第18話 期待
「明日も仕事ですよ?」
アリールは変わらない微笑でルーエに言う。暗い夜道でお互いの顔を強く確認出来ないが、声色からはそう見える。
「…大丈夫って言ったら?」
「どこか行きたいところがありますか?」
女心が分からないのかと言いたくなるルーエ。こんなにも、しな垂れかかった女が帰りたくない、と言っているのと同じなのだから、黙ってオレについてこい、と行動で示してくれれば楽なのに。
「…もうちょっと、2人きりで話をしてたいかな。」
言いながらまた紅くなる。大丈夫、顔色まではそんなに見えないはず。
ルーエは自分の心が女の情念の部分がかなりの大きさで占めていることに気づく。
「…そうですね。」
アリールは少考して、耳元に口を寄せる。
吐息がルーエの耳にかかる。思わずひゃんと声を発しそうになるルーエ。
熱を帯びた吐息が耳にかかり、ルーエは心臓と下腹部が熱くなるのを感じた。
「…帰りますよ?」
大きくなっていた期待が急速に萎む。もしかして自分はアリールに女として見られていないのだろうか?それとも、迷宮で育ったから女の扱いが分からないのだろうか?
「……帰りたくないって言ったら?」
ポンコツ女史の最後のお願い。自分を女として見ていないのならそれは仕方ないことだが、女の扱いを知らないだけなら、自分がリードすれば良い。今なら性欲の吐け口に成り下がってしまっても、この男からの情が欲しくてたまらなかった。昔の悪夢を払拭するためにも。
潤んだ瞳でアリールを見つめる。
アリールの口元が微かに動き、黒瞳の視線が自分の瞳を射るように突き刺さったかと思ったその瞬間、ルーエは気を失った。静かな寝息と共に鼓動するルーエの胸。アリールは静かに抱き上げて帰路に着く。
「…今はまだ…あなたは大切な女性ですから。」
アリールの優しい瞳がルーエを包みこんでいる。静かな眠りに落ちたルーエを宝物のように抱えてアリールは歩き出す。
闇が2人を温かく包んでいるようにも見えた。
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