3.いろいろ大変な勇者パーティー part2

 「では、青天目が上で戦っている間、あなたは姫愛奈と何か話していましたか?」


 今度は傑が質問する。


 「そうだね。私はその時あの二人は政府が寄越してきた護衛だと思ったんで、そうなのかと聞いたんだよ。そうしたら彼女はフリーランスの魔導士だって答えたんだ」

 「何か不審に思いませんでしたか?」

 「いいや。フリーランスの魔導士は何人か知ってるし、みんな個性的だから大鎌を持った少女ってだけでは不審に思わなかったな……」

 「それ以外には?」

 「う~ん、確か……そうそう、彼がサーベルを持って出ていったのを見たんで、彼はサーベルの名手なのかって聞いてみたら、専門は遠距離攻撃だと言っていたな。で、戻ってきたときに直接聞いてみたら、近接戦闘の練習の為にサーベルを使ったと」

 「練習?」

 「うん。回収した死体を見たんだがね。左の耳が削がれて、肩に深く斬り込んだ後があったよ」


 傑と利奈はちらと目を見合わせる。


 「……では、その後二人と何を話したんですか?」

 「いろいろだよ。最初はお互いの行き先についてだね。私は国境周辺での物資の移送が滞りなく行われているか視察に向かっていたんだ。二人はこの王都に向かうって言ってたな」

 「どうして向かうかは言っていましたか?」

 「ああ。旧知の貴族がトラブルに巻き込まれて、その対応に向かうって。魔導士らしい話だったから完全に信じてしまったよ。それに魔導士が絡む話は聞くだけでもリスクがあるものが多いし、私も自然と切り上げてしまった」

 「では、私たちについて何か聞いてきましたか?」

 「ああ聞いてきた。──そうか。今にして思えば、あれは情報収集の為だったのか……」


 感心するように軍需大臣は顎を撫でる。


 「政臣、だったか。少年の方がテロリストの話を切り出して、いろいろ話した後、ごく自然な感じで君たちの話題に持っていったよ。恥ずかしながら全く気付かなかった。で、そこで君たちと会ったことがあると話してしまった。──いや、弱点のようなものは話してないぞ!そもそも私は君たちのことをよく知っているわけではないからね」

 「なるほど。それ以外には?」

 「秘書と何か話していたようだが、あいにくその秘書は今休暇中でね」

 「──分かりました。ありがとうございます」


 大臣が帰った後、三人は応接間に残って情報の精査を始めた。


 「二人は高級列車に乗って移動したのか……」

 「話し合いの前にちょっと調べてみたけど、ほんとに富裕層しか乗れないような格式高い列車だわ。こんなものに乗れるなんて、二人には相当な力を持った協力者がいるんじゃないかしら?」

 「ひょっとすると協力者と指示を出している人物は同一人物かもしれない。──いや、まだ協力者がいるとは決まったわけではないか……」

 「どういうこと?」

 「二人自身に何かしら人を操る能力があるのかも。鉄道職員を操って、オセアディアに行く列車に乗り込んだんじゃ……」

 「じゃあどうしてわざわざ高級列車に?」

 「う~ん……俺たちの情報を持った上流階級の人間がいると思ったんじゃないか?実際、さっきの軍需大臣に二人は会ったんだし」

 「でも事前の検査で大臣が何かの魔法にかけられた跡は無かったわよ。もし二人がマインドコントロール系の魔法を使えるなら、あの大臣にも魔法をかけて情報を絞り出したんじゃないかしら?」

 「そうか、分かったぞ!」


 黙りこくっていた翼が突然叫んだので傑と利奈は飛び上がった。


 「な、何だよ?」

 「テロリスト襲撃は、姫愛奈を操っている誰かが仕組んだ出来レースだったんだ!」

 「えっ?」

 「だってそうだろ!?国のお偉いさんが乗ってる列車にテロリストが襲撃してきて、混乱している所に姫愛奈たちがやって来て助ける。そして大臣は気を良くして俺たちのことをベラベラ話す。俺たちと敵対したい誰かにとって、都合が良いじゃないか!」

 「いや、偶然という線はまだ切れてないぞ?」

 「どうしてだよ?じゃあ何で青天目の奴は遠距離攻撃が得意なのにサーベルでテロリストのリーダーとやり合いに行ったんだ?きっとリーダーを上手いこと逃がす為にわざとそうしたんだ!アイツだけが閃光手榴弾を食らわなかったのは、事前に打ち合わせをしてたからなんだって!」

 「じゃあ姫愛奈はどうして閃光手榴弾を食らったんだ?」

 「信憑性を持たせる為だ!片方がわざと食らえば、大臣は気付かないだろう?」

 「それにリーダーは死んでるわよ。かなりむごい姿でね」

 「話が合わずに殺したんだろ」


 利奈は翼の論理が所々破綻しているという気がしてならなかった。翼が姫愛奈は洗脳を受けていると思いたがっているのは分かっているが、それにしたって必死過ぎだ。それだけ姫愛奈の事が好きだったということか。


 「今は情報が少ない。結論を出すのは早いと俺は思う。洗脳を受けているにしろ受けていないにしろ、あの二人が俺たちにとっての脅威であるということしか分かってないんだ」

 「姫愛奈は敵じゃない!」

 「でも、二人の目的は私たちの活動を邪魔することよ。次居合わせたら否応なしに戦うことになるかもしれないわ」

 「敵じゃないって言ってんだろ!俺が説得するんだ。もう一度説得すれば、姫愛奈の目だって覚めるはずだ」



******



 日が落ち、王城全体がひっそりとしている中、傑と利奈は二週間ぶりの逢瀬を楽しんでいた。二人は転移する前から付き合っていた。そして身体を交える関係になったのは転移してからだ。全く違う環境に放り出され、混乱しながらも成長していく傑に利奈の冷めかけていた心が燃え上がったのだ。今や利奈は傑とずっと一緒にいたいと思うほどにまで熱くなっていた。ひとしきり行為を終え、余韻に浸っている利奈をよそに何食わぬ顔で服を着ようとしている傑に利奈は不満を持ち、後ろから抱きついた。


 「駄目。今日は私の部屋に居て」

 「いや、明日は早いから。もう行かないと──」

 「やだ。朝までいてくれないとイヤ」


 傑はしばらく黙っていたが、「分かった」と言って掴んでいた服を置く。利奈は笑顔で傑の首にキスをするが、傑は浮かない顔をしたままだ。そうえいばしている間もどことなく顔が陰っていた気がする。


 「どうしたの?」

 「……何でもない」

 「もしかして、昼間の事?」

 「お前に隠し事は出来ないな」


 傑は改まった顔で話し始めた。


 「あの後いろいろ考えてみたんだけど、姫愛奈が翼と付き合っているような素振りをしたかな?って思ってさ」

 「あら、気付いた?」

 「あの時の姫愛奈の言葉が本当なら、翼が一方的に付き合った気になってたってことだよな」

 「そうね」

 「そうなると……次会った時もややこしいことになりそうだな」


 利奈はここで自分の考えを洗いざらい話した方が良いと判断した。


 「あのね、これはあくまで私の勝手な推測なんだけど……姫愛奈は青天目くんのことが好きなんだと思う」

 

 傑は少し驚いた顔をした。


 「どうして?」

 「あの時……姫愛奈の様子をずっと見てたんだけど、明らかに青天目くんに好意を持ってる感じだった。翼は洗脳されてるからの一点張りだけど、私は純粋に青天目くんに離れてほしくなかったからあんなに馴れ馴れしく接してたんだと思う」

 「まあ……妙にボディタッチが多い気がしたな……」

 「あれは青天目くんに意識してほしかったんじゃないかしら……いや、既に二人は付き合ってて、そのアピールの為に見せつけてたって可能性も高いわ」


 利奈は月明かりに照らされ妖艶に黒光りする長い髪を手でいてから続ける。


 「それに、姫愛奈にとっては青天目くんみたいなタイプが合うのかも。列車内でテロリストが閃光手榴弾を使ったのに青天目くんだけ平気だったのは、きっと対処法を知ってたからだと思うわ」

 「何でそんなの知ってるんだ」

 「青天目くんってオタクだったでしょ。前の世界で教室の掃除をしてたとき、青天目くんの机からミリタリー系の雑誌が見えたのを覚えてるわ。で、青天目くんと比較的仲の良かったオタク連中に閃光手榴弾の対処法を聞いてみたの。みんな答えれたわ。それに加えて青天目くんならそれくらい対応出来るかもって。青天目くん、知識の量が凄かったらしいわ。衒学げんがく的って言うのかしら。クラスで一番賢かったかもって」

 「そうか……。そう言えば、姫愛奈に好みのタイプを聞いたとき、「賢い人が好き」って言ってたな。『賢い』の尺度が分からないけど、知識の量を基準にしたら……閃光手榴弾の対処法を知ってるなんて、そうそういないだろうな」

 「そう考えると、知識が豊富な青天目くんに惹かれるなんてこともあったり……」

 「ともあれ、今は何もかもが推測の域を出ないけどな」

 「そうね……」


 傑に指で髪を鋤いてもらいながら、利奈は二つの月を見つめた。


 (姫愛奈、ごめんね。きっと辛い思いをしてたのに、ずっと気付けなくて本当にごめんね……) 


 

 


 


 

 

 

 

 

 

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