第一六節 「まだまだだ…」

 一二分過ぎ。二、三年生チームがドリブルでゴールへと迫る。ペナルティーエリア手前。陽太が俊哉につく。俊哉はドリブルで揺さぶるが、陽太は抜けさせまいと体を張る。


 抜けないと判断した俊哉は後ろからサポートへ回った徹へボールを出す。徹はドリブルで一年生の動きを窺う。


 LSBの吉川誠よしかわまことが徹へつく。徹は誠をドリブルで抜こうとするが、体を張られ、抜くことが出来ない。


 徹は俊哉へボールを戻す。俊哉には陽太がついている。陽太は動きを窺う。


 その時。俊哉が右足を振り抜く。ペナルティーエリア手前だ。


 ボールは大海の頭上へ。大海が跳ぶが、僅かに届かない。


 ボールはゴール右上隅へ。良英が腕を伸ばす。


 左人差し指と中指を僅かにかすめ、クロスバーを叩く。ボールは跳ね上がった後、良英の掌へ。


 ゴールとはならず、二、三年生は一斉にディフェンスへ。良英は和正へボールを転がす。


 ボールを受けた和正は陽太へパスを出す。徹が陽太へプレッシャーをかける。


 それを見た陽太はボールを大きく前線へ蹴り出す。徹はボールを追う。


 ボールは空中戦を制した大海の足元へ。そして、ボールを優斗へ。 


 ドリブルでペナルティーエリア内へ侵入。優斗にはディフェンスが二人つく。

 

 優斗は一瞬だけゴールへ視線を向ける。そして、サポートに回った大輔へボールを出す。ボールを受けた大輔は右サイドをドリブルで進み、ゴール前へクロスを上げた。


 高いクロス。二、三年生のディフェンス陣が跳ぶが、届かない。


 そのボールに大二郎が反応し、頭で合わせる。


 ボールはディフェンスに当たり、跳ね返る。そのボールを大二郎が拾い、右足を振り抜く。しかし、これもディフェンスに当たる。そして大きくクリアされ、タッチラインを割る。


 ボールを目で追う大二郎は地団太を踏む。


 もうちょっとだったのに…。と。



 一六分過ぎ。徹がドリブルでボールを運び、森野幸俊もりのゆきとしへ。ボールを受けた幸俊は右サイドを駆け上がる。


 深くまで侵入すると、クロスを上げる。ボールは混戦のゴール前へ。


 先にボールに触れたのは徹。頭で合わせるが、良英が弾き返す。ボールはまだ生きている。ボールは俊哉の足元へ。俊哉はそのまま右足を振り抜く。


 ボールは枠を捉える。良英は右へ横っ飛び。


 ボールは良英の右掌に当たり、流れる。そのボールに反応した徹が右足で押し込むと、ゴールネットが揺れる。


 

 一七分だった。


 

 良英はボールを転がす。ボールはセンターサークルまで送られ、陽太がボールをセットする。


 残り時間は三分と追加時間。


 陽太がボールを蹴り出し、ゲーム再開。


 一年生チームは素早くパスを繋ぎ、速攻を仕掛ける。しかし雑なプレーが続き、なかなか前線へ運ぶことが出来ない。



 時間は経ち、残りは追加時間の二分のみ。ボールを受けた和正はロングパスを出す。ボールを上手く受けた優斗はそのままドリブルでペナルティーエリア内へ侵入。


 三人のディフェンスに囲まれた優斗は周囲を見渡す。


 誰か…。そう思ったその時。


 「優斗!」


 優斗は声のする方向へ視線を向ける。目に映るのは陽太とパスコース。優斗は迷うことなく、陽太へパスを出す。


 陽太はパスを受け、大輔へ。ボールを受けた大輔はドリブルで相手陣内深くまで侵入し、クロスを上げる。


 高く上がったクロスに大二郎が頭で合わせる。ゴール左下隅のボールを佳宏が弾く。そして、公彦が大きくタッチラインの外へクリア。


 一年生ボールのスローイン。残り時間はあと僅か。素早くボールを入れ、攻撃を組み立てる一年生チーム。


 しかし、ディフェンスに阻まれ、シュートが打てない。



 残り時間は三〇秒。


 ボールを受けた陽太は優斗へ縦パスを出す。


 上手く繋がり、優斗はドリブルでペナルティーエリア手前へ。二人のディフェンスが優斗につく。


 シュートコースは塞がれた。優斗はサポートへ回った大海へボールを出す。大海はボールを受け、そのまま陣内深くまで侵入。


 そして、クロスを上げようとした。


 しかし、その素振りだけを見せ、陽太へボールを出す。ボールを受けた陽太はドリブルでペナルティーエリア内へ。ディフェンスを二人抜き、そのまま右足を振り抜く。


 残り時間は一三秒。

 

 ボールはゴール右隅へ。佳宏が跳ぶ。


 ボールは佳宏の右手に当たり、そのまま流れる。そのボールに反応した大二郎が右足で押し込む。


 しかし、佳宏が体を張って弾き返す。そして、流れたボールを公彦が大きくクリア。


 タッチラインを割り、一年生チームのスローイン。陽太が出したロングスローを優斗が受ける。そして、ゴール前へクロスを上げる。



 目安の時間となった。これがラストプレー。


 ボールは混戦のゴール前へ。そのボールに反応したのは和正だった。


 和正が跳んだ。頭で合わせたボールはゴール左上隅へ。


 そして、そのままゴールネットへ吸い込まれた。


 佳宏は一歩も動くことが出来なかった。

 


 「ピーッ」


 時間となり、二本目が終了。


 一対一。一本目と合わせて二対一。


 一年生チームの勝利。


 陽太達一年生チームがハイタッチを交わす。笑顔を見せる一年生だが、陽太の表情にはどこか悔しさが滲む。



 大石と森が陽太を見つめる。


 「陽太君、悔しがってますね…」


 「まあ、納得出来るプレーではなかっただろうからな。ドリブル突破と最後のロングスローは良かったんだがな。全体的には…。だな」


 小さく頷いた森の視線は和正へ。


 「和正君、やっぱり上手いですね」


 「最後のヘディング、飯塚が反応出来なかった。ディフェンスで今野の動きが見えなかったんだろうな。いや、今野がディフェンスを上手く利用したのかもな」


 「それも『上手さ』ですね」


 「そういうことだ」



 挨拶を終え、ベンチへ腰掛ける陽太。そして、傾けた水筒をベンチへ置くと、こう言葉を漏らす。



 「まだまだだ…」


 陽太の視線の先には練習場に出来たたくさんの足跡が映っていた。

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