第九節 練習試合㊁

 前半二五分。二対〇の状況。


 空中戦を制した力也は陽太へボールを出す。


 相手の動きを窺う陽太。そこへ、一〇番の選手が陽太へプレッシャーをかける。陽太はボールを右足で僅かに動かすと、左サイドにポジションをとっている猛へ視線を向ける。それを見て、相手選手が猛マークにつく。


 陽太は猛へのパスを諦め、右サイドの力也へパスを出そうとした。


 すると、一〇番の選手が力也へ視線を向ける。


 陽太はそれを見て、ドリブルでプレッシャーをかけた選手を抜き去る。一〇番の選手は「しまった」というような表情を見せる。


 陽太が上手く惑わせた。


 相手DFがペナルティーエリア内への侵入を阻もうと、陽太につく。前線へのパスコースを塞がれてしまった陽太は後ろからサポートへ回った猛へボールを預ける。猛は左サイドをドリブルで駆け上がる。そして、相手陣内深くまで侵入すると、左足でクロスを上げる。


 ボールは混戦状態のゴール前へ。ゴール前にはCFセンターフォワード浅田卓人あさだたくとがポジションをとっていた。


 卓人が跳ぶと同時に、相手DFも跳ぶ。


 空中での競り合い。先にボールに触れたのは卓人だった。


 卓人が頭で合わせたボールはゴール右上隅へ。


 入ったか。一瞬そう思った卓人。


 だが、入らない。


 ボールは相手DFに上手くクリアされてしまい、ペナルティーエリアの外へ流れる。ボールを拾った力也はドリブルでペナルティーエリア内へ侵入すると、視線を陽太へ。そして、迷うことなく彼へパスを出す。


 ボールを受けた陽太の目の前には相手DF。


 パスコースは塞がれている。選択肢は限られた。


 陽太はドリブルで突破し、そのまま相手DFをもう一人かわす。そして、シュートを放つ。


 ボールはゴール左上隅へ。


 入れ!そう念じた陽太。


 GKが左へ横っ飛び。ボールはGKの右手に当たり、クロスバーを叩き、跳ね上がる。


 そのボールに卓人が頭で合わせると、再びボールはゴール左上隅へ。


 入れ!陽太が念じた。


 ボールはGKの指に触れ、ゴールポストに当たる。ボールはまだ生きている。そのボールに反応したのは前線へ詰めていた和正だった。


 ゴールエリア内で右足を振り抜くと、ボールはゴールネットへ鋭く突き刺さる。


 得点となり、二対一。


 前半三三分だった。


 「ナイス!」


 陽太が和正に言葉を掛ける。



 「陽太が攻めてくれたおかげだよ。さあ、ディフェンスだ!」


 「うん!」



 この得点で吉田体育大学附属高校の選手の心に火がついた。


 

 前半三四分。細かくボールを繋ぐ吉田体育大学附属高校。


 山取東高校はゾーンディフェンスを敷く。


 


 相手GKが蹴り出したボールはペナルティーエリア付近へ。三対三の空中戦は吉田体育大学附属高校が制し、九番の選手がボールをキープ。


 すると、両サイドの二人の選手が同時にゴール前へ走る。それを見て、LSBレフトサイドバック伊東俊いとうしゅんRSBライトサイドバック長山健人ながやまけんとがゴール前に走った選手につく。


 すると「かかった!」と言うかのように後ろから一一番の選手が駆け上がる。


 フリーの状態。


 九番の選手は一一番の選手へパスを送る。一一番の選手はワンタッチで右足を振り抜く。


 陽太はシュートを防ごうと身を投げ出したが、一瞬遅かった。


 ボールは豪快にゴールネットを揺らし、得点となった。


 三対一。再び二点差になった。


 センターサークルへボールが戻される。陽太が蹴り出し、ボールを細かいパスで回す。


 陽太がチームメイトへ視線を向けると、僅かに顔を俯ける姿が目に映る。


 その時、陽太が手を叩き、声を掛ける。



 「ここから!ここから!」


 陽太の声で猛達は顔を上げ、走り出した。



 パスを受けた陽太にマークがつく。陽太は猛へパスを出す動きを見せるが、相手は惑わされることなく、陽太の動きを注視する。


 ボールを持ったまま動けなくなった陽太。


 見破られてしまったのならば仕方ない。そう思った陽太は一度、サポートへ回った和正へボールを預ける。和正が周囲を見渡している間に陽太は相手選手のマークを突破。それを見て、和正は陽太へパスを出す。


 絶妙なパスだった。


 ボールを受けた陽太はドリブルでペナルティーエリア手前へ。相手DFがシュートコースを塞ぐ。


 味方にはマークがついている。下手に出しても奪われてしまう。


 陽太は左から抜ける動きを見せる。すると、相手選手も同じ方向へ僅かに動く。そして、一瞬早く陽太が右へ抜ける。



 「一五番!」


 陽太が着用していたビブスの番号だ。


 相手DFが陽太に追いつく。


 だが、その前にボールは放たれていた。


 陽太の右足によって。


 難しい角度からのシュート。枠は捉えたが、GKのファインセーブによって弾かれる。


 ボールは転がり、相手DFへ。陽太がボールへ右足を出すと、つま先に当たり、転がる。


 ボールを信宏が拾う。そして、相手ディデンスをかわし、右足を振り抜く。


 ボールは枠を捉える。


 だが、相手DFのディフェンスにより、ゴールとはならなかった。ボールはそのままゴールラインを割る。


 絶好のチャンスだったが、決めきれなかった。


 だが、山取東高校コーナーキックを獲得。チャンスは続く。


 ペナルティーエリア手前にポジションをとる陽太。その姿を見た高山は一一番の選手を呼び、こう言葉を掛ける。


 「あの一五番に気を付けろ」


 陽太の能力に気付いた人物が増えた瞬間だった。

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