第13話 鍛冶屋

「ごめん、お待たせしたかしら?」

ルーエが神殿前の噴水に辿り着いたとき、アリールは既に噴水に到着していた。


「いえ。ほんの少しです。」

アリールはいつもの笑顔を浮かべてルーエに応える。


特に約束の時間を決めていた訳では無いが、座学が終わってすぐに買い物に行こうということだったので、ルーエはアリールよりも先に帰宅して着る服を選んでいた。

思いの外、悩んでしまった結果が遅刻これだ。


「ホントごめんなさい。」

「いえ。大丈夫です。」

結局無難な町娘風の恰好になったのだが、年甲斐もなく心躍っている自分が分かる。服1つ選ぶのも、何となく楽しいのだ。


「さ、行きましょう。」

一応の名目は、家でアリールが使う道具や鍛錬用の剣、杖を見に行くことだ。

家の女中娘たちには晩御飯を食べてくることを伝えてあるから、多少遅くなったとしても問題は無いだろう。


まずは鍛冶屋に行くことにした。

「ここいらが鍛冶屋通りね。あっちの通りは魔導師御用達の店があるわよ。」

アリールに1軒目の鍛冶屋を案内する。

ルーエはアリールの鍛錬の様子を見ていたから、彼はまず剣を買うだろうと予想していた。

以前に魔導剣士になるつもりか?と聞いたことがあったが、アリールには否定されてしまっている。

だとしたら普通は杖なのだが、それでもアリールは剣を望んでいる気がした。


1軒目は騎士団がよく利用している鍛冶屋だった。

標準的な騎士剣や小剣類が並んでいる。

アリールは騎士剣を幾つか眺めていたが、気に入ったものがなかったのだろう、2軒目に目を移す。

ルーエは職業柄行く機会が無かったが、2軒目は冒険者相手の鍛冶屋であった。


「いらっしゃい〜学生さん。」

軒先で店員と思わしい子供がこちらに声をかける。


「どんな品をお探しで〜?」

愛嬌のある笑顔でアリールに応対する。


「いや、どんな商品があるのかな、と思って…」

「ちえっ。冷やかしならごめんだよー。」

店員である子供が口を尖らせて言う。どことなく人懐っこい感じだ。

「小剣が欲しいんだ。」

アリールはにこにこしながら店先に並べてある小剣を眺めていた。


「予算は?」

子供が値踏みするかのようにアリールをジロジロ見る。愛嬌があるせいか少しも嫌らしい感じはしない。

「これで足りる?」

アリールは手のひらの金貨を子供に見せる。子供はおほっと変な声を上げて目を輝かせた。


「なんだい、上客じゃないか〜早く言っといてくれよ〜さ、中に入った入った!」

子供がアリールを引っ張って店の中に引きずり込もうとする。アリールは少し困った表情でルーエを見た。ルーエは2人の微笑ましい様子にふふっと笑みが漏らす。


※金貨1枚は約100万円 金貨1枚=銀貨20枚(両替手数料を除く)


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