第19話 翌朝
泥のような眠りから覚めたルーエは自分のベッドで爽やかな朝を迎えた。
(あれ…私、いつの間に寝て…)
不思議と寝間着にまで着替えていて、いつもの自分の部屋に居る。
(確か、彼と2人で食事に行って…)
店を出た辺りから記憶が無い。彼と二言三言、言葉を交わしたような気がするが、気づいたら自分の部屋に居たのだ。
(自分で着替えたのかな?)
寝間着のまま伸びをしてベッドから立ち上がる。寝間着と言っても色気のない室内着だったから、いつものように1階のダイニングに向かった。
「おはようございます。」
「おはよう。」
女中娘の1人、カリナ=ブルームが仕事の手を休めてルーエに声をかける。
「御気分は大丈夫ですか?」
「大丈夫。よく寝た気がする。」
ルーエはやや苦笑気味に答える。
「アリール様が夜半まで傍に居て下さったのですよ。」
カリナがルーエに昨晩の顛末を話す。
21時半過ぎにアリールがルーエを抱き抱えて帰宅し、カリナともう1人の女中サーシャがルーエを着替えさせてくれ、アリールが夜遅くまでの傍に居て自分の様子を見ていてくれたらしい。
「良い時間を過ごせたのですね。」
カリナがルーエに微笑みながら話す。
そうか、何だか温かい感じがしたのはアリールが傍に居てくれたからか、と納得する。
昨晩の夕食時に自分の欲望が暴走しそうだったことに顔を赤らめる。
少なくとも好意を抱いている相手に、はしたない女だとは思われたくはない。
帰路に着く際にうっかり寝てしまって、アリールに迷惑をかけてしまったことは恥じねばならないが。
「彼は…?」
アリールの所在を質す。時刻は7時半過ぎ。
「もう出発されました。」
大学は9時から。少し早いように思う。2日目だから用心したのかも知れない。
(顔を合わせるのが気恥ずかしい、とかじゃないよね…?)
恋する乙女は些少を気にしていた。
グリムワール帝国大学図書室。
アリールはそこで幾つかの文献を読んでいる。
傍らには昨日の剣。
魔導師が用いるのは分不相応な長さの剣である。
アリールが大学に入学した理由のうちの1つが古代の文献調査だった。
オープンな場に置いてある文献はそこまで詳しく記述されてはいないが、民間伝承された伝説や物語などは十分に蔵書がある。大きな災害や激動ならば、記述している歴史書もあるだろう。どのような災害であったかが分かれば、次に起きるであろう大災害の備えになるかも知れない、そう考えていた。
大きな災害のうちの1つで最大級のものは、何と言っても“アランストラ湖の砂漠化”であろう。アランストラ大陸中央には昔、巨大な湖があった。
湖の周りは湖からの水の恩恵を受けて豊かな自然が広がり、様々な生物が生息していた。
アランストラ湖にも大小様々な生物が住み、今の南砂都市は古代人で栄えていたという。
もう2000年以上も前になるが、そのアランストラ湖に”邪なる竜”が降り立ち、アランストラ湖を毒化させ、いつしか干上がらせて砂漠化させたとの伝承が残っている。
このグリムワール帝国大学図書室にも、同じような伝承の書かれた伝記や物語がいくつもあった。
大災害は”邪なる存在”が降臨することで引き起こされる。
育ての母が恐らくはそうだろう、と仮定していた話。
どんな存在なのかは分からないが、恐らく破滅を導く存在。
アリールは読んでいた分厚い本を静かに閉じて、目を瞑る。
自分に何が出来るかは分からない。そもそも”邪なる存在”が降臨して勝ち目があるのだろうか。
「お主ならどんな相手であっても太刀打ち出来るはず。ただ今のままでは何もかもが足りない。グリムワール帝国大学の賢者の元でその日まで鍛錬するだけだ。」
母が見送りの時に言っていた言葉。
頭の中で反芻する。
迷いは無いが、何をどうすれば良いか、自分は何を為すべきなのかを考えていた。
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