第25話 魔術融合
Pr-Aクラスの本日の午後1番の座学はルーエの講義である。このときばかりは教師と生徒になるルーエとアリール。
とはいえ、ルーエにとっては気持ちを半分以上を持っていかれている男に講義をするのは初めての経験だった。必要以上に意識しないように努めなければならない。
講義内容は「魔術融合」
ルーエが数年前に風魔術と神聖魔法を組み合わせて編み出した「魔法障壁」についてだった。
異なる系統の魔術を組み合わせる発想は当時、とても斬新であり魔術研究の第一人者としてルーエの研究者としての地位を確立した。
ただし、使いこなせる者は神殿で神聖魔法を授かった神聖魔法の遣い手か、風魔術を操る風魔導師に限られた。
「…この魔法障壁を使う場合、例えば神殿騎士や神官であれば風魔石を持った状態で神殿魔法である「障壁」の魔法を唱えますが、第3節の冒頭に『風を司る踊り子よ』の文言を追加します。」
ルーエは毅然とした教師としてアリールたちPr-Aクラスの面々に講義をする。
「ここでは魔術を遣う訳には行かないので、後ほど実践してみましょう。」
生徒たちは各々ノートらしきものに講義内容を記していく。前衛職希望のサーズでさえも、関係が無さそうな内容であってもメモを取ることを忘れない。
「風魔術を操ることが出来る魔導師や魔導剣士は、神聖魔法の「障壁」の護符を持って「風の護り」を唱えます。やはり、第3節の冒頭に『我が神聖たる主よ』を付け加えて詠唱を完成させれば発動します。」
ライサは驚きの声を漏らす。
神聖魔法は神殿で多く祈りを捧げた者しか会得することは出来ない。誰でも簡単に出来ることでは無いのだ。効果を封じこめた護符も神殿で売ってはいるが、効果は通常詠唱よりは弱い。対して4大魔術は勉学と同じで魔力量と詠唱文言さえあれば発動する。神聖魔法が魔法に対して4大魔術は術なのである。
ルーエはアリールの様子を見る。
いつもより増して真剣な表情でメモを取っている。時折視線が合ったときにどきまぎしてしまうがルーエは平静を装っていた。
「…ということは、神聖魔法や4大魔術を互いに組み合わせることで新しい魔術、魔法を生み出すことが出来るのですか?」
アクアが疑問を率直に尋ねる。
「…そうですね。理論的には可能だと思います。」
ルーエの研究内容がまさにそれだ。魔力量も他人より多く4大魔術を操ることが出来るルーエは、詠唱文言を組み合わせて魔術を融合させることを研究している。これがうまくいけば、怪物退治や他国との紛争時にはかなり有利になる。
事実、「魔法障壁」は術者に害を為す魔術や物理的な矢や投石を逸らしたり低減させることが出来、魔の森のアンデッド騒動の時にアリサ他神官たちが対アンデッド戦でその有用性を証明した。
ただ、詠唱文言をどう組み合わせるのか、消費される精神力や魔力量はどうか、効果が有用なものか、副作用の有無など懸念材料が山ほどあるため、研究は遅々として進んでいない。
「では実際に修練場で実践してみましょう。」
ルーエは生徒たちに促し、修練場に移動する。
ぞろぞろと修練場に向かう生徒たちの一番後ろから生徒たちにくっついて行くように歩く。アリールはというと、ティルに腕を取られて半ば強引に腕を組ませられている。
(…ティルさんは積極的よね…)
それに比べて、とルーエは自虐する。いくら暗い過去があったとしても前に進まなければ何も起きないものなのに。
(同じ年齢くらいだったら…)
考えても詮無いことを考える。もしあの時に出会っていたのがアリールだったならと夢想する自分が居る。謎に満ちた青年ではあるが、ここまで彼の誠実さと優しさに心を奪われている。
「………先生!ルーエ先生!」
いつの間にか最後尾の学生、アクアに話しかけられていた。
「大丈夫ですか?」
アクアは心配そうにルーエに話しかける。幾度か声をかけたが返事が無く、ルーエを待って話しかけたとのこと。
2人は生徒たちから少し離れてアリールの話をすることになった。
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