2.教会に殴り込み

 昼間ショッピングを楽しんだ二人は、その夜教会に襲撃を掛けるためアマゼレブが送り込んできた眷属を従えて向かっていた。


 「観光客ヅラしてたのに急に殴り込んだらあの司祭さんどんな顔するかな。まあ有無を言わさず撃つけど」


 アマゼレブはレザエル教の関係者全てを攻撃対象に指定していた。すなわち信者や何らかの役職に就いている者、レザエル教の支援者などが対象だ。そしてその大半はおそらくただの人間で、戦う術など知らないのだろう。だが、人間でなくなってしばらく経った二人には、人間への同情心が湧かなかった。子供や怪我人などの弱者にはまだ憐れみの気持ちが湧いたが、大鎌で切り裂くのも銃の引き金を引くのにもさほど抵抗を感じなくなっていた。遠くに見える教会の窓からは明かりが見えるので、きっと多くの信者がいるのだろう。しかし、二人の中には罪悪感が無かった。転移直後の頃はまだ気分の悪さを感じていたのに。


 二人の後には灰色の装甲服を身につけた人型の眷属が三体二列になってついてきている。〈ルドラー〉と呼ばれる眷属で、ルルクスが身の回りの世話や主人の護衛という多くの役目をこなすのに対し、ルドラーはクラスメイトたちから逃げる際に投入した〈ニーラヘル〉と同じく機械人形であり、ただ戦う為だけに存在する眷属である。ガスマスクのようなヘルメットを被っていて中に人がいるように思えるが、その中は神代の魔法によって永遠に動く機械がぎっしり詰まっている。政臣の持っているダインスレイブと同じく無限に撃てるチート級の軽機関銃を装備し、命令に疑問を持たず、完全に破壊されるまで動き続ける恐怖のマシーンだ。政臣は「プロテクトギアみたいだ!」と気に入り、自分のボディーガードにしたいとアマゼレブにねだった。結局近接攻撃が基本のルルクスを姫愛奈が使い、遠距離攻撃が専門のルドラーを政臣が戦闘時に喚び出して使うようにすることになった。


 「いや~それにしてもすごいカッコいい!こういうのがいるなら早く送り込んでほしかったな~」


 政臣は一体のルドラーの装甲をガンガン叩いたり肩に寄りかかったりしてウキウキしている。姫愛奈はそれを見て半ばあきれていた。


 「男の子って、どうしてこういうのが好きなのかしら……」



******



 しばらく歩き、二人は街を見下ろせる位置の丘に建っている教会に着いた。正面入り口に張り付き、中の音に耳を澄ませる。


 「……言われた通り、全員十歳以下だぞ」

 (ん?)


 不穏過ぎる言葉を聞いた政臣と姫愛菜は、壁を軽く登って窓枠に足をかけ、中の様子を見た。そこにいたのは信者ではなく、銃を手に持った明らかにカタギではない男たちと、昼間会話を交わした司祭と、鎖で繋がれた少女たちだった。


 (普通に悪の組織だったー!?)


 二人はその光景に愕然とする。


 「……おい、一人足りないぞ。こっちは六人ときっちり指定したはずだぞ」

 「こっちがどんだけ苦労してると思ってんだ?『花を散らしていない少女』なんて簡単に手に入れられるわけねえだろ」

 「だからこそお前らのような人身売買組織に『発注』してるんだろう」

 「十歳以下の生娘なんて専門外だ!これからは面倒でも別の街のやつらに『発注』しろ。こう何度も危ない橋を渡らされちゃ、たまんねえからな」


 司祭と男たちが話している間、政臣は裏口にルドラー二体を送り、出入り口を完全に封鎖した。姫愛奈はハルパーと名付けられた大鎌を振り回しながら突入の準備に入っている。


 「殺してもそこまで影響が無さそうな連中ね」

 「情報が足りない。あのヤクザみたいな連中の内の一人と司祭は捕まえて尋問しないと。他の支部でも同じようなことをしてるのか確かめなきゃね」

 「ゴ命令通リ二体ヲ裏口ニ配置シマシタ」


 肩に赤い線が書かれているルドラーが言った。ルドラーはルルクスに比べよく喋る。ボイスチェンジャーを通したような無機質な声をしていてますますパワードスーツを着こんだ兵士っぽい。政臣はテンションが上がっているのを感じながら指示を出す。


 「よし、残りのやつらは俺についてこい。入り口の扉を破壊してビビらせた後、取りあえず降伏勧告をする。撃たれたら撃ち返して良いぞ」

 「了解シマシタ」

 「じゃ、姫愛奈さんちょっと離れて」


 姫愛奈と二体のルルクスは素直に従う。一体のルドラーが教会入り口の前に立つ。


 「撃て!」


 ルドラーは軽機関銃を扉にぶっ放した。軽機関銃の重低音と共に政臣のダインスレイブと同じ赤いエネルギー弾が扉をぶち壊し吹き飛ばす。土煙が舞い、扉の近くにあったチャーチチェアにも穴が空く。男たちと司祭は室内の中央辺りにいたため誰にも当たらなかったが、突然の襲撃に驚き思わず倒れる者もいた。


 「何なんだぁ!?」

 「警察か!?」


 土煙の中から現れたルドラーたちに銃を構えていた男たちは愕然とする。一目で警察でもどこかの軍隊でもないことが分かったからである。


 「──っ、何なんだ、お前ら!」


 男の一人がルドラーの前に立った政臣に叫んだ。その隙に司祭はそそくさと逃げ始めている。政臣はピスラから貰った生命探知の能力を発動する。政臣の視界がサーモグラフィのようになり、視線を下に向けると床が透けて地下にいる人身売買組織のメンバーが見えた。


 (やっぱりね。こういうのは大体地下って決まってるんだよな)

 「う~ん、『神の使い』とでも言っておこうかな?死にたくなかったらおとなしく銃を捨てた方が良いと思うけど」

 「うっ……」

 「はあ!?ふざけんなガキィ!舐めんじゃねえぞ!」


 金髪の比較的若い男が甲高い声で叫んだ。周りが「やめろ!」と諭すが、男の耳には入らなかったようだ。金髪の男は政臣に狙いを定めて拳銃を撃った。しかし〈祝福〉の防御機能によって防がれる。


 「ひっ──」

 「コマンダー政臣ニ対スル先制攻撃ヲ確認、反撃スル」


 ルドラーたちは軽機関銃を腰だめに構え、男たちにエネルギー弾を浴びせた。軽機関銃の腹に響く重低音と共に男たちに穴が空く。エネルギー弾は男たちを軽々貫通し、腕や顔面を吹き飛ばす。


 「撃ち方止め。止めって言ってるだろ!」


 銃声が止み、政臣は男たちの死体を確認する。人間としての形は留めておらず、周囲のチャーチチェアもろとも文字通りバラバラになっていた。


 「どこぞの電動ノコギリ並みの威力だな……」

 「終わった?」

 

 姫愛菜が入って来た。無惨な状態の死体を見て口笛を鳴らす。


 「こっちも負けてられないわね」

 「この建物は地下がある。残りの奴らも司祭も子供たちもそこに居るよ」

 「じゃあ、思う存分暴れてやるわ」

 「司祭を見つけたら捕まえてよ」

 「大丈夫よ。手足を切って逃げられないようにするから」

 「そういうの必要ないから!」

 

 地下は想像以上の広さで、チンピラ以外だけでなくレザエル教の白い服を着た者たちがいた。


 「ふーん、強そうなのはいないわね……」


 銃撃の中、姫愛菜は全く臆することなく突っ込み流れるような動作で一人目の首を刎ねる。首からの赤い噴水におののいた二人目と三人目の腹のあたりを一気に切り裂くと、臓物が飛び出し男たちは絶叫した。それを見ていた残りは遁走とんそうし始めるが、ルルクスに道を阻まれ、恐怖を顔に貼り付けたまま切り殺されていく。


 ハルパーを振り刃に付いた血を払うと、姫愛菜は意気揚々と道を進む。少し進むと物陰に隠れ待ち伏せしていた男たちが一斉射撃を加える。銃弾は弾かれ、ルルクスたちが片付ける。すると一人が突然サブマシンガンを投げ捨て両膝をついてホールドアップした。


 「待て!降参だ!」


 姫愛菜はそれを見ると無表情のままゆっくりと近づく。男は姫愛菜の無表情さに恐怖を感じた。


 「ひいっ!な、なあ、見逃してくれたら金をやるよ。本当だって!俺のいる組織は結構稼いでるんだ。少しくらい金が消えてもバレやしねえって!」


 そう言いつつ、男は腰の拳銃に意識を向けていた。そして姫愛菜が至近距離に近づいた瞬間、拳銃を取り出し構えた。


 「バカがぁ!」

 

 男は勝ち誇って拳銃を連射した。銃弾は当然のごとく防御機能に弾かれる。スライドが下がった拳銃の引き金を男は血相を変えて繰り返し引いていた。


 「残念でした。あなたに最初から勝ち目はなかったの。それじゃさよなら」


 姫愛菜はハルパーを振り上げる。男はすっかり諦めた様子でハルパーの刃を見ていた。刃はぬるいバターのように男を上から下まで縦に切り裂いた。男がパックリ割れて勢いよく血が噴き出す。姫愛菜は髪を指で梳きながらぼやいた。


 「全く気持ち悪く感じない。ほんとにどうしちゃったんだろ……」


 

 


 

 


 

 





 


 


 

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