第一五節 一年生対二、三年生

 二、三年生チームボールで一本目が開始。ボールを一年生チームCFの大桑大二郎おおくわだいじろうが追う。


 一年生チームは陽太と和正以外、先日の練習試合とメンバーを入れ替えた。出場メンバーは大石によるもの。陽太と和正は先日の練習試合で途中交代した。



 「かなり入れ替えましたね」


 森の言葉に、大石は笑みを浮かべる。


 「他の子も見てみたいというのが一番だがな。ただ、次の大会でレギュラーになれるか、どれくらい伸びるかを改めて確かめたい子がいてな」


 森は二人の一年生へ目を向ける。


 「レギュラーになれそうな子は和正君。どれくらい伸びるか確かめたい子は陽太君」


 「そうだ」



 腕を組みながら試合を見つめる大石。その視線の先には陽太の姿。



 試合は一〇分過ぎ。陽太が和正からパスを受けた。そのボールをLSH(レフトサイドハーフ)の松本大海まつもとひろうみへ。


 すると、二年生の青野徹あおのとおるが大海へプレッシャーをかける。大海は一度、陽太へボールを戻す。ボールを受けた陽太は二、三年生の動きを窺う。


 次の瞬間、陽太は前線へ大きく蹴り出す。空中戦。落下地点で競り合いを制した大二郎はドリブルでペナルティーエリア手前へ。彼の目の前にはCB二人。


 大二郎はサポートを要求。それに反応し、松葉大輔まつばだいすけが後ろからサポートへ回り、ボールを受ける。そして、ドリブルで相手陣内深くへ侵入すると、右足でクロスを上げる。


 ボールにOMFの三島優斗みしまゆうとが反応し、頭で合わせる。


 ボールはGKの飯塚佳宏いいづかよしひろの右手を僅かにかすめる。そして、そのままゴールネットへ吸い込まれた。



 一年生チームが一点を先制した。


 

 ポジションへ戻る陽太は笑顔を見せているが、まだまだ自分のプレーに満足していないように大石の目に映る。



 「『ロングパスの精度が良ければもっと良い形に持っていけたのにな…』という感じだな」


 「ええ。大二郎君がCB二人にコースを塞がれましたから。良いロングパスではあったんですけど」


 「まあな。ただ、比べちゃいけないが吉体大附属の子とは天と地ほどの差だ。この差をどれだけ縮めることが出来るか。現段階ではまだまだだ」



 俺はまだまだだよな。陽太も同じようなことを思っていた。



 一対〇の状況が続き、間もなく二〇分になるところ。


 二、三年生チームがドリブルでサイドから攻撃を仕掛ける。そして、低いクロスを供給。


 ゴール前は混戦。和正と小池雅文こいけまさふみがシュートコースを塞ぐ。ボールは二、三年生チームFWの河原俊哉かわはらとしやへ。俊哉は左足を振り抜く。


 強烈なシュートは枠を捉える。GKの谷良英たによしひでが両腕を伸ばす。ボールは良英の右手に当たり、ゴールポストを叩く。そしてボールはそのまま跳ね返り、俊哉の足元へ。俊哉はそのままシュートを放つが、しかし、大きく枠を逸れる。


 「ピーッ」


 ホイッスルが鳴り、一本目の二〇分が終了。一対〇。



 陽太はベンチに腰掛け、水筒を傾ける。


 自分は何も持っていないのか。それとも、持っているものを出せていないのか。喉を潤しながら考える陽太。



 「思い切りいってはいるんだけど…」



 大石と森はそう言葉を漏らす陽太の後姿を見つめる。



 「思い切りいってはいるんですけどね、陽太君」


 「それは伝わってくる。だが、良さを出せていない」


 そう応えると、大石は練習場を眺める。


 「良いものを持っているんだがなあ…」


 それをどのようにすれば引き出すことが出来るのか。再び陽太を見つめながら考える大石。



 「和正君の方は」


 森が尋ねる。


 「予想通りのプレーだった。一年生の中ではトップだ。ベンチ入りは堅い」


 「公彦君がどれだけ引き離せるか。ですね」


 「そうだ。キャプテンだからと言って特別扱いはしない。皆平等だ」



 一年生にもチャンスはある。大石はそう話す。



 一〇分後、一年生チームボールで二本目が開始。大輔が出したボールを大海が受ける。そして、関川雄一せきかわゆういちへと渡る。


 陽太は前線へ駆け上がる。その動きを見て、雄一が陽太へパスを出す。きれいなパスだった。


 陽太はボールを受け、ドリブルで相手陣内へ。パスコースを探り、スペースを見つけた。ボールはそのスペースへ入った大海へ。大海はそのままドリブルでピッチやや右寄りを駆け上がる。陽太、優斗、大輔はそれを見て、一斉にペナルティーエリア手前へ。


 二、三年生チームはパスコースを塞ぐ。


 大海はそれに構うことなく、ペナルティーエリア外からゴール前へボールを右足で押し出すが、ディフェンスに阻まれ、ボールが渡らない。


 大海は何とかボールをキープ。しかし、ディフェンスにプレッシャーをかけられる。


 その時、陽太が手を上げる。大海の目の前にはパスコースが。大海はパスコースへ入った陽太へパスを出す。


 ボールは渡り、陽太は二、三年生の動きを窺う。


 俊哉が陽太へプレッシャーをかける。その瞬間、陽太はドリブルで俊哉を抜こうとした。


 俊哉は陽太の動きを読んでいた。


 しかし。


 俊哉はボールを奪えなかった。


 既に陽太が抜き去っていたため。


 

 陽太はペナルティーエリア内へ侵入。そこに大二郎がパスを要求。陽太は大二郎へパスを出す。大二郎はワンタッチで右足を振り抜く。


 ボールは枠を捉えたが、佳宏が見事にキャッチ。惜しくも得点とはならなかったが、陽太は手応えを感じた。


 佳宏を見つめる陽太。すると。


 「そういうことだったんだ…」


 そう呟くと、小さく頷く。そして、ディフェンスへ回った。


 

 陽太のプレーを見て、大石は。


 「それでいいんだ。ボールを奪って、ドリブルでディフェンスを抜いて。それがお前の武器だ」


 陽太に語りかけるような大石の言葉に森が頷く。



 「攻めるぞ!」

 

 

 大石の言葉からすぐに、陽太がチームメイトを鼓舞する声が練習所に響いた。

 

 

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