3.チート能力はあっても戦闘技能は無い

 姫愛奈とルルクスがチンピラたちを切り刻んでいる間、政臣とルドラーはチート銃による無慈悲な虐殺を繰り広げていた。


 「ハッハッハ。やってることが完全に悪役そのものだ~」


 政臣はルドラーに守られながら悠々と歩いていた。チンピラたちは決死の抵抗を試みるが、ルドラーの硬い装甲に銃弾は弾かれ、赤いエネルギー弾の閃光がチンピラたちを撃ち抜いていく。教会の人間も武装して飛び出すが、そもそも武装がチンピラたちと同じなので全く同じ結末を迎えていく。


 「はあ……クラスのみんなが見たら確実に敵認定してくるんだろうな」

 (まだそんなことを言ってるのか。次に会ったら向こうは遠慮無しに攻撃してくるのかもしれんぞ)

 「いや分かってるけどさ~。俺はクラス全員と敵になりたい訳じゃないんだって」


 銃弾とうめき声叫び声が響く中、政臣はアマゼレブと呑気に会話を交わす。


 (契約は履行してもらうぞ。永遠が欲しければ私の『遊び』にとことん付き合え)

 「んなこと分かってるって。『遊び』がすぐ終わらないようにダラダラと戦ってやるよ」

 (それで良いんだ。できればもっと世界に憎悪と混沌を振り撒いてほしいがな)

 「数ヵ月前まで学生だったヤツに頼むことじゃないっつーの」


 四体のルドラーは装甲をガシャガシャと鳴らしながら移動する。部屋という部屋をしらみつぶしにし、人間を見つけると容赦なく射殺していく。自棄になって銃を乱射する者、一縷いちるの望みをかけて降伏する者、恥も外聞も無く脱兎の如く逃げる者。反応は様々だったが、命令を遂行する事以外頭に無いルドラーにはどれも通用せず、ただ無惨な死体が出来上がっていくのみである。


 (あの司祭が居ない……。どこに行った?)

 「おい。裏口にいるやつに司祭が来なかったか聞け」


 政臣の指示を聞いた赤い線のルドラーが裏口にいる二体のルドラーと通信する。


 「殺害対象ガ四人飛ビ出テキタノミデソノヨウナ人物ハ見テイナイトノコトデス」

 「そうか……捜索を続けるぞ」

 (殺害対象だって。怖……)


 自分が指示したことを棚に上げつつ政臣は歩みを進める。地下は思いの外整備されており、周囲が石の壁に囲まれてダンジョンを想起させた。魔法によるものか明るい球体が天井付近に浮遊しており明かりは確保されている。しばらく進んだ先で政臣は檻が幾つか放置されている広い部屋に行き着いた。その内の一つに窓から確認した少女たちが閉じ込められていた。服装はそれぞれ異なっていて、明らかに良いとこのお嬢様のような服を着ている少女もいれば、みすぼらしい布切れのような服を着ている汚れた少女もいた。


 (適当に捕まえてきたのか……。ひょっとするとヨエルはこうやって誘拐されてあんな風になったんじゃ──)


 気配を察知した政臣は翻ってダインスレイブを掃射する。チンピラ三人が腹に穴をあけ倒れる。死亡を確認すると政臣は少女たちの入った檻に近づいた。当然ながら少女たちは政臣の姿に怯え、互いに身を寄せ合う。


 (どうする……明らかに誘拐の被害者だしな……。人を殺すのも人が死ぬのにも特に抵抗は感じなくなったけど、だからって幼い少女を殺すのは少し気分が悪いな。あくまで『ごっこ遊び』で悪役をやってるのであって、本気で世界を滅ぼそうとは思ってないしな)


 政臣はダインスレイブの銃口を檻の錠前に向ける。


 「下がってな」


 錠前は簡単に破壊出来た。檻を開け、少女たちに話しかける。


 「あー、取りあえず敵では無いよ。……厳密には味方でもないけど」


 少女たちに檻から出るよう促そうとしたとき人間とは違う気迫が迫ってきたのを咄嗟に感じコートで防御する。政臣のコートにはある程度の物理攻撃を防ぐ能力があった。踏ん張って衝撃を押し止め、攻撃の主を確認すると三メートルはあるくすんだ緑色の肌をした二足歩行の魔物がその巨大な握り拳を自分に殴り付けているのが見えた。


 (え……モンスター!?トロールとかオーガってやつか!?)

 「もうちょっとその中に居てくれ」


 少女たちにそう言うと政臣は至近距離にまで近づいている魔物にダインスレイブを腰だめで射撃する。魔物は怯んで後ずさりするが、傷がみるみるうちに再生していく。


 (やっぱトロールかオーガのどっちかだな。ダインスレイブは無限に撃てるけど通常モードは普通の自動小銃と威力は変わらないからな。榴弾モードで焼くか……?)


 政臣は身を寄せあって今にも泣きそうになっている少女たちを一瞥する。


 (……駄目だな。後ろの子たちが巻き込まれる。なら──)


 両手にサーベルを生成し、それを連続で魔物に投擲とうてきする。それぞれ腹と右肩に突き刺さり、魔物は苦痛にうめく。


 (出来た!)


 人間の体であったなら刀身が長く片手で持つにはそれなりに重いサーベルを投擲武器として使うことなど出来ないが、筋力が常人を越えている政臣には造作もないことだった。様々なアニメやゲームのキャラの動きを思い出しながらサーベルを投擲し続ける。十本ほど投擲したあたりでモンスターの体からは血がボタボタ垂れて明らかに再生が間に合わず弱っているのが分かった。が、いまだにその足は地面にしっかりとついている。


 (耐久力ありすぎだろ)


 政臣はダインスレイブを連射する。ダメージは確実に与えているはずだが、一向に死ぬ気配が無い。何かがおかしいと感じた政臣は魔物の体に不自然な物がないか目を凝らした。すると耳にどこかで見たことがあるような耳飾りを見つけた。


 (あれ……)

 (あのエルフのテロリストが付けていた耳飾りだな。種族関係無く使えるのか)

 (急に脳内で話し始めないで?すげぇびっくりしたんだけど)

 (しょうがないだろう。どうやって合図すれば良いんだ?そんなことより、弱点となるものを教えてやったのだからさっさと済ませろ)

 (人づかい荒いな)

 (お前は人ではないだろ)


 政臣は照準を定め、魔物の右耳を正確に狙い撃つ。耳が吹き飛び、魔物はうめき声を上げる。


 「ようし、次は左──」


 魔物は予備動作無しに握り拳を振り下ろした。咄嗟にダインスレイブを盾にして防ぐが、衝撃は身体の中に響き、骨にヒビが入るような感覚を覚えた。


 「──っ」


 距離を取り、ダインスレイブの引き金を引くが、何故かエネルギー弾が出ない。よく見るとヒビが入っている。


 (壊れた!?やっぱり無限に撃てるだけで耐久力は普通の銃火器と同じかよ!)


 ダインスレイブを投げ捨て、いつぶりか分からないクリスタル射出の魔法を使う。鋭利なクリスタルは魔物の体に突き刺さるも、あまり効果を示していないようである。


 (でかい上に人外だからか?人間よりずっと強い……クラスのみんなが召喚された理由がなんとなく分かってきた気がする……)


 政臣はサーベルを生成し今度は顔面に向かって投擲する。見事に命中し、魔物はバランスを崩す。間髪入れずに政臣は魔物に近づき放漫な腹を蹴って跳躍し、サーベルを魔物の脳みそに突き刺した。頭頂部から血が吹き出して政臣の顔にかかる。が、脳髄を貫かれたはずの魔物は政臣を掴み、反応する間もなく壁に向かって投げつけた。政臣は空中にいる時間が不思議とスローモーションになったような感覚を感じたが、直後に後頭部に強い衝撃を受けた。全身が打ちのめされ、血反吐を撒き散らす。


 無様に壁からずり落ちた政臣は、全身に激痛を感じながら周囲の様子を確認する。トロールだかオーガだか分からない魔物は死んでいて、その巨体を仰向けにしていた。檻に入っていた少女の一人がその死体に近づきおそるおそるといった様子でその小さな細い指でつついている。他の少女たちが続々と檻から出て、解放されたことを喜んでいる。この時点で政臣は視界がぼやけ、物の輪郭が捉えられなくなっていた。少女たちが駆け寄っているのが分かったが、聴覚も麻痺したのか何を言っているかは分からない。


 (おかしいな……不死のはずなのに……再生能力が追いついていないのか……)


 政臣は足元からどんどん感覚が無くなっていくのを感じる。姫愛奈のことを頭に思い浮かべる。


 (今頃司祭を捕まえているかな……姫愛奈さん……)


 それ以上は何も考えることが出来なかった。唐突に身体全体から力が抜け、世界が暗転した。


 


 


 


 


 

 


 


 

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