2.映画あるある:列車の屋根の上で戦う

 列車内は阿鼻叫喚の様相を呈していた。騒ぎの大元へ向かう最中も通路に客やスタッフの死体が転がっており、二人はこの世界の民度の低さに辟易へきえきしていた。

 

 「何で人間国家に亜人がいるのかとかそういう問題以前に、この世界って銃持ってたら使わずにはいられない病みたいなのが流行ってるの?」

 「お互いの怨嗟えんさが和解不可能なレベルにまでいってるって事でしょ。クラスのみんなはよくこんな世界に居られるな……」


 銃声と悲鳴がかなり近くにまで来たとき、客の一人と思われる高級スーツを着た男が二人のいる方に走ってきた。二人は既に戦闘服を身にまとい、姫愛奈に至っては大鎌を持っていたので、男はそれに驚き思わず足を止めてしまう。その瞬間、男の右肩を銃弾が撃ち抜き、男は二人の元に思い切り倒れこんだ。


 「マジか!?」


 政臣は倒れた男の前に出てクリスタルを射出する。クリスタルはカーキ色の防弾チョッキらしき物を着た襲撃者の顔に刺さり、壁に串刺しになる。


 「大丈夫ですか?」


 その間に姫愛奈は男を介抱していた。撃たれた部分にははっきりと穴が見え、廊下に血が広がっていく。


 「マズイわ……。ルルクス」


 姫愛奈はついてきていたルルクスの一体に声をかける。


 「この人間の怪我を治癒しなさい」


 ルルクスは黙ってうなずき、男の傷口に手をかざす。金色の光が傷口を包み込むと、出血が止まり、激痛に苦しんでいた男はハッとして顔をする。


 「治癒の魔法で一時的に出血を止めました。向こうでは何が起こってるんですか?」

 「あ、ああ。突然前の方の車両で銃声が聞こえたと思ったら、エルフ共が見えて、手当たり次第に撃っていたんだ……」


 襲撃者はエルフ。なるほど確かに政臣が顔にクリスタルを撃ち込んだ男の耳は様々なファンタジーに出てくるそれと似ている。


 「人数はどのくらいか分かりますか?」

 「いや……姿が見えた時点で私は逃げ出したから分からない……」


 スーツの男の顔が白くなっていく。姫愛奈は片方のルルクスにスーツの男を後部車両に連れていくよう命じた。男を見送り、姫愛奈と政臣は前方の車両に入った。


 例に漏れず入った車両にも死体があった。中には明らかに子供と見られる死体もある。二人はそれを見て心がざわつく感触を覚えるが、次の瞬間には何とも感じなくなっていた。エルフたちは二人に気付き発砲するが、〈祝福〉によって弾かれる。


 「ルルクス、奴らを殺せ」


 政臣は後ろに控えていたルルクスにそう命令した、ルルクスの戦闘力を確かめていなかった事を思い出したのだ。端正な顔だが異様なまでに無表情なルルクスはつかつかと前に出ると、右手にサーベルを生成させ、足の一踏みでエルフたちの近くまで近付くと、予備動作無しに首を切り裂く。吹き出した血が天井に付き、ポタポタとルルクスの肩にかかる。しかしルルクスは無表情のまま次の指示を待つように二人を見た。政臣は無意識に口笛を吹いた。


 「こりゃすごいな。露払いくらいならお手の物って事か」

 「じゃあ、そのままエルフだけを殺しなさい」


 と、言った所で姫愛奈はルルクスが種族を区別出来るのか不安になり、命令を詳細なものに言い換えようとした。しかしそこで母親と娘らしき二人組が入ってきた。母親がつまずき、娘と一緒に倒れる。その後ろからは二人に銃を構えているエルフたちが見えた。エルフたちは引き金を引こうとしたが、照準越しの視線に母娘の頭以外の人物の足が見えたため思わずそれを見てしまう。返り血を浴びたルルクスが立っていた。エルフたちはぎょっとしてルルクスに銃撃し、ルルクスは左手にサーベルを出現させ銃弾を弾き、二本のサーベルでエルフたちをバサバサ切り捨てる。縮こまっている母娘には目もくれない。


 「……ちゃんと種族を区別出来るのね」


 二人は敵の対処をルルクスに任せ、襲撃者のリーダーがいる車両まで移動していく。更に数両進んだ所に襲撃者のリーダーはいた。その車両は談話室のような所で、バーカウンターが備え付けられていた。見ると、灰色のスーツを着た太った男が拘束されていた。エルフたちはその男が目的だったらしい。耳飾りを着けたエルフの男の指示に周りが従っている。あれがリーダーだと二人は瞬時に理解すると、躊躇せず車両に突入し、反応する間も与えずルルクスに命令した。


 「あの灰色スーツの人間を救出しろ!」


 ルルクスはサーベルを投げ灰色スーツ男の両脇にいたエルフたちを倒し、再びサーベルを生成して残りのエルフを倒していく。しかし最後に残ったリーダーはルルクスの攻撃を見切って避け、ナイフを取り出し右脇腹に突き刺そうとする。しかしルルクスは左手に持っていたサーベルでそ器用にそれを防ぐ。リーダーとおぼしきエルフはそれを見て瞬時に距離を取り、手榴弾と見られる物を取り出した。政臣はこの状況下でのその行動を見て、手榴弾の種類を察知した。


 「──っ!姫愛奈さん、目と耳を閉じて口を開けて!」

 「えっ?何──」


 突如、車両中をこれまで聞いたこともないような爆発音と閃光が包み込んだ。姫愛奈は両方をもろに食らい、世界を認識出来なくなる。キーンという音が脳内に響き渡り、目を閉じているにも関わらず真っ白な光景が見える。


 「あぐっ──」


 姫愛奈はその場に倒れそうになるが、後ろから何かに支えられる感触があった。輪郭を認識し始めた視界には、政臣が写っていた。


 「政臣、くん……」

 「威力は凄かったけど、アンタのお陰でダメージは少なかったぞ」


 政臣は木彫りの像を取り出してアマゼレブと話していた。


 『お前もよく対処出来たものだ』

 「まあ、この世界の文明レベルが俺のいた世界に近いってことは、同じ対処法で対抗出来るってことさ」

 『そういうわけでもないと思うが……まあいい。奴は逃げたようだぞ。だがまだ追い付くと思う』

 

 政臣は優しく姫愛奈を寝かせる。


 「剣よグラディウス


 そう唱えると、ルルクスが持っているのとは装飾が違うサーベルが政臣の目の前の中空で生成され、それを右手でキャッチする。ルルクスの持っているのは刀身が銀色で青いラインが走っているが、政臣のそれは黒く赤いラインである。


 「これの習熟訓練にはもってこいだ」


 そういうと政臣は割れている窓から外に出ていった。姫愛奈はそれをただ黙って見ていた。


 屋根に上ると、二両先にエルフのリーダーがいた。政臣は気を引く為、わざとギリギリ外れるように指弾を撃つ。指弾はエルフの耳をかすめ、目論見通り政臣の方を向く。政臣は声が聞こえる位置にまで移動する。


 (なんか列車の屋根の上で戦うってシチュエーション、映画みたいだな……)

 「何だお前は。何故我々の邪魔をする?」


 呑気な政臣をよそに、エルフは当然の質問をした。


 「う~ん、快適な鉄道の旅を邪魔されたから?あと、この武器の性能も試したいからね」

 「……ふざけたことを。これだから人間は……」


 政臣は相手の口振りに隠せない怨嗟が混じっていることに気付く。


 「野蛮で下等な人間は、やはり絶滅させなければ!我らの聖域を侵し、同胞を奴隷に貶めるような奴らは!」

 「そう。でも女子供まで殺すことはないんじゃないの?」

 「我らの方が遥かに多くの女子供を殺された!ただ平和に暮らしていた所を、お前たち人間がやって来て、手当たり次第に殺して犯して!なのに人間共はさらに異世界から〈勇者〉なるものまで召喚して我らを滅ぼそうとしているではないか!」


 クラスメイトたちの話が出てきて、政臣は興味がいた。


 「確か勇者は魔物退治の為に召喚されたと聞いたけど?」

 「そんな方便を信じるとは。奴らは野蛮極まりない連中だ!破壊の限りを尽くし、同胞を殺し、女子供に乱暴する!私の仲間は奴らの一人に暴行された!」


 そんなことをしているのか。政臣は一瞬信じられないと思ったが、いや、と思考を巡らせた。例えすぐるがリーダーシップを発揮しても、全員があい分かったと応じる訳ではないだろう。中には力に任せて好き勝手やりそうな奴もいる。例えば、政臣が勝手にカテゴライズしている〈悪いカースト上位〉の連中とか……。


 「我々の思いは一つだ!人間共を滅ぼし、平和を謳歌出来るその日まで戦い続ける!だからこそ、私の邪魔をするな!」


 エルフはナイフに魔法をかけ、既存の刀身の上に魔力による刀身を上乗せした。更に魔方陣を足下に出現させ、足の一踏みで政臣に肉薄する。政臣は剣撃をすんでの所で受け止めた。


 「──くっ、やっぱり近距離戦は向いてないな……」


 


 


 


 


 


 

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