8.未来の皇帝陛下強奪戦

 空中要塞フィロンの指令室。対空砲につく兵士たちをモニター越しに見ながら政臣はひとりごちた。


 「俺たちが来るのは分かっていたはず……。移送するか迎撃するかで意見が割れたのか。何処かへ移送するのが正解だったのに、愚かな奴らだ」


 政臣は指示を待って立っているルドラーに言った。


 「部隊を出せ。今度はかなりの人数だぞ」


 要塞の広場からルドラーを満載した輸送機が次々と飛び立っていく。城を守備する兵士たちは射程圏に入った輸送機を狙い撃つが、バリアによって防がれる。輸送機は攻撃をものともせず城の前の平原に強行着陸し、ルドラーたちが城に進軍を開始する。兵士たちは防衛戦を構築し土嚢に隠れながら軽機関銃を撃ちまくる。ルドラーは永久に動き続ける機械人形だが、胸の部分にあるコアを破壊されると活動を停止してしまう。しかもコアは簡単に破壊出来てしまうため、軽機関銃の弾丸にコアを撃ち抜かれたルドラーは唐突に動きを止め、そのまま地面に突っ伏して灰となって崩壊していく。だが、如何せん数が多いために兵士たちにとっては撃っても撃ってもキリがないのだった。


 モニターから様子を見ていた政臣は隣にいるピシュカに声を掛けた。


 「それじゃあ、大臣はここで様子を見ていてください」

 「ああ。気をつけたまえよ」


 指令室を出た政臣は広場に向かった。輸送機が一機だけ残っており、映像に映っていた白色で自動小銃を持っていたルドラーと違い、灰色に軽機関銃を携えたそれが待っていた。その集団の前に傑をはじめとするクラスメイトたちがいた。


 「本当に俺たちは行かなくても良いのか?」


 そう言ったのは傑だった。完全に連盟側のクラスメイトと敵対すると決めた訳ではないのだが、この状況では敵のような動きをしなければならないというのは皆分かっていた。


 「ああ。──いや、別に役に立たないから連れていかないとか、そういうのじゃないからな。皆はまだ明確に向こうの敵になった訳じゃないからね。それにこういう面倒事は俺と姫愛奈さんの仕事だから」

 「……」


 複雑な顔をするクラスメイトたちを置いて政臣は輸送機に入っていく。その間、待機していたルドラーたちが政臣の影に溶け込んでいく。輸送機の中は魔法で拡大され、豪奢な装飾が施された大広間のようになっている。この外から中に入る際に感じる空気の変化に政臣はいつも違和感を感じるのだった。


 姫愛奈は革張りのソファーに座り、太ももにスライムを乗せて優しく撫でていた。


 「利奈たちは連れていかないの?」

 「うん。しばらくは要塞にお留守番してもらうよ。俺たちが無理やり連れてきたようなものだからね」

 「連れてきたんじゃなくて助けてあげたの。庇護下に置く代償に働かせるべきよ」

 「まだ向こうの翼たちを信じてるやつらもいるかもしれないでしょ。今はダメ」


 政臣は不満そうな顔をする姫愛奈の肩に手を置く。姫愛奈はその手に自分の手を重ね合わせる。


 「それに、あのいけ好かない神様の遊びに巻き込む気にはまだなれないからね」

 「ん……」


 輸送機は悠々と空を飛んでいく。モニターにはルドラーたちが防衛戦を突破して城に入っていく様子が映っていた。


 「長官さんはどこかしら?」

 「映像に映ってないとなると、もう城の中かもね」


 ヴィオレッタは自分の部下を引き連れ白色のルドラーと共に城内に進入していた。長い廊下に構築されたバリケードを破壊し、一つ一つの部屋をしらみ潰しにしながらシャルロットを捜索していた。


 「普通に考えて、地下か隠し部屋なんかに居るはずだけど……」

 「城の図面には地下二階までありました。おそらくは……」

 「手分けして探しましょう。あなたは二階、あなたは三階。あなたは──」


 ヴィオレッタはてきぱきと部下たちに指示を出す。指示を受けた部下たちはそれぞれルドラーを二十体ほど連れて各々の担当の階へ向かっていった。


 「さて、既に移送された後で、コイツらは捨てゴマの部隊でないことを祈りましょうかね……」


 ヴィオレッタは廊下に倒れている兵士の死体を一瞥して歩き始めた。



******



 輸送機から降りた政臣と姫愛奈は二手に分かれて行動を開始した。魔法による攻撃でルドラーたちが倒されていたのを見て優先的に排除するべきと判断したからである。普通なら対魔物戦闘に駆り出される魔導士たちが想定よりも多く配置されていることに若干の違和感があったが、二人は目の前の戦闘に集中することにした。


 爆発する火球で攻撃している魔導士の集団を城を囲む門の上に認めた姫愛奈は高跳びして門の上に到達すると、そのまま容赦の無い攻撃を始めた。援護の必要性を全く感じない状態を見た政臣は、制帽の位置を調整し対魔法効果が付与された黒いコートを羽織っていかにも悪役といった風情で城に入った。


 城内では至るところから銃声が聞こえていた。兵士の死体とルドラーであったと思われる灰の塊が長い長い廊下のカーペットの上に無造作に転がっていた。


 バリケードの瓦礫をまたぎながら政臣は思った。


 (長官さんたちは未来の皇帝陛下を見つけただろうか……。この地域は完全に連盟の勢力圏だから援軍が急行してくる前に撤収しないといけないんだけど)


 唐突に意識が引っ張られる。間一髪のところで魔法の矢を避け、政臣はモーゼル・フェイクを片方だけ抜く。常人であれば一瞬でしかない時間で政臣は数メートル前方に手のひらを突き出している二人の魔導士を視認し射撃する順序を決めてモーゼル・フェイクを構える。エメラルドグリーンのようにわずかに青みがかった緑色のエネルギー弾がほとんど間をおかずに二発発射される。エネルギー弾は的確に二人の魔導士を撃ち抜いた。魔導士は吹っ飛ばされるように倒れる。奥から兵士の集団がやって来た。ただの兵士たちも翼たちの仲間と認識されている可能性があるため、政臣は普段のように余裕綽々といった様子を見せずもう片方のモーゼル・フェイクも抜いて即座に二丁を連射する。人間をやめたおかげで反動も気にならないのはやはり政臣に一種の気味の悪さを感じさせるが、すぐに慣れることだと頭から余計な思考を追い出す。兵士たちは反撃の余地も得られないまま次々と倒れていった。


 兵士たちは正面からの対決をやめ待ち伏せ戦法を取り始めていた。この戦法はルドラーに対しては一定の効果をもたらし、各所で足止めに成功していた。しかしそれは政臣には通用しなかった。殺気と気配をその都度察知した政臣は、無慈悲に壁越しやドア越しでの射撃を食らわせた。ドアが開くとピンが抜けて手榴弾が爆発する仕組みのトラップに数度出くわすも爆破耐性も持つコートで体を隠すことでダメージを防ぎ一切の容赦無く兵士たちを撃ち抜いていく。


 (広い!この城広すぎるぞ。やっぱり空から砲撃かなにかで一部分だけでも吹っ飛ばすべきだったか……)


 政臣はそう心の中で計画に対する後悔と言えなくもない事を言いながら城の中の菜園に出た。


 「いや、こんなとこには居るわけないか……」


 菜園を軽く見回し、そうひとりごちて菜園をそのまま横切ろうとすると、頭上から大声が降ってきた。


 「うおらああああぁッ!」

 「!?」


 太陽に重なってその姿はよく視認出来なかったものの、太陽光で光る剣先は見えたため、政臣は瞬間的にサーベルを生成して剣撃を受け止めた。


 「不意討ちで大声を出すバカがいるか!」

 「この──」


 襲撃者は政臣から距離を取り、銅色の剣を政臣に向けた。


 「……サッカー部か」

 「まさかお前にここで会えるとは……」


 その襲撃者は、政臣にははっきりとした面識は無かったものの、クラスの陽キャグループの一員でサッカー部で活躍している人物だった。


 「悪魔に魅了されたお前を倒せば、俺も英雄だ!」

 

 それはシャルロットを警護する目的で派遣された勇者、中山誠だった。


 


 


 


 


 

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