された。
通常、そういった犯罪行為を行った貴族たちは一族郎党もろとも良くて追放処分、悪ければ処刑されるものだがアルレイアは連帯責任を問わず、当主にのみ責任の追及を行う。
結果、何人かの当主はその罪の大きさによって、島流しから他家預かりに至るまで温情のある処置を受けている。
これについては、むしろ残された家族からは高く評価され逆恨みに思う者は1人も居ない。
生まれついてのカリスマ…なのであろう。
また、自分の治世を15年と区切り、次期皇帝を弟君であるマールハイドに禅譲することも自ら発表し不要な貴族の派閥争いを起こさぬようにしている。
「自分はマールハイド公の繋ぎでしかない。」
幾度となく口にしている。
弟のために全力で帝国を揺るぎない国家にしようとする意志。
かくも人は己を国家に忠せるのか、と吟遊詩人たちはアルレイアをこぞって詠いあげていた。
「今日はよろしく頼む。」
威厳がある声が辺りに響く。
大学学長アライン=メーナス、神殿長ミラ=ツヴァイ、騎士団団長エドガー=グラン他錚々たる面々が頭を下げ、第1研究室室長ルーエ=ヴァイスが先達として案内をする。
万が一のために、ルーエの「魔法障壁」がアルレイアの周りを包み込んで、大学の視察が開始された。
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