第8話 クラス

Pr-Aと書かれた教室。

入学式を終えたアリールはその教室に入る。自分を含めてこの教室には8人。

めいめい自分の席と思わしき椅子に腰かけている。アリールは教室前に貼ってある紙に目をやったが、その瞬間に名前を呼ばれた。

「アリール君だよね?座席はボクの隣だよ!」

元気いっぱいの声。見ると、小柄な短髪の娘が手招きをしている。

「初めまして!ボクはティル=ラーマルク!よろしくね!」

「アリール=ヴァイスです。よろしくお願いいたします。」

アリールは短髪娘に丁重にお辞儀をする。

「かったいなぁ~同級生になるんだから、もう少し気楽にいこうよ!」

ティルは満面の笑みでアリールに返す。この娘は四六時中こんな調子なのだろうか?

「あっ、ほら先生が来たよ!」

教室の扉がガラっと開き、一人の屈強な壮年男性が入ってきた。

「全員揃っているか?ああ、全員居るようだな。貴様たちPr-Aのクラス担任になったレオナルド=ロドリゲスだ。鬼教官で構わないぞ。」

大柄な体躯に右頬には刀傷。恐らくは叩き上げの騎士上がりの教師であろうレオナルドは、全員を一瞥して破顔する。

「なかなかどうして。さすがPr-Aに入学した面々だ。ようし、自己紹介をして貰おうか。」

レオナルドは全員の顔を順に確認しながら、豪快に言い放つ。

「ティル=ラーマルクです。南砂にあるラーマルク家から来ました。」

ティルが口火を切る。物怖じしない性格なのだろう。明るいよく通る声で自己紹介する。

「おお、ラーマルクの砂狐か。いよいよ大学生になるんだな。」

「え、えへへ。」

「しかし、砂狐。お前さんは少し緊張感を持った方が良い。戦場では多少の緊張感も必要だからな。おし、次は、そこの金髪。」

「私はノーザンテリトリーから参りました。アクア=ビリニュスです。」


金髪と呼ばれた生徒が立ち上がって名乗る。長い金色の髪が風に揺らめいたように見える。青い瞳に長い金髪。それなりに長身で見目麗しい。

「ほう。ノーザン伯の次男坊か。よろしく頼む。」

「えっ?男なの?」

ティルが無神経に大声を上げた。

「はい。私は男ですが…」

「ほ、本当に??」

確かに妙齢の女性と言われてもおかしくない位の美貌。男だと名乗らなければ絶対に見間違えるだろう容姿をしている。アクアという名前もさりながら、見た目や雰囲気は完全に女性のようである。

「あ、あはは…ごめんなさい。」

「いえ。」

ティルが申し訳無さそうに謝罪するが、アクアは涼しい顔をしている。今まで幾度となくあったのだろう。


「よし、じゃあ次は…双子。」

「はい。」

「はい。」

ほぼ同時の返答。

「ライサ=ティテスです。」

「イリナ=ティテスです。」

淀みない返答。まるで木霊のような返答をする双子。しかし、容姿は全く異なっている。1人は髪を後ろ手に括り、眼鏡をかけているのに対し、もう1人は長い髪をおろし、髪留めをしていた。

「ティテス家の双子、よく小さい頃に抱っこしてあげたのを覚えておるか?」

レオナルドは満面の笑みを浮かべて2人に問う。

「覚えています。」

「覚えています。」

やはり木霊のような返答。レオナルドは2人をよく知っていた。自分が騎士団に居たときの上役の娘たち。

「そうか。時が経つのは早いもんだ。まさか、あのときの嬢ちゃん達の教官になるとはあの時は思いも寄らなかったがな。」

レオナルドは温かい目をしながら、まるで我が子のように成長を喜んでいる。


「よし、じゃあ次は赤髪のそこの坊主。」

「坊主じゃねえよ、おっさん。」

「威勢がいいな。お前の番だ。」

レオナルドは赤髪をジロリと値踏みする。やんちゃ坊主も良いが、実力が伴っていなければ、戦場では早々に散るだけである。

「剣士希望のサーズ=フェンディ。得意なのは片手剣、槍だ。」

サーズと名乗ったやんちゃ坊主。長身ですらりとした体躯で、なかなかに鍛え上げられている。確かに剣を扱わさせたらそこそこ通用するのかも知れない。東部要塞近くのフェンディ家と言えば東方貴族団の重鎮である。その3男として産まれたサーズは剣士としての天性があるのだろう。


「よしよし。期待が持てそうだな。次は、そこの神官服の嬢ちゃん。制服はどうした?」

レオナルドは1人だけ帝国大学の制服を着用していない娘に声をかけた。よく見ると1人だけ白い神官服に身を包んでいる。

「すみません…この後、礼拝に向かわねばなりませんので、この服に着替えてしまいました。」

「ほうほう。ということは、君が”聖なる太陽”アリサ=ツヴァイか。」

「はい。」

アリサ、と呼ばれた神官服姿の娘。神殿長ミラ=ツヴァイの秘蔵っ子。産まれついての神官であり、神聖魔法の遣い手である。巷では”聖なる太陽”と呼ばれ、聖女の再来とも目されている。事情により大学入学が遅れてしまったが、魔の森のアンデッド騒動が落ち着いたため入学したのだろう。

「魔の森では大活躍だったと聞いた。改めて儂からも礼を…」

「それには及びません。神殿神官として当然のことを行ったまでです。それに、」

アリサは淀みなく答える。

「神殿だけでなく、冒険者や騎士団のご活躍だと聞いています。」

決して謙遜ではなく、アリサは本心から言う。魔の森のアンデッド騒動は数名の冒険者の被害で済み、今はすっかり落ち着いている。

「そうか。そう言われれば、騎士団の一員としてこの上ない。」

アリサは恭しく礼をして目を伏せた。先の魔の森騒動では、自分に出来ることはまだあったように思っている。もっと良い方法があったとも。


※大学のクラスには

Pr-A…いわゆるエリートクラス

Pr-B…準エリートクラス

Pr-C…通常クラス

Pr-D…やや下位クラス

 などのクラスがあります。


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