第五九節 和樹を上回る陽太の武器
前半一三分。台府中央高校は山取東高校陣地内でボールを回す。
いつ攻撃を仕掛けてくるのか。公彦は注意深く動きを見る。
一分後、台府中央高校はボールを左サイドへ。ボールを受けた一〇番の選手がサイドを駆け上がる。
幸俊がマークにつく。一〇番の選手はドリブルで揺さぶるが、幸俊は動じない。
山取東高校はパスコースを塞ぐ。一〇番の選手はそれを見て、ゴール前へロングパスを出した。
両校の選手が一斉にボールを追う。
先に触ったのは台府中央高校の九番の選手。混戦のゴール前を上手く抜け出し、右足で触った。
やさしく当てたボールはゴール右下へ。幸秀が飛びつくが、僅かに遅かった。
ゴールネットが揺れ、台府中央高校が先制した。
前半一六分だった。
九番の選手の元へ台府中央高校のフィールドプレーヤが集まる。その姿を見ながら幸秀はボールをセンターサークルへ送る。
抜け出しが上手い。全く予想出来なかった…。あそこから出てこられたら反応が遅れる。飯塚も同じだろう…。
心でそう呟くと、佳宏を見る。
「あれは反応出来ないよ。あそこから出てこられたら俺も…。台府中央の強さはホンモノだよ」
佳宏はそう言うとセンターサークル方向を見る。陽太達一年生は佳宏を見る。
スタンドで応援している昭仁は台府中央高校の九番の選手を見る。
「俺も反応出来ない。あそこから出てこられたら」
彼の隣で応援する
山取東高校ボール。樹が蹴り出し、淳吾が受ける。そして、幸俊へ。
幸俊はドリブルで駆け上がる。しかし、僅かにタッチが大きくなり台府中央高校の一〇番の選手に奪われてしまう。
一〇番の選手はドリブルで駆け上がる。
樹がマークにつく。
一〇番の選手はそれに動じることなく、樹を抜き去り、ピッチ中央へ。そして、そのままペナルティーエリア手前へ。
公彦はディフェンス陣に指示を出し、ゾーンを固める。一〇番の選手の狙いを阻む。
これ以上は無理と判断した一〇番の選手はサポートへ回った七番の選手へボールを出す。
七番の選手はペナルティーエリア右手前からドリブルで侵入。そして、クロスを上げる。
再び九番の選手が抜け出す。そして、右足で合わせた。
ボールは枠を捉え、そのままゴールネットを揺らした。
しかし。
副審がフラッグを上げている。
公彦が「狙い通り」という表情を浮かべる。
オフサイドだ。
公彦が上手くオフサイドトラップへ
「いいぞ、島川」
大石は頷く。
山取東高校のフリーキック。幸秀は大きく前線へ蹴り出す。ボールの落下地点には亮太と台府中央高校の七番の選手。二人が空中で競り合う。
僅かに届かず、台府中央高校の七番の選手が競り勝つ。こぼれたボールを六番の選手が拾い、逆サイドの一〇番の選手へ。
一〇番の選手はそのままドリブルでサイドを駆け上がる。
幸俊がマークにつき、コースを塞ぐ。一〇番の選手と睨めっこ状態。瞬きをも我慢するかのように一つ一つの動きを注意深く見る。
数秒後、幸俊は視線を左へと逸らす。それを見て、一〇番の選手は左から抜けようとした。
反対方向。
すると、幸俊は口元を緩めた。
幸俊は右足を出し、ボールに触る。するとボールは流れ、樹が拾う。そして、孝彦へと渡る。
孝彦はドリブルでペナルティーエリア手前まで迫る。
四番の選手が孝彦につく。孝彦は周囲を見渡す。
すると、樹がサポートへ。孝彦は樹へスルーパスを出す。
ボールは繋がり、ドリブルで右サイドからペナルティーエリア内へ。
ゴールは樹から見て斜め約四五度の角度。樹はそのまま右脚を振り抜いた。
陽太達は立ち上がる。
ボールはゴール左上隅へ。GKが腕を伸ばす。右手人差し指にボールが僅かに触れ、そのままゴールラインを割った。
転々と転がるボールはやさしくゴールネットを揺らす。
前半二三分だった。
公彦達とハイタッチを交わす樹。
陽太は樹を見る。
樹のプレーから何かを感じ取った瞬間だった。
スタンドで戦況を見つめる敦は中学校時代を思い出していた。
「陽太も得意だったっなあ、あの角度。マークがついてても毎回枠を捉えてた。あの精度の高さは和樹なんか比にならないくらいくらいだった…」
台府中央高校ボールで試合は再開。
「あの角度からのシュートを持つDMFか。攻守に渡って厄介な相手だな。二年後、更に凄い選手になってるぞ、陽太。ほんとに対戦するのが怖いな…」
試合は進み、前半は残り追加時間の三分のみ。
台府中央高校は素早いパスワークで山取東高校のゴールへと迫る。
山取東高校は公彦が上手く統制し、シュートを防ぐ。
「ピーッ!」
前半終了のホイッスルが鳴り、両チームの選手はロッカールームへ。雨脚が更に強くなった。
スタンドで応援していた山取東高校男子サッカー部員は全員腰掛ける。同時に、和正が何かを感じ取ったようにこう呟く。
「ボール奪取にドリブル突破、そしてあの角度からのシュート…」
「どうしたんだよ」
猛が和正に尋ねる。
和正は我に返ったように猛を見る。
「あ、いや…。なあ、猛。中学時代にさ…」
和正の問いに猛は笑みを浮かべこう答える。
「いや、いなかったよ。大輔も俺も、皆できなかったよ」
その言葉に和正は全身にゾクゾクする感触を覚えた。
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