第一一節 練習試合㊃

 後半一六分。和正から陽太へパスが繋がる。陽太は相手選手のプレッシャーに動じることなく、ドリブルで突き進む。


 その途中、陽太は力也へ視線を向ける。彼にはマークがついている。その上、パスコースを塞がれている。


 今度は猛へ視線を向ける陽太。しかし同様に、マークがついている。だが、手前にスペースが出来ている。


 すると、思惑が一致したのか、信宏がスペースへ。陽太は小さく頷くと、信宏へパスを出す。


 見事にパスが通り、信宏はドリブルでペナルティーエリア手前へ。CB二人が信宏につく。


 陽太がサポートに回る。その動きを見て、信宏は陽太へパスを出す。


 ボールを受け、周囲を見渡す陽太。しかし、スペースが見つからない。その上、強いマークが陽太につく。陽太は八方塞がりのような状況に。


 どうする…。周囲を見渡す陽太。


 その時、陽太は相手選手の足元へ視線を落とす。


 いけるか。


 陽太は視線を相手選手の目へ。そして、そのまま股抜きを試みる。


 ボールは相手の右脚に当たったが、陽太はすかさずキープ。そして、そのままディフェンスをかいくぐろうとした。


 抜けた。そう思った次の瞬間、相手MFが待ち伏せしていた。


 抜けるものなら抜いてみろと言わんばかりに、強いマークが陽太へ。


 ここでカウンターを食らうと一気に流れが変わってしまう。そう思った陽太は何とかボールを繋ぐことを考えた。


 だが、パスコースが見つからない。


 周囲を見渡す陽太。


 その時、陽太の背後から声が。


 「陽太!」


 陽太が後ろを向くと、手を上げる和正の姿。そして、スペースが。


 陽太は迷うことなく、和正へパスを出す。


 見事に通り、和正はサイドからペナルティーエリア手前へ。CBとSBが和正につく。


 サポートに回った猛はボールを受けると、ワンタッチでクロスを上げる。ボールは混戦のゴール前へ。


 卓人がジャンプし、頭で合わせる。


 シュートはGKに弾かれたが、まだボールは生きている。


 転がったボールを力也が拾い、低いクロスを供給。そのボールに反応したのは陽太だった。


 右足からダイレクトでボレーシュートを放った。


 強烈なシュートが枠を捉える。GKが左へ横っ飛び。


 ボールはゴールポストに直撃。そして、ペナルティーエリア内へ。そのボールを相手選手が拾う。


 陽太のシュートは僅かにGKの手をかすめた。そして、ボールの動きが変わり、ゴールポストに直撃したのだ。


 ボールはペナルティーエリア外にポジションをとる六番の選手へ。力也がマークにつく。


 すると次の瞬間、六番の選手はゴール前へロングパスを出す。九番の選手が反応し、ペナルティーエリア内でボールを受ける。同時に、公太と康之がコースを塞ぐ。


 九番の選手の背後から一一番の選手がサポートへ。しかし、和正がつき、パスを送らせない。


 そのままシュートを放つか。それとも…。


 九番の選手の動きを窺う公太と康之。


 パスを出せないと思った九番の選手はそのままシュートを放つ。


 ボールはゴールポストをかすめ、ゴールラインを割った。


 

 「もう少し反応が遅れてたら試合は決まってたかもな…」


 和正が陽太に言う。


 「抜かれてそのままゴールを決められてたな…。攻撃で俺がシュートを決めてれば…」



 僅かに俯く陽太。



 「まあ、悔やんでも仕方ないさ。次だ!」


 「おう!」



 和正の言葉に力強く応え、陽太は走り出す。




 後半一九分、陽太は公太からパスを受けると、力也へ預ける。


 力也は逆サイドの猛へ視線を向ける。そして彼に向け、ロングパスを出す。


 パスを右足で受けた猛はドリブルで相手陣内深くへ侵入。


 相手SB(サイドバック)が猛のマークにつく。


 俊が猛のサポートに回るが、パスコースを塞がれる。


 ドリブルで突破するか。それとも、クロスを上げるか。猛はボールを持ったまま動けない。


 その時、陽太が手を上げる。それからすぐ、猛は右足でボールを押し出す。


 陽太はワンタッチで右足からシュートを放つ。


 枠を捉えた。


 だが、ゴール前にポジションをとっていたSBによってボールは大きくクリアされ、タッチラインを割る。


 陽太はボールの行方を目で追う。



 「どうやったらゴールを奪えるんだ…?」


 シュートが決まらない自身への苛立ちが募った陽太。地団太を踏んだ後、攻撃に参加。


 

 ベンチ前では陽太と同じポジションの友川将司ともかわまさしが大石に呼ばれる。


 

 「仙田と交代だ」


 「はい」


 将司はスパイクの紐を結び、立ち上がった。


 その瞬間、陽太はベンチへ視線を向ける。


 「交代か…」


 俯く陽太。


 だが、まだプレーは続いている。


 

 山取東高校はパスで繋ぎ、卓人へ。卓人が右足で放ったシュートは枠を大きく逸れた。


 それを見て、審判がボードを掲げた。ボードには陽太と将司が着用するゼッケンの番号が表示される。


 陽太はここで交代となった。


 後半二三分だった。


 陽太はピッチに一礼し、ベンチへと下がった。


 「お疲れさん」


 大石は陽太に労いの言葉を掛ける。

 

 陽太は大石に一礼し、ベンチから試合を見守った。


 プレー中は何ともなかったが、ベンチに下がった瞬間、猛烈な疲労が陽太を襲う。


 大石が陽太を下げた理由はそれだった。



 試合は吉田体育大学附属高校優勢で進む。陽太の耳にはゴールネットを揺らす音が複数回聞こえる。



 「ピーッ」


 そしてホイッスルが鳴り、試合終了。


 六対一。


 完敗だった。


 陽太の目には悔しさで項垂うなだれるチームメイトの姿が映る。


 そして、その光景はやがてぼやけていく。気付くと陽太は俯きながら目頭を押さえていた。

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