8.まさかの彼氏持ち
(コイツら、動きが速い!)
少年マンガのようなセリフを心の中で言いながら政臣は左右からの剣撃を身を呈して避け、容赦無く指弾を撃ち込む。襲撃者の一人が後ろにまわり政臣の背中を突き刺そうとするも、間一髪で避けられ、頭を吹き飛ばされる。息つく暇なく振り下ろされる剣を指でつまんで受け止め、腹に蹴りを入れる。襲撃者は血を吐いてその場に倒れこんだ。
一方姫愛奈は受け身の政臣と違い自ら攻勢に出ていた。突進してきた姫愛奈にうろたえた二人の襲撃者はその隙を突かれ首を跳ね落とされる。三人が三方から襲いかかるも姫愛奈は大鎌の柄を支柱にポールダンスのように回りながら三人を蹴り飛ばす。離れていた襲撃者たちが飛ばしてくる魔法の攻撃を刃でぶった斬り、お返しにと大鎌からエネルギー刃を放つ。エネルギー刃は二人の襲撃者の上半身と下半身を切り離した。この時点で既に十一体の死体が出来上がっていたが、新手の襲撃者たちが現れ、空いた包囲の輪を埋めた。
「はあ!? 何人いるんだ!?」
「この様子だと、もっと隠れてるって考えた方がよさそうね」
襲撃者たちは手法を変え、魔法による遠距離攻撃を始めた。政臣は強化された反射神経でそれを避け、姫愛奈は大鎌で魔力で形成されている矢を叩っ切る。
「無駄よ。攻撃の仕方を変えたって、そっちに勝ち目はないわ」
『むしろそうでないと私の〈祝福〉の意味が無い』
「
『アッ、ハイ』
すると、姫愛奈の真正面にいた他と比べて背の低い襲撃者が一歩前に出てきた。
「何?」
「なんか他より背低くない? 子供?」
大鎌を構え対峙する姫愛奈に対し、その襲撃者は口を開いた。まだ幼さがかすかに残る少女の声で。
「……白神姫愛奈さんと、青天目政臣さんですよね」
「!?」
『落ち着け。お前たちのクラスメイトの仲間ということだ……ん? ……待てよ?』
「……今ならまだ間に合いますよ。彼らはただのホムンクルスなので人を殺した事にはなりません」
(彼らって……倒れてるやつらのことか。『ただの』って言ってるけど結構な戦闘力だと思うぞ?)
「残念だけど、その申し出はお断りするわ。そっちに行くつもりは無いから」
「……お願いします。特に翼さんは、あなたの事をずっと心配していますよ」
「──っ」
姫愛奈の顔に動揺の色が現れる。翼──
「……白神さん、もしかして──」
「うるさい。口を開かないで。……はあ~、諦めてくれてたら良かったのに……悪いけど、翼のことは最初から何とも思ってなかったって伝えて」
「……?」
様子からして白装束の少女は困惑しているようだ。
「一方的に舞い上がって、勝手に付き合った気になりやがって……ああもうイラつく! 全然好きじゃ無かったって言ってるの! 分かる!?」
(……)
白装束の少女は
「……本当に、本気でそう思ってるんですか?」
「くどい!」
大鎌を振り回した余波でエネルギー刃が飛び、近くの屋台を破壊した。
「しつこいわね。しつこいヤツは女も男も関係無く嫌われるわよ?」
「……」
少女はしばらく黙っていたが、やがて諦めたのか、右腕を上げる。すると二人を囲んでいた白装束たちが一斉にジャンプし建物の屋根に乗る。
「──っ」
少女も同じように屋根に飛び乗ると、そのまま走って行ってしまった。その直後、ガラスが割れるような音が鳴り、空を見上げると紫色のガラスの破片のようなものが降ってきた。
『結界が解けたようだ』
周囲から人々の声が聞こえてきた。人通りの少ない場所だったが為に容易に結界が張れたのだと政臣は推測した。
「威力偵察ってやつか……? どっちにしろ俺らの敵じゃないね」
「……」
姫愛奈は政臣の言葉に耳を貸さず、踵を返して来た道を帰っていく。
「ああっ、ちょっと。この転がってるのはどうするの?」
「そこら辺に置いておけば?」
吐き捨てるように答え、早足で行ってしまう。
「えっ、え~? どうしよう……。人に見られないうちに何とかしないと」
『お前一人でか? やめとけ。取りあえず戦利品として装備品を剥ぎ取って撤収しろ』
政臣はポケットから人形を取り出した。
『やつらの着けている首飾り、銀製のようだ。金ほどではないが売ればそれなりの金にはなると思うぞ?』
「それは盗賊のやることだろ」
『隣の国の都に着く頃には金は無くなっているだろう。お前は現実的なタイプだと思っていたが』
「……くっそ、反論出来ない」
政臣はアマゼレブの言う通り、倒した白装束から首飾りを回収した。この街で銀がどのくらいの価値で取引されているのかは考慮する必要があるが、雀の涙ほどでも金が手に入るなら良しとするか。政臣はそう自分に言い聞かせてホテルに帰った。
******
翌日、政臣は回収した首飾りを売るため街に出た。宝飾店の主人は、見たこともないデザインの首飾りに美術的価値を見出ださなかったが、一切混じりけの無い純銀だと分かると、資源としてなら買い取ると言った。帰路につきつつ金貨の数を数えた政臣は、当分足りるだろうと目星をつけた。
「……遅い」
ホテルの部屋に戻った政臣を、姫愛奈は不機嫌そうに迎えた。昨夜の件以来、姫愛奈はずっと浮かない顔でいた。政臣は見えている地雷を踏みに行くほど愚かではないので、姫愛奈をなるべく刺激しないようにその日を過ごした。
「じゃあ、明日の朝出発だから。ちょっと道中の食糧を買ってくる」
陽が落ちる頃、政臣は姫愛奈にそう断りを入れルルクスを一体連れてホテルを出た。
『……私はアイツと違って空気を読まんぞ』
アマゼレブの人形はベッドの横の棚に置かれていた。窓から外を眺めていた姫愛奈は人形を睨み付けた。
『クラスメイトの事を何とも思っていないんじゃなかったのか? それとも彼氏だけは特別だったのか?』
「アンタ……」
『あの言葉は強がりか? それとも本心からか?』
「本心よ」
『……嘘はついてないな』
「分かるの?」
『これくらいなら他の
「何? アンタ青天目くんと私をくっつけようとしてんの?」
『お前たち定命の者共の色恋沙汰とやらは、よく分からないが見ていて面白い。そういう関係になって私をワクワクさせてくれるのか?』
「……」
それからしばらくして政臣が帰ってきた。缶詰めなどの保存食と、キャンディーなどのお菓子を買い込んだ。
「取りあえずオセアディアの王都までは足りるよ。あとお菓子なんかもいろいろと買ったから。まあ、白神さんが甘いもの好きかどうかは知らないけど」
「そう、ありがと」
姫愛奈はそっけなく答えた。よっぽど触れられて欲しくない事だったのだろう。政臣は気まずさに耐えながら自分のベッドに入った。
「じ、じゃあ、特に何もすること無いし、俺寝るね」
(気まず……)
毛布を頭から被り、目をばっちり閉じた所で、姫愛奈が口を開いた。
「…………待って。やっぱり寝ないで」
「え?」
不機嫌とも、ただ元気が無いようにも見えるその顔は、電灯スタンドの光に照らされ、まばゆい金髪で赤い瞳をしていることも相まって政臣に幻想的な印象を抱かせた。
「昨日の夜の話。あの白装束のチビが言った事よ」
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