第26話 アクアの心情
修練場に向かう道すがら、アクアはアリールに話しかけようとした。
ビリニュス家の呪いのために信用に足る人間か、まだまだ彼の人間性は分からない。
もちろん判断するのは自分の父クォスであるが、あの穏やかな人間性は好ましく思える。
だから、アリールが席を立った時に声をかけようとしたのだが、ティルに先んじられてしまったのだ。
(まぁいいか。)
別段、急いでいる訳でも無い。ほんの少し、会話をしたかっただけだからティルを疎ましく思う程では無かった。
アクアは教室を出る時、もう1人、彼のことをよく知っている人物が自分の後ろに居ることに気づいた。
(彼の遠縁と聞いた。)
ルーエ=ヴァイス。子爵家でありながら、グリムワールの貴族の中では名の通ったヴァイス家の才女。何年か前に兄の縁談相手の候補として名を聞いたことがあった。
(一緒に暮らしていると聞く。婚姻前の男女が同居するなど…)
もしかして結婚の約束でも取り付けているのだろうか?
他人の事情には興味の無いアクアだが、彼が信用に足る人間なのか、どんな人間なのかは知っておきたい。だから、ルーエに声をかけたのだが。
金髪の美形アクアが話しかけてきた。女性と見紛うほどの美貌。酒場にでも居れば荒くれな冒険者たちに声をかけられるに違いない。これで男なのだから、世の女性からは嫉妬と羨望の眼差しで見られるだろう。
変な勘繰りをされてないかポンコツ乙女は声色に留意する。
「あの青年と同居していると伺いましたが…」
どうして知っているのか?別段隠している訳でも無いのだが、おおっぴらに公言している訳でも無い。ビリニュス家の情報網からだろうか?
「ええ。アリール君は遠い親戚筋の息子さんで大学入学の際に面倒を見るようにお願いされたのです。」
アラインと打ち合わせた通りの返答。
婚姻前の若い男女が同居するなど、性に敏感な貴族たちは眉を顰めるだろうが一夫多妻制が認められているグリムワール帝国ではそんなにおかしいことでは無い。上流貴族の中には若い愛妾を別邸に住まわせて週の半分はそこに住まって居る者もいると聞く。
「そうなのですか。」
アクアは半ば納得する。どうやらこの妖艶な歳上の女性とアリールとは男女の関係に無いらしい。アクアにそういう経験が無いから断定は出来ないが。
「彼はどういう人間です?随分な手練れでしたが。」
アクアは続けてルーエに尋ねる。
「真面目ですよ。鍛錬も怠らないし、優しいですね。」
ルーエは素の、思ったままをアクアに伝える。アクアは知らないがルーエはアリールに恋心を抱いているからこそ、誠実な彼の人間性をアクアに伝えていた。
(裏表の無い人間ならば良いが…)
アクアはルーエとの会話でふと考える。今のところ糸口はアリールだけ。信用に足る人間であれば、ビリニュス家の呪いを全て話してしまっても良い。
(父が判断するだろうが…)
魔導師離れした動きといい、穏やかな雰囲気といい個人的にも気になっている。神殿の上位役職者でも解呪出来なかったビリニュス家の呪いだが、何かしらの情報が得られるなら。
(もう少し彼の人間性を見極めなければ…)
程なく修練場に到達する1団。
ルーエはアリールをちらりと見て修練台に上がった。
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