4.(急募)建国の際、象徴になってくれる王族や有力貴族の血を引く方

 反連盟派のクラスメイトとピシュカ、ヴィオレッタを受け入れて一週間。要塞内のとある場所、アマゼレブを型どった像が置かれている部屋で政臣と姫愛奈はアマゼレブからめちゃくちゃな要求を突きつけられていた。


 「は?今なんて言った?」

 『国を建国しろ、と言った』

 「……全く、悠久の時を生きた影響で脳が萎縮しちゃったのね」

 『お前たちとの契約を破棄するぞ』

 「本気かよ!自分が何言ってるか分かってんのか?」

 『本気も本気だ。今、この大陸では連盟に反対する連中や混乱に乗じて独立した勢力が『政府』を名乗って各地で独立を謳っている。連盟は兵を送って対処しているが、数の多さに手を焼いている。ここで我々の力を以て独立勢力を併呑し、国を立てることで連盟との対立構造を作り出す。敵が無くならないようにすればこの世界の混乱は収まらない。その内連盟は限界点に達して崩壊し、またまた混乱が続くという寸法だ』

 「すごいガバガバな計画だな。各地の軍閥や独立勢力を吸収合併するのは良いとして、今度は俺らの支配に反対する勢力が出てくるぞ」

 『なに、圧倒的な力があるだろう。我々は『悪役』なんだぞ?恐怖による体制の維持はザ・悪役って感じだろ』

 「なんか最近IQ下がってない?」

 「確かに体制維持の為の兵士は十分持ち合わせているけど、その体制を成立させる為の指導者も官僚も居ないじゃない」

 『この混乱であちこちに政治家や学者が散らばっているだろう。その上澄みを見繕って連れてくれば良い』

 「正気か……?」

 『既に二人は調達しているだろ』

 「あの二人!?いや、確かに国政に関与していたけど……」


 こんな行き当たりばったりの計画に同意して参加してくれるものか。ピシュカとヴィオレッタはあくまで身の安全を求めてやって来たに過ぎない。首を縦に振るかどうか。何故かピシュカはこちらに全幅の信頼を寄せているが、それでも「国を作るつもりなのでその国の大臣、やってくれませんか」なんて言える訳がない。それに、国を作る以前の問題が存在していた。


 「やっぱり無理だ」

 『何故?』

 「れっきとした『象徴』となる存在が居ない。連盟に参画せず独立を謳う勢力の種類は大きく分けて三つ。旧国家の駐屯軍や軍集団が丸々反旗を翻した、イメージ通りの軍閥。私兵と荘園を持つことを許されていた貴族。そして民主主義、社会主義、復古主義等々種々雑多なイデオロギーを掲げる自称政府たち。これらには一貫して大義名分や参加する者たちを結集させるシンボルとなるイデオロギーなんかがある。俺たちが持ってるシンボルと言ったら強いて傑たち勇者しかない。だけど、既に勇者を象徴として求心力を強めるという方法は連盟がやってる。しかも公的には傑たちも連盟に参加してるってことになってる。ここで勇者を象徴にして立っても、連盟が「偽物だ」と言ってしまえば一気に象徴としての力が無くなる。仮に傑たちが参加してないって主張するにも、旧国家の残骸みたいな集団が言っても負け惜しみ程度にしか捉えられないだろ?」

 「……確かに。国ってのは国民ありきだものね。その国民を集めて留めるシンボルが必要って訳ね」

 『ふむ……具体的には?』

 「政治家の甥でこう言うのはなんだが、俺は明確な主義主張を持ってない。話を聞く限り大臣や長官さんにも傾倒しているイデオロギーが無いとなると……さしずめどこかの王族か大陸でも名の知れた貴族の血を引いてる誰かを擁立して国を建てるのがベターだろ。事実、独立した貴族のやつらは自分たちを君主とした地方王国を名乗ってるからな。『とうとい血』ってのは重要視されるもんだ」

 『なるほど』

 「まあぶっちゃけると、一般人って王族とか貴族なんかに憧れがあるから安直に青い血が流れてる人を名目上のトップにしたら良くね?って感じなんだけどね」

 「でも、やっぱり問題が有るわよ。その王族か貴族はどこから連れて来るの?今のところどの国の王族も連盟に反対した人たちはみーんな軟禁状態にあるわよ。それに助けるにしてもこんな胡散臭い神様を信じるかどうか……」

 『お前ら、本当に私に敬意というものを払わないな』

 

 その言葉を聞いた二人は同時にアマゼレブを鼻で笑う。


 「あいにく神を信仰する趣味は無いんだ」

 「そうそう。関心があるのは政臣くんだけだから」

 『コイツらホントに……おい!笑うなピスラ!いつの間にかやって来てしれっと私の隣にいるんじゃない!』

 『そうやってツンツンしちゃって……私が来たのが嬉しいって言えば良いのに。というわけで二人共、アマゼレブ借りるわね』

 『はっ?何を……ちょ、待っ──いや力つよ!おい、やめ──』


 ザザっとノイズのような音がした後、突如として部屋に静寂が訪れた。


 「……もしもーし?」

 「本当に連れてかれたみたいね」

 「ピスラって見た目的には俺たちと同い年くらいのはずなんだが……アマゼレブって神視点では非力な方だったりして?」

 「さあ。でも、私たちにはまた新しい課題が出されたわよ。アマゼレブが戻ってくる前に国づくりの初期段階程度は終わらせないと」

 「思うんだけどそんな数日に渡ってヤることヤるってのはどうなんだ?」

 「じゃあ、ヤってみましょうか?」

 「うっ、いや……」


 獲物を捉えた目でにじみ寄ってくる姫愛奈から政臣は距離を取る。


 「ひ、昼間はダメ!人目があるから!」

 「……。む~。しょうがないわね」

 「しょうがないとかそういう問題じゃない……」


 政臣はホッと胸を撫で下ろした。



******



 「は?もう一度言ってくれ」

 「えと、その……国を作ろうって……」


 昼食の席で政臣と姫愛奈はクラスメイトたちとピシュカ、ヴィオレッタにアマゼレブからのクエストを発表した。


 「う~む。正気とは思えないのだが……?」

 「俺らだってそう思ってます!でもやらないと!契約を破棄されちゃう……」

 「いかに自分が面白いかを優先するどうしようもない神なので、その……すごく迷惑を掛けるのは承知なんですけど……」

 「言いたいことは大体予想がつく。その国の大臣か何かをやれと言うんだろ?何とも無茶な要求だね」

 「ですが、受けないとこちらを放逐すると言われてるのでは?」

 「それは……いや、直接そうは言われていませんが、不興を買ったらそういうことになるかも……」


 ヴィオレッタの質問に歯切れ悪く政臣が答える。ヴィオレッタはナプキンで口を拭き、ため息をついた。


 「受けるしかないのでは?今のところ此処より安全な場所が思い付きませんし」

 「いやいや、それは分かっているよ。だが要求が過大過ぎる。少なくとも軍需部門と警察部門はクリアしているが、それ以外の人材がいない。──それ以前に国の象徴となる存在がいないと。御輿は重要だよ。国民団結には必要だからね」

 「象徴は……私たちではダメなのでしょうか?」

 「う~む、君たち勇者は全員が連盟に参加したということになっている。ここで表に出ても人々が君たちを本物だと信じるかどうか……。連盟が「あれは偽物」と言ってしまったらそれで終わりな気がするのだよ」


 自分たちと同じ懸念を瞬時に導きだしたピシュカに政臣と姫愛奈は感心する。


 「……要は王族の血を引く方であれば誰でも良いのですね?」


 何かを思い出すような顔をしながらヴィオレッタが政臣に尋ねた。


 「えっ?ま、まあ。「国を作れ」という常軌を逸したリクエストに応えるとして、象徴と為政者が同時に手に入る君主制が最も手っ取り早いと思ったからなんですが……」

 「いますよ。我が国に一人、連盟に反対して国を建てることに賛成しそうな方が」

 「そんな馬鹿な──いや、そんな酔狂な王族がいるのかね?」


 ピシュカの信じられないといった顔を見ながらヴィオレッタは得意げに答える。


 「ええ。容姿端麗、頭脳明晰、先祖返りの影響で類い稀な魔法の才能を持つ方が。しかもその方の祖父君は大陸統一を目前に滅んだ『あの帝国』最後の王朝の末裔です」

 「……まさか、話に聞いていたが、あれは本当のことなのかね?」

 「戦争中、暇な歴史家たちが調査して。しかもあの方の魔法の才能は、並大抵の人間のモノではありません。その人並みならぬ魔法の才覚で代々君臨し続けた〈神聖バラメキア帝国〉の血筋だと証明されています」

 「滅んだ国を復古するって……とんでもない歴史ロマン主義だな。──その方の名前は?」

 「シャルロット・カレナス・ペトレルナ・オセアディア。彼女を国の象徴にするのです」


 


 


 

 

 

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