第3話 学長
第1研究室室長ルーエ=ヴァイスといえども敷居の高い学長室。
学長アライン=メーナスはその執務室に居た。
4大魔術のうち、水魔術を使う大魔導師。
帝国の侯爵であり、帝国に置ける重要人物であるアラインは他国からは恐れられ、自国内からは優秀な教育者として名が広がっている。
普段は優しい中年男であるが、怒らせたときの怖さは十分承知している。
「ふむ。」
そう短く返答して、考え顔になるアライン。
ルーエは少し緊張しながらも返答を待っている。
「魔術が4系統でなく6系統であり、ルーエ女史の知らないスキルを使いこなし、迷宮の奥で育てられて、大災害に備えるために大学に入学したい、と。」
反芻しながら考えを巡らせているアライン。言われれば言われるほど荒唐無稽な話である。ルーエ自身は自分が途轍もなく有能とは思ってはいないが、自分の知らないスキルを自分より年下であろうアリールに使われたのも衝撃だった。
「危険人物、という訳ではないのだな。」
「はい。柔和な青年で、不思議な雰囲気を纏っておりますが、嘘偽りを言っているようには見えません。」
「ほう。貴殿にそう言わせるとは、なかなかの青年であるな。」
アラインは少し笑いながら、茶化すような返答をする。
「なんというか必死な様子でしたので。どうしても入学したい、自分の持つ魔術を解析してもらっても構わない、という感じでした。」
「我々が見知らぬ魔術…それは確かに興味深い。だが、本当に危険な人物ではないのかね?」
至極当然の反応。
普通ならば許容出来る話ではなく、敵国の間者の可能性がある素性の分からない者の入学など到底受け付けることなど出来ない。
他国、シヴァリンガ同盟はさておき、未だにアランストラ王国とは年中小競り合いをしている。
大抵は王国軍がグリムワールの東部要塞を攻める姿勢だけで終わりになるのだが。
そういう意味ではグリムワール帝国大学は間者が紛れ込むのにうってつけではあり、毎年何人かの間者が発見されているのだから、敵国の間者・刺客である可能性を否定出来ない現状では、あの青年の望みが果たされないだろう。ルーエはそう思っていた。
「一度会ってみるか…。」
アラインは考えを纏めた様子で呟く。
「?!」
間者はともかく、刺客であるとは考えないのだろうか?
「学長自ら御会いになられるのですか?」
まさか…という思いで尋ねる。
いくら学長の興味を引いたとしても、素性の知れないみすぼらしい青年だ。
優しそうな柔和な雰囲気は好ましいけれども。
「…まぁ、御老体とも相談するがね。」
アラインが何かを思い出したように返答する。何らかの解決策を思い着いたのだろう。
ああ、宮廷魔導師のミシエル様。ミシエル様とアライン様がいらっしゃるなら、万に一でも間違いは起きない。
「あの御老体なら、きっと話をしたがるに違いないだろうしな。」
そう言ってアラインは微笑を浮かべる。
老いてなお盛んな宮廷魔導師殿はその青年に興味を示すだろう。
ルーエの話だけでも十分興味が湧く青年であることは間違いない。
「追って連絡する。恐らく宮廷透析室になると思うが、決まり次第、ルーエ女史に連絡しよう。」
「心得ました。」
ふむ、とアラインは独り言ちて、再び思案する。良くも悪くも、このグリムワールに変化が起きるのやも知れん。王国との小競り合いも、迷宮についても、まだまだ先が見えない現状が幾ばくか進むとしたら知りたいものだ。
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