9.イチャイチャバカップル
政臣と姫愛奈が異世界に来てからおおよそ一年が過ぎた。帝政貴族軍は正式に神聖バラメキア帝国の後継を名乗り、シャルロットをバラメキア皇帝の正統なる後継者、すなわち第三十五代皇帝〈シャルロット一世〉として即位させた。全種族共存連盟はシャルロットがバラメキア皇族の血を引く人物であるということを公式に認めはしたものの、帝国の後継者であるということは認めなかった。一方未だに残っている他の武装勢力に関しては、専制政治を否定する共和主義や社会主義系の勢力等は真っ向からその宣言を否定したが、独立した貴族などの諸侯等は比較的好意的に受け止めるなど、反応は様々であった。
イリオス地方の人々はと言うと、概ねシャルロットの皇帝即位を認め、『我らの
これには「シャルロットが帝政貴族軍と勇者たちを率いてイリオス地方を解放してくれた」という言説が広く流布されているからでもあるが、一番の要因は即位式のとある出来事である。
即位式はおよそ半年かけてエル・ビ・カタリアの中心部が再建され、新たな宮殿が半分ほど完成した頃に行われた。宮殿内の庭園に適当に人を集め、地方内の親帝国的な新聞社を呼びつけて行った即位式は、正統な後継者による即位式というより、僭称者による勝手な即位宣言のようだと政臣は思った。
可憐な少女が自ら至高の冠──滅亡前の冠は消失していたため、急遽アマゼレブがコレクションから引っ張り出した物を使っている──を被り、即位を正式に宣言した時、突如として上空が金色に輝き始めた。それは事前にアマゼレブとの打ち合わせで考えられた、「シャルロットが神に選ばれた君主である」という主張を補強するためのパフォーマンスであった。人々はその光に困惑したが、高官専用の席に座って見ていたヘルムートが、
「シャルロット陛下の即位を神が認めたのだぁ!!」
と叫んだために人々は途端に熱狂し、シャルロットの即位を認め、神に選ばれた君主の誕生を喜んだのである。
「すげえ!本当に神に選ばれたんだ!」
「ばんざーい!シャルロット陛下ばんざーい!」
即位式で起きたこの『発光現象』に対し、連盟は「魔法によるものである」としこれを一笑に付そうとしたが、人間・亜人関係なく大陸中の魔法学者たちがこぞって「あんな大がかりな魔法は現実的に不可能」という見解を発表したがために連盟は大恥をかくことになり、人々の間では突然現れ実質的に帝政貴族軍の味方をした謎の空中要塞の存在も相まって、シャルロットが本当に神に選ばれた君主なのでは?という疑いを持たせる結果となった。結局茶番劇に終わるはずだった復古主義者たちの活動は、大陸に多かれ少なかれ影響を与えることになったのである。
旧宮殿での制圧作戦以来、政臣と姫愛奈は表立って外に出て戦うことをせず、だらだらと空中要塞フィロンで暮らしていた。一方の傑たちは積極的に訓練をし、帝国の広告塔として人々の前に出ていた。アマゼレブも滅茶苦茶な仕事を押しつけたりせず、政臣たちの世界でいう三大宗教のように人間たちの間で広まっている宗教〈ハルス教〉の御神体として崇められる状態に鼻を高くし虚栄心を満たしていた。ハルス教の御神体である〈サヘラルス〉という神は万能の力を持ち、慈悲深く人間の青年の姿をしているとされており、万能であることと慈悲深いことを除けばアマゼレブと合致する姿だったのである。ゆえにシャルロットは国策として各地の教会にアマゼレブの姿を模した像を置き、「サヘラルスの本当の姿」として崇めるよう推奨したのだ。
『いや~、気分が良いなぁ!定命の者共に敬意を表されて崇められるっていうのは!』
アマゼレブは御神体の話をするとき、わざわざあおくんの体内に『収納』されている木像から、わざと声音を大きくして政臣と姫愛奈の二人に話しかけるのだった。
『見ろ見ろ!お前たちくらいの歳のやつらも私の像に供物を捧げてるぞ!』
千里の鏡にはサヘラルス……もといアマゼレブの像にお菓子をお供えする青年と少女が映っていた。
『アマゼレブの偉大さが分かってるわね!』
アマゼレブのことが大大大好きなピスラはいつも彼の言葉に賛同した。最近は機嫌が良いのか、アマゼレブはピスラを邪険に扱わずいつも近くに居させているようだった。
「ね~え~?そんな下らないもの見てないで私に構って~?」
鏡の映像には全く興味を示すことなく、姫愛奈が政臣の灰色のワイシャツ以外何も着ずに誘惑していた。情欲に淀み、とろんとした目で見つめてくる姫愛奈を横目に政臣は疑問に思ったことを口にする。
「その……何で俺のワイシャツを?」
「何言ってるの?政臣くんは私のものだから、政臣くんの物は私の物なの」
「そっすか……」
「それにこれ政臣くんの匂いがして興奮してくる……」
「……姫愛奈さん?」
姫愛奈は無言で政臣の胸に顔をすり寄せる。
「姫愛奈さん、まだ朝の八時だよ」
「時間なんて関係ないでしょ?私たちはもう人間じゃないんだから……」
「昨晩から六時頃までずっとしてたじゃないか」
「疲れたの?」
「いや……疲れてはないよ」
「そう。じゃ、しましょうね」
姫愛奈は顔を政臣の下半身に寄せる。ズボンのベルトを外し、チャックを開く。
「う……」
「気持ち良い?」
「うん……うぐっ!?」
姫愛奈はしばらくその白く細い指で政臣を弄び、反応を楽しんだ。
「ふふ……可愛い顔……。私に攻められるの好き?」
「攻める方が好きかな」
「強がっちゃって……」
「あうっ!姫愛奈さん、ちょ、ヤバい……!」
蠱惑的で
******
「政臣どの、どうしたでござるか?心なしかやつれているようでござるが……」
午後、 傑が剣を振るって訓練している所を見学しに来た政臣に、士門が顔を覗きながら尋ねた。
「いや、あの……体力が化物レベルになっても、連続で果てたら虚脱感はとてつもないものになるってことさ……」
「あっ……そうでござるね。うんうん。これ以上の詮索はしないでござるよ」
「こんな所にいた!なんで私を放って行っちゃうの!?」
二人は声のする方を向く。葉瑠が駆け寄って来ていた。傑たちは政臣と姫愛奈よりも早く異世界に来たが、容姿はほとんど変わっておらず、強いて言えば身長が一、二センチ伸びた程度である。転移魔法の副次効果の一つであり、老化を阻害されているようだと魔法専門家のシャルロットは結論付けた。
「だって料理を作るのに夢中になっているようでござったから、こっちは待ってるだけで暇だったから……」
「ちゃんと椅子に座って待ってなさいよ!あんたの為にわざわざこの私が作ってあげてるんだからね!」
「絵に描いたようなツンデレ……」
「何、青天目」
「いや、何でもない」
政臣が睨んでくる葉瑠から顔をそらすと、その先に姫愛奈の笑顔があった。
「うわっ!?」
「政臣くん♡」
姫愛奈は一目も憚らず抱きつき、政臣の首にキスをし始める。姫愛奈は政臣の着ている黒い制服に似たものを着ており、赤いミニスカートをはいている。姫愛奈のゴスロリ戦闘服は夏井に拘束された際に紛失した為に新調する必要に迫られた。そんな時、姫愛奈が「政臣くんとお揃いにしたい!」と駄々をこねた為、アマゼレブは政臣の戦闘服と似たものを探して与えなければいけなくなった。結果、政臣と姫愛奈の戦闘服はほぼペアルックのような状態になった。
「政臣どのと姫愛奈どのは相も変わらずラブラブでござるな~」
「やめてくれ士門」
「政臣くんったら、私をさんざん気持ちよくさせて放置するなんて……やっぱり政臣くんSの気があるわ」
「いやっ、だって、呼び掛けても応えなかったから……」
「意識が戻るまで傍にいてほしかったな~」
「意識……!?アンタ、どんなプレイをしてるの!?」
葉瑠は赤面しながら政臣に尋ねる。
「いやいや、普通だから」
「私がイッテる所を更に攻めたりしてぇ……性感帯を私が一番気持ちよくなるように攻めたりぃ……」
「……政臣どの、そんなエロ同人みたいなことを……」
「違う!姫愛奈さんを優先したらそうなるんだし、別に俺の癖じゃないから!」
「なんてこと……あんまり参考にならないわね……」
「ん?」
「へ?」
「参考?」
葉瑠の呟きに三人が反応する。
「あっ……なっ、何も言ってないわよ!何も士門とそういう関係になりたいとかそういうのじゃないからね!」
「全部言ってやがるぜこのツンデレ」
「素直じゃないわねぇ……私と政臣くんみたいに身も心もがっちり繋がってるようじゃないと……」
「違う違う!士門と一緒になりたいなんて思ってない!」
「えっ、葉瑠どのは拙者と一緒なのがそんなに嫌でござるか……?」
士門はすかさずショックを受けたような表情を浮かべる。
「ふえ?」
「そうでござったか……なら、葉瑠どのの気持ちを優先して、拙者はこれからなるべく近づかないようにするでござるよ」
そう言って士門は立ち上がろうとする。しかし葉瑠は袖を掴んでそれを阻む。
「まっ、待って!」
「え?一緒にいたくないんじゃ……」
「一緒にいたい!士門がいい!嘘でもそんな意地悪しないで……」
葉瑠の目はたちまち涙で一杯になる。
「ちょっ!?」
「か、からかい過ぎちゃったかしら?」
「は、葉瑠どの、調子に乗りすぎたでござるよ。だから許してほしいでござる」
そうやって四人が騒いでいる間、傑は無言で剣を振っていた。
(俺の訓練を見学しに来たんじゃないのか……!?イチャイチャしやがって!俺だって利奈と……!)
そんなことを考えながら傑は必死に訓練に励むのだった。
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