第六〇節 「とうとう目を覚まし始めたか…」
ハーフタイムが終了し、両校の選手がピッチヘ。両校、選手交代はない。
陽太達はベンチへ腰掛ける。
スタンドの和正達は立ち上がる。
「ピーッ!」
山取東高校ボールで後半が始まった。
山取東高校は樹が蹴り出し、孝彦へ。ボールを受けた孝彦は亮太へ繋ぐ。
きれいに繋がり、亮太はドリブルで持ち上がる。
七番の選手が亮太につく。亮太は細かくボールを動かしながら揺さぶりをかける。七番の選手はしつこくボールを奪おうと足を出す。
亮太はそれを見て、樹へ。樹はドリブルで中央を五メートルほど進むと、山取東高校の前線の選手四人が一斉に走り出す。
三つの列を作るように走り、それを見た樹は右のレーンを走る幸俊へボールを送る。
幸俊はドリブルで持ち上がり、深くまで侵入する。
五番の選手がマークにつく。
一対一の状況。
幸俊はドリブルで揺さぶり、様子を窺う。
五番の選手は惑わされることなく、幸俊についていく。
幸俊は左サイドを見る。視線の先には亮太の姿。
幸俊は亮太の目でサインを送る。亮太はそれを見て、左サイド深くまで走る。二番の選手が亮太を追いかけるようにマークにつく。
幸俊は孝彦へボールを出す。ボールを受けた孝彦はそのままピッチ中央を駆け上がる。
そして、俊哉へボールを出す。
ボールは繋がり、俊哉がペナルティーエリア手前でボールを受けると、三番の選手がつく。
俊哉は左サイドを見る。そしてすぐに右サイドを見る。
すると、孝彦が中央を駆け上がる。俊哉の右へ。俊哉はそれを見て、孝彦へボールを出す。
ショートパスで繋がり、孝彦は持ち上がる。ディフェンスを一人抜くとペナルティーエリア内へ侵入し、そこからシュートを放つ。
ボールはゴール左上隅。
GKが跳び、腕を伸ばす。右手掌にボールが当たり、大きく宙に舞う。数秒後、ボールが落下し始める。
混戦状態のゴール前で先にボールに触ったのは俊哉。一番高く跳び、頭に当てたボールはゴール右へ。
GKが左へ跳び、腕を伸ばす。ボールは僅かに左手人差し指をかすめ、ゴールポストに当たる。そのボールに幸俊が反応し、押し込もうとしたが、GKの体を張ったプレーでボールを抑えられた。
その瞬間山取東高校の前線の選手四人は一斉に自陣へ戻る。そして、ディフェンスを固める。
台府中央高校はGKが前線へ大きく蹴り出したボールを空中戦を制して受け、右サイドから攻撃を仕掛ける。
山取東高校はゾーンを敷き、パスコースを塞ぐ。
台府中央高校の七番の選手はサポートへ回った一一番の選手へショートパスを出す。ボールを受け、一一番の選手はそのままペナルティーエリア手前からゴール前へクロスを上げる。
ゴール前には九番の選手。
オフサイドトラップをかわし、頭で合わせる。
ボールは枠を捉え、秀幸の真上へ。秀幸は跳び、右腕を伸ばす。
掌に当たり、ボールはクロスバーを叩く。そしてボールはゴール前へ。
そのボールに反応した九番の選手が押し込む。
しかし、これを公彦がブロック。
ボールは跳ね上がり、七番の選手と亮太が競り合う。
先に頭で触れたのは亮太。ボールは転がり、樹が拾う。そして、幸俊へ繋いだ。
幸俊はドリブルでピッチ中央を駆け上がると、彼を追うように孝彦が走る。亮太は左のレーン、俊哉は右のレーンを駆け上がる。
幸俊はディフェンスを一人かわすと、中央へと走る亮太へボールを出す。繋がり、亮太は縫うような動きで相手ディフェンスをドリブルでかわす。
ペナルティーエリア内へ侵入。
そして、ふわりとやわらかいボールを上げた。
ボールに相手ディフェンスが集まる。
それをお構いなしにと言わんばかりに孝彦がディフェンス内に侵入し、頭で合わせる。
ボールはゴール右下へ。GKが飛びつく。
右手で触れ、弾かれる。そして、五番の選手が前線へ大きくクリア。
幸俊達は自陣へと戻る。
孝彦は悔しそうな表情を浮かべる。俊哉は孝彦の背中にやさしく手を置き、言葉を掛ける。孝彦は頷き、前を向いた。
その後、両チームはゴールへ迫るが、なかなか得点を奪うことができない。
時間は後半二三分。
場内の時計へ目をやる大石。
すると。
「仙田。準備しとけ」
陽太は大石の言葉に陽太は「はい」と応え、ジャージを脱ぎ、ウォーミングアップを始めた。
その姿はスタンドからも見える。
「陽太だ。一回戦は橋本先輩と交代だったけど、この試合は橋本先輩が抜けたら陽太に相当な負担が掛かっちゃうよな」
猛の言葉に和正が何かを思い出すようにこう言う。
「もしかしたら、橋本先輩と組ませるのかも。攻撃役と守備役を分担で」
猛は和正を見る。
ピッチでは台府中央高校がボールを左サイドへ大きくクリア。
山取東高校ボールとなった。
その瞬間、選手交代ボードが掲げられた。「背番号五」の広和と交代。
ピッチ際では背番号「一九番」が準備。
「ダブルボランチ…!」
「そういうこと!」
猛の言葉に和正が頷きながら応える。
広和はボードを見て駆け足でピッチ際へ。そして、陽太の右肩に手を置く。陽太は広和に応える。そして、一礼をした後にピッチ内へ。
遂に出てきたか。試合に出られない俺もうずうずしてきたぞ…!
スタンドから背番号「一九番」を見つめる敦。
「知り合いか?」
敦の隣で応援する同じ一年生部員が尋ねる。
すると。
「ああ。多分、簡単には勝たせてくれないぞ
戦況を見つめる敦。
後半二六分。山取東高校の「一九番」が途中出場。樹と組み、ダブルボランチの形をとる。最終ラインはフォーバック。
その一分後。
「一九番」はペナルティーエリア手前でボールを奪った。とても鮮やかに。そして、ドリブルでボールを運ぶ。
「一九番」の背中を見る台府中央高校の六番の選手。
こんな奴が山東にいたのか…。
一瞬だけ電光掲示板へ目をやり、再び「一九番」の背中を見る。
「とうとう目を覚まし始めたか…」
苦笑いを浮かべる敦。
彼らの目に映る「一九番」の姿は何かの化身のようだった。
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