5.新しい武器選びと能力の微調整
アマゼレブとピスラは、政臣が目を覚ましたとの知らせを受けて〈生命の寝台〉が置かれている庭園にいた。〈生命の寝台〉は神や神格存在などが激しいダメージを受けた時に使う治療装置だが、アマゼレブ自身使ったことはなく、ずっと放置されていた。
「正直、一度も使ったことがなかったからな。機能するかどうか不安だったんだが……」
「それ二人の前では言っちゃダメよ」
寝台の周りにはクラゲのような姿をした眷属が政臣と姫愛奈を囲んでいた。アマゼレブの領域〈レムリア〉にいる眷属のほとんどは気ままに暮らしていて、この二頭身サイズのクラゲたちも好きなものを食べ好きなくらい眠り好きなだけ遊ぶという自堕落そのものな生活を送っている。二人を囲んでいるのも害意があるわけではなく、ただ物珍しさから集まっているだけである。
「あっ、アマゼレブ様~。こいつらがアマゼレブ様の遊び相手ですか~?」
発声器官が見当たらないにも関わらず眷属クラゲたちは流暢に言葉を話す。
「そうだ。ほらもう行け。私はこいつらに話がある」
「は~い」
眷属クラゲたちは姫愛奈が連れてきていたスライムを抱えて行ってしまう。そして少し離れた場所でビーチボールのように投げ合って遊び始めた。
「私の領域〈レムリア〉へようこそ。神格存在となって初めて死んだ気分はどうだ?」
「あっ、やっぱり俺って死んだの?」
「定命の者たちにとっての死とは全く違うがな。我々にとって『死』は状態の一種でしかない。普通だったら自然に生き返るまで数十年から数百年待つんだが、姫愛奈が急かしてな。〈生命の寝台〉を使って二日程度に短縮した」
「そんなに長く政臣くんが起きるまで待つなんて耐えられないもの」
姫愛奈が政臣にまたがりぎゅっと抱き締める。
「……対面座位」
「聞こえてますよ、ピスラさん」
「この体勢をそう言うの?じゃあ今度するときはこの体勢でしましょうね」
「そうね。〈色欲〉を司る女神としていろいろなことを教えないとね。まずは四十八手から──」
「姫愛奈さんに変な入れ知恵をしないでくれ!」
「ま、まあ、とにかく、負傷した部分もすっかり修復されている。全快状態だからすぐにでも復帰出来るぞ」
しかし政臣は何やら不満げな顔でアマゼレブを見つめる。
「な、なんだ」
「……いや、もっと防御面でのチート能力をくれればこんなことにはならなかったかなぁって」
「はあ!?銃弾を実質無効化出来るだけでもありがたいと思え!」
「至近距離だと普通に当たるじゃん!絶対防壁とか、なんかそういう何でもかんでも防げる能力ないの!?」
「あるにはあるが授けたら面白くないだろう!?」
「死ねないのに中途半端なチート能力貰ってるせいでこっちはめっちゃ苦しんでるんですけど!」
「そうよ!政臣くんの言う通りよ!これじゃ生殺しと同じだわ!」
政臣のことになると脳内がお花畑になる姫愛奈は、政臣の言葉に対し脊髄反射的に同意する。
「生殺しは過言だろ!」
「じゃあ敵を一瞬で殲滅出来る能力くれよ!」
「だからつまらなくなるからダメだって言ってるだろ!」
「じゃあガ○ダムとかマ○ロスみたいな人型機動兵器ちょうだい!」
「世界観がぶっ壊れるだろ!」
「うるさい!無限に撃てる銃を持ってるくせに世界観とかふざけたこと言ってんじゃな(以下省略」
交渉の結果、二人は物理攻撃をある条件付きで無効化する能力を付与された。条件というのは『クラスメイトとその仲間の攻撃は無効化しない』というものである。つまり、現地人の中でもクラスメイトに関係無い者たちの攻撃は無効化するが、クラスメイトの攻撃は一切無効化しないというものである。また反射神経と動体視力を更に上げ、刃を指で挟んで剣撃を防ぐというこれ以上ない強者アピールを出来るようになった。
政臣はまたもや新しい武器を選ばなくてはならなくなった。無限弾でも敵を必ず倒せる訳ではないということを身をもって実感した政臣は、両手で持たなければならない自動小銃型の銃をやめ、拳銃型の銃を二丁持ちして戦うことにした。要はガンカタがやりたくなったのである。
半日ほどかけ、政臣は拳銃を吟味した。アマゼレブのコレクションは豊富で目移りするものだったが、その管理方法はお粗末なもので、半数以上は名前と用途が分からなかった。魔力を感じる物を集めたとのことだったが、ほとんどがイロモノばかりでまともな物を探すのに時間を割かねばならなかった。
政臣が選んだのはモーゼルC96によく似たエネルギー銃である。選んだ理由は「着ている戦闘服と似合う」というものだったが、姫愛奈と神二人には理解されなかった。鋼鉄の板や防御魔法を貫徹する威力で、実用に堪える武装だと政臣は判断した。
「まあ、現地人はこれだけで倒せるか。っていうかルドラーに露払いを任せるつもりだし。最悪クリスタルを撃って攻撃出来るしな」
「そう何度もコレクションを壊されては困るのだが」
「そうやってルドラーを引き連れてると、SF映画の悪役ね。ス○ー・ウォーズみたいな」
「ス○ー・ウォーズのトルーパーたちは白色の装甲服でしょ。こいつらは灰色じゃん」
「……よく分からないわ」
******
その後、ピスラの呼びかけで四人はお茶会を開くことにした。出された紅茶は紫色というあまり見たことがない色をしており、政臣と姫愛奈は一瞬だけためらったが、甘みがあり、レムリアで採れる果物のピールを加えたことでフルーティーな香りを楽しむことができ、二人はすぐに気に入った。
「ところで、姫愛奈ちゃんには元カレがいるって聞いてるんだけど、今カレの政臣くんとどっちが良い?」
「……断然、政臣くんです」
苦虫を噛み潰したような顔で姫愛奈はピスラの質問に答えた。
「ごめんなさいね。あの時、その翼とかいう子があなたに固執するような発言をしてたから、ちょっと気になったの」
「向こうが勝手に勘違いしただけです。ちょっと優しくされただけで舞い上がられても迷惑だわ」
「正直、そこんところに疑問点があるんだよね。ちょっと慰められたくらいで惚れたりするのかな?」
「するわよ。男って単純だから」
悪びれることもなくピスラは言う。
「おい」
「その翼って子、話を聞く限り失敗したことが無いんでしょう。成功体験しかないとカルマが明るい方に偏って何でも自分に都合よく解釈するようになっちゃうのよね~」
「極端にカルマが偏ると価値観や認識が固定されて変化しなくなるからな。逆に失敗ばかり経験すると何もかもをマイナスに解釈するようになる。だが成功ばかり体験してカルマの色が変わらなくなるのは滅多に無いことだぞ。何せ定命の者たちは自分たちが思っているほど賢くないし強くもないからな。たいがい成功と失敗を丁度良い割合で体験して一生を終える」
「じゃあ、門倉の場合は?」
「生まれつきの才能と運が上手い具合に合わさったのだろう。まあ問題は成功体験ばかりでも良い訳ではないということだが。善だろうが悪だろうが、カルマが極端に偏ると多かれ少なかれ周囲に災いをもたらす。最も、『善』の連中はそうとは思っていないようだがな。全ての定命の者のカルマを善に偏らせて、他者への愛情と自己犠牲の精神を植え付けようとしているし」
「うえっ」
「ともかく、その翼とやらには何を言っても無駄だということだ。それに、あのカルマの輝きぶりは私も気に入らん。チャンスがあれば躊躇せずに殺してしまえ」
「悪の神らしい言葉ね」
ピスラはからかうようにクスッと笑う。
「言われなくても。私の手でぶち殺してやるわ」
心なしかドスの効いた声でぼやいた後、姫愛奈は紅茶を一口啜る。顔に笑顔はなく、瞳には暗い情熱の輝きが灯っていた。
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