4.話し合いよりイチャイチャしたい彼女
部屋に戻り、景色を眺めながら二人は話す。
「……あのエルフのリーダーに言われたんだ、〈勇者〉は野蛮人だって」
「野蛮?亜人目線では何しても野蛮なんじゃない?」
「仲間の一人が強姦されたらしい」
その言葉に姫愛奈は固まった。
「……は?」
「大分大暴れしているようだね。まあ全員じゃないだろうけど」
「それって明らかに犯罪じゃない。誰かが止めないの?」
「〈信者〉ってのがいるらしいし、好き勝手やってもそいつらが誤魔化すんだろ」
『そうして聞くとお前たちよりよっぽど悪役だな』
「意識と認識の違いよ。私たちは『遊び』で悪役をやってんの。この世界がどうなっても関係ないわ。ただちょっと邪魔者が多いだけよ。好き好んで助けてると思って?」
『ふっ、確かに。どうもお前たちには勝手に火の粉が飛んでくるようだな。それに一喜一憂しているお前たちを見ているのもなかなか面白いぞ』
「楽しいショーを届けられて光栄だね。転移からクラスのみんなの元まであっという間だと思っていたのに、どうしてこうも厄介事がやって来るんだ?」
脱線してしまった話を戻す。
「ところで、政臣くんは誰がその、下衆な事をしていると思う?」
「少なくとも
「問題児……ああ」
二人のクラスには
「正直、何であんなのが実在するのか不思議でならなかったけどね。親が学校に来たときに納得したわ」
最も近い例えを挙げるならば、ハリー・ポ○ターで主人公を冷遇しながら養育していたあの一家である。
「やっぱり親が人間として欠陥があるとその子供にも遺伝するのかしらね。セクハラ酷かったし」
「そうなの?」
「ええ、冗談だと分かるあなたと違って本気で欲情した目で見てくるから嫌で嫌でしょうがなかったわ」
姫愛奈はベッドに寝転がり、ジュースを飲んでいる政臣を見つめた。
「うん?何?」
「それ美味しい?」
「えっ?まあ……」
姫愛奈は政臣からグラスを奪って中身を飲み干した。
「ちょ、何して──」
「彼女なんだし、これくらいどうってことないでしょ?それにまだボトルに入ってるじゃない」
「まあ、そうだけど……」
「はい」
ジュースを注ぎ、姫愛奈はぐいとグラスを政臣に押し付ける。
「飲みなさい。美少女と間接キス出来るわよ?」
「いや、俺、間接キスとかそういうのは──」
「飲みなさい!」
「はいぃぃ!」
政臣は言われるがままジュースを飲む。間接キスの味は……特に無い。ただのオレンジ味である。だから政臣は「間接キスの味はどう?」と聞かれ、「ただのオレンジ味」と答えた。姫愛奈が不満そうな顔をしたのが分かった。
「なんて答えれば良かったの?」
「美少女の味がしたって言えば良かったわ」
「それを言って許されるのは美少女だけなの。男が言ったら万死なの」
「別に言って良いわよ。あなたは私の彼氏なんだし。少しはキモい事を言っても目をつむっててあげる」
「キモいって認識してるんだ……」
閑話休題。
「それで、私たちの方針としてはクラスのみんなの敵になるって事だけど……『一部』が暴走しているとなったら、ちょっと考えないといけないわね」
「俺が少し懸念しているのは、その『一部』が一種の暴走に走っていることを『全体』が把握しているのか?って事なんだけど」
「詳しく」
「クラスのみんなは何も同じ戦場に全員で行くわけじゃない。行動方針を決めるリーダーはいても、幾つかのチームに分かれて活動するはずだ。そして『一部』の連中が乱暴狼藉を働いた後、その連中はリーダーにその事を報告するのかな?」
「……しないでしょうね。でも、付いてきている誰かが話すはずよ」
「〈信者〉がいるって話、忘れた?これは勝手な予想だけど、〈信者〉はオセアディアの指導者層にそれなりの人数がいるんじゃないかと思ってる。あの秘書さんが言ってた『不穏な噂』ってのは、つまるところその『一部』の奴らの事だ。でも噂程度のもので済んでいるのは周囲に取り巻く〈信者〉が不祥事を隠蔽しているからだと俺は考えてる」
「どうかしら……誰か勘づいたりしていないのかしら」
「いや、いると思うよ?ただ声を上げられないだけだ」
「傑あたりが……あっ、いや、ダメか。あいつらはそもそも気付かないか」
姫愛奈はグループに属する者たちの人となりをよく分析していた。そうして分かったことは、フィクションみたいに性格のねじ曲がった人間もいれば、フィクションみたいに人を疑わない人間もいるということ。傑や
「……へえ、そんな人たちなんだ」
「その時の私の気苦労を今から話してやりたいけど、たぶん今見えてる夕日が朝日になるくらいには時間がかかるからやめるわ」
「夜通し!?なんだか姫愛奈さんに同情しちゃうな」
「そうよ。もっと私に同情しなさい?」
姫愛奈はそう言って政臣に肩を寄せる。髪が揺れ、甘いとも爽やかともとれる匂いがする。政臣はドキドキして顔をそらした。
「ちょっと、何で顔をそらすの」
ふくれっ面で姫愛奈は政臣の頬を掴みぐいっと戻す。
「何度言ったら分かるの?あなたは私の彼氏なの。少しは口だけじゃなく行動でも表してほしいわ」
「いやっ、でも──偽装でしょ?」
「偽装でもよ。もっと親睦を深めましょ?どうせ永遠に一緒なんだから」
姫愛奈は政臣の肩を掴んでベッドに押し倒した。
『おっ!遂にヤるのか!?』
アマゼレブがお気に入りのオモチャを見つけた子供ばりの嬉しさを含ませて言った。
「へっ!?ヤる!?う、うーん。初めてだし、優しくしてほしいなぱふあッ!?」
政臣は姫愛奈の平手打ちをもろに食らった。
「ふざけないで。簡単に処女を渡したりはしないわよ」
「……?いつかはくれるの?」
「あなた以外にいないでしょ。そうよ。それは保証してあげる。出来ることなら、あの不愉快なヤツに見せつけてやりたいわ」
「それって門倉のこと?」
「そう。あの白装束のヤツに翼のことを言われて考えを変えたわ。あなたと交わって、翼にその事実を突きつけてやるの。寝取られっていうの?アイツにそれを味わわせやるわ」
「そうなると俺が憎まれるんだけど」
「私が守ってあげるから問題ないわ」
そんなに嫌いだったのか。政臣は姫愛奈の翼に対する悪感情に違和感を感じた。この嫌悪感ははっきり言って変だ。確かに悪意を感じられないというのは問題になることもあるだろうが、決して悪いことではない。むしろ一生幸せに暮らせそうで羨ましいと政臣は思う。だが姫愛奈はそれにほとんど憎しみに近い感情を抱いている。どうしてだろうか。政臣は、姫愛奈がまだ胸の内に何か秘めている気がしてならなかった。
「カップルなんだから、ちょっとはイチャイチャしないとね」
政臣の胸に頬をすり寄せて姫愛奈は言う。政臣は複雑な気持ちで姫愛奈を見下ろした。
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