第一〇節 練習試合㊂

 「ピーッ」


 前半終了のホイッスル。


 三対一。


 両校の選手はベンチへと歩く。


 「やっぱり上手いな…」


 陽太は相手選手を見つめながらそう呟き、ベンチへ腰掛けた。そして、水筒のミネラルウォーターで喉を潤す。


 「惑わせるのが上手いな」


 和正が陽太の隣へ腰掛ける。


 「ああ。それに、裏への抜け出しも」


 陽太はそう応えると、視線を再び相手選手へ。


 三失点を喫したが、攻撃ではいい形を作ることが出来た山取東高校。だが、あと一歩のところでゴールが決まらない。


 「得点が入っていれば状況は変わったかもしれないけど…。『たられば』だしなあ…」


 陽太はそう呟き、水筒を傾ける。気付くと半分以上飲み干していた。


 水筒をバッグへ入れ、タオルで額の汗を拭う陽太。


 すると、背後から陽太を呼ぶ声が。その声で陽太は振り向く。


 視線の先には大石の姿。



 「いいか?」


 大石は陽太を手招きし、少し離れた場所で言葉を贈る。陽太は時折「はい」と頷きながら大石の話に耳を傾ける。


 しばらくし、陽太の表情に変化が。



 「え…!」


 大石は陽太の肩に手を置き、続ける。


 その三分後。



 「以上だ」


 「ありがとうございます…」


 陽太はお礼を伝え、ベンチへ戻る。



 「どうしたんだよ」


 「いや…。俺に…」


 

 和正の問いに、陽太は上手に答えることが出来なかった。



 和正はペットボトルを持ったまま陽太を見つめる。しかし、特に何も尋ねることなく、ミネラルウォーターで喉を潤す。


 しばらくし、大石へ視線を向ける和正。大石は力也と言葉を交わしていた。


 二人の様子をしばらく見つめ、再び陽太へ視線を向ける。すると、相手選手を見つめる陽太の姿が和正の目に映る。


 この時、和正はあることを察した。


 

 ハーフタイムが終了し、両校の選手が続々とベンチから出る。選手交代はない。


 「ピーッ」


 吉田体育大学附属高校ボールで後半が始まった。サイドを広く使い、パスを回す。一度、GKへ預ける。GKは大きく前線へ蹴り出した。


 ペナルティーエリア手前での空中戦。陽太が競り合うが、僅かにボールに届かず。


 ボールは転がり、九番の選手の元へ。信宏がプレッシャーをかける。九番の選手は信宏へ視線を向けながら一一番の選手へパスを出す。


 力也が彼のマークにつく。一一番の選手はフェイントをかけるが、力也は惑わされない。


 山取東高校はパスコースを塞ぐ。


 九番の選手はドリブルで抜け出そうとした。しかし、力也がコースを塞ぐ。


 九番の選手がサポートを求める。すると、陽太の後ろから七番の選手がサポートへ向かった。陽太はそれを見て、七番の選手のマークにつこうとした。

 

 その時。


 九番の選手はそれを見て、七番の選手へパスを出す。


 陽太が七番の選手につこうとした時にスペースが出来てしまった。


 七番の選手はサイドを駆け上がると、クロスを上げた。


 ゴール前には九番の選手。


 フリーだ。


 公太と和正がシュートコースを塞ごうと、ボールに足を出す。


 だが、その前に右足を振り抜かれてしまった。


 決められてしまったか。そう思った和正と公太。


 だが、二人が目にしたのはボールがタッチラインを割っていく場面だった。


 ゴール前へ目を向けると、二人の目に映ったのは右膝に手をつく陽太の姿。



 「大丈夫か?膝」


 歩み寄った信宏に笑顔で「大丈夫」とサインを送った陽太。


 

 「いつの間にゴール前に…」


 和正はそう呟きながら立ち上がった。


 「神出鬼没というか…」


 そう呟いた公太も立ち上がった。


 「何でお前があそこにいたんだ…」


 二人は声を合わせた。



 九番の選手がスローインを出すと、七番の選手へボールが渡る。彼に陽太がつく。七番の選手は一一番の選手へボールを送る。


 ボールを受けた一一番の選手に力也が彼につく。


 それからすぐ、ボールは七番の選手へと渡る。その後、吉田体育大学附属高校はサイドを広く使い、パスを回す。


 ボールは七番の選手へ。


 すると、ワンタッチでロングパスを出す。ボールは逆一一番の選手へと繋がる。


 すかさず力也が一一番の選手へプレッシャーをかける。


 一一番の選手はサポートへ回った八番の選手へパスを出す。八番の選手はドリブルでペナルティーエリアへ侵入する。


 和正が八番の選手に対応。


 ドリブルで和正を揺さぶった八番の選手はゴール前へクロスを上げる。公太が跳ぶが、届かない。


 そこに、ゴール前へ上がった七番の選手がボールに反応し、頭で合わせる。


 昭仁が両腕を伸ばすが、僅かに届かない。



 すると次の瞬間、ボールを蹴る音が。そして、ボールはペナルティーエリア外の八番の選手の足元へ。


 八番の選手はもう一度クロスを出すが、平川康之ひらかわやすゆきが頭でクリア。


 一一番の選手がこぼれ球を拾い、シュートを放つが、枠の上。


 ゴールキックとなった。


 

 昭仁が転がしたボールは和正、陽太と渡る。ボールを受けた陽太はドリブルで相手陣内へ侵入。


 

 和正は何かを疑問を抱くように陽太の背中を見つめる。



 「何でこんな凄い選手が活躍出来なかったんだよ…」


 技術か。


 それとも環境か。


 いいや、どちらも違う。


 その答えはある人物の言葉の中に隠されていた。


 

 

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