第4話 面会

グリムワール城宮廷透析室。

透析は透過解析の略称で、この部屋ではスキルを使えず、また嘘もつけない。正確には、部屋の中にある神器「瑠璃色の水鏡」の効果範囲内であれば。

なので、専ら怪しい人物の取り調べに用いられ、今までも幾人もの間者を発見している。


部屋に置かれた3組の机と椅子。

そこには老齢の魔導士、壮年男性、妙齢の女性が座っている。

その向かいには、5人の物々しい出で立ちの騎士たち。揃いの甲冑を身に纏い、騎士団の一員たちであろうことは想像に難くない。


…騎士たちの背後にある扉がノックされた。

「…入り給え。」

壮年男性が静かな声で返答する。

「…失礼いたします。アリール殿をお連れしました。」

扉が開き、やはり騎士甲冑を着込んだ兵士が恭しく礼をし、返答に応える。

みすぼらしい恰好の青年が3人の騎士に囲まれながら入室する。


「そこの椅子にかけたまえ。いや、物々しい出迎えで済まなかった。」

壮年男性は入ってきた青年に微笑みを浮かべながら、丁重に頭を下げる。

柔和な物言いだが、声にはかなりの威厳が込められていた。

「ありがとうございます。」

青年は一礼をしながら、椅子に腰かける。

騎士たちに取り囲まれているというのに、物怖じする様子はない。

不安や焦りの色などは顔色からは窺い知れなかった。


「アリール君だったね。私はこのグリムワール帝国大学の学長アライン=メーナス。こちらは、宮廷魔導士のミシエル=ゾーグ。こちらは、君はもう会っているだろう、ルーエ=ヴァイスだ。」

「アリールです。」

「早速だが、君がこの帝国大学に入学したいと聞いている。本来ならば、身元保証人をつけ、一般受付で対応するところなのだが、アリール君はそれが厳しいと。」

「はい。身元を保証する知り合いがここには居りません。」

「親御さんは迷宮に住まうと聞いている。これは相違ないか?」

「はい。」


部屋に設置されている「瑠璃色の水鏡」は反応していない。

反応すれば、我々にしか分からない赤色の光が見えるはずだ。

「今一度、念を押して質問するのだが、迷宮とはこのグリムワール帝国首都郊外にある、グリムワール大迷宮のことで相違ないか?」

「はい。」


やはり水鏡は光らない。

とすると、この者は本当に人間なのだろうか?

大迷宮の奥で人間が生活出来るとはとても思えないのだ。

帝国騎士団、宮廷魔導士団、数多の冒険者でさえも5階層までしか達していないこの大迷宮は人が住むことは不可能に思える。

「…君は大学に入学し、学びたいとのこと。学んだ知識をどうするつもりなのか?」

「親から『大災害が必ず来る。その日までに力を蓄え、大災害に備えるのだ』と言われています。」

「君にその大災害を食い止める力があると?」

「分かりません。しかし、親は今まで決して間違ったことを言ったことがありませんから。」

「ふむ。ところで君の親御さんだが、君がこうやって迷宮の外に出れるのであれば、親御さんが君を連れ立ってやって来ることも可能だったのではないかね?」

「いえ。親は迷宮の奥を離れることは出来ないと言っていました。」


水鏡は光らない。

子は迷宮の外に出ることが出来て、親は出来ないとは…?

壮年男性、アライン=メーナスはやや訝しげな表情で黒髪の青年、アリールに尋ねる。

「アリール君。済まないが、いろいろと質問させてもらって良いだろうか?」

「はい。」

「ルーエ女史と会ったときに、君は大学の警備員を『眠りの雲』で眠らせたと聞いている。その魔術は誰から学んだのかね?」

「親からです。」

「他にも学んだ魔術はあるのかね?」

「はい。」

「それはどんな魔術なのかね?」

「いろいろです。やってお見せしてもいいのですが…」

青年はちらりと視線をミシエルの方に向ける。

老齢の大魔導師はこちらに飛んだ青年の視線が自分に向けられたものでないことにすぐに気づいた。

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