7.突然の襲撃

 翌日、二人は予定通り街の商店街で必要な物を買い求めた。まずはいつでもアマゼレブと話が出来るように『人を模した像』を買うため雑貨店に入った。アマゼレブへの当て付けの意味も込め、二人は埴輪はにわに似た珍妙な人形を購入した。


「よーし。これで話が出来るだろ」

『……おい、何だこの奇妙な像は』

「あら、さっそく? 気に入ってくれた?」

『全く最高だな。すぐにでもお前たちのいるその世界に眷属の軍勢を送り込んで滅ぼしてやりたい』

「大手を振って干渉は出来ないんでしょ?」

『そうとも! そんなことをすると善の神々うるさい連中が殴り込んで来るからな!』


 その後二人は新しい服を購入した。姫愛奈は青い紐タイが特徴的な白いブラウスにチェック柄の青いハイウエストスカートを選んだ。政臣はファッションが全く分からず、同じく分からないアマゼレブと一緒にコーデを選んだ結果、気が付くと黒いスーツを着ていた。


「いや何でスーツなんて着てるの」


 当然のようなツッコミに政臣とアマゼレブは責任をなすりつけあう。


「いや、アマゼレブコイツが『男はビシッと黒で決めるべきだろ』って──」

『スーツのコーナーに勝手に行ったのはお前だろうが』

「アンタもノリノリでネクタイの柄吟味してたろ!」

「アンタたちってば──」


 あきれるしかない姫愛奈だったが、その時姫愛奈の脳内に電流が走った。


「──ッ!? 待って、ちょっと私閃いちゃったかも」

「は? 何?」

「今から私たち二人の関係を〈お嬢様と執事〉っていう設定にしましょう!」

『……ああ?』


 困惑する二人を置いて姫愛奈は続ける。


「〈カップル〉っていうのは嫌だし、かといって何の理由も無しに男女二人で行動してるなんて不審でしょ? そこで! 私が旅行中のお金持ちのお嬢様で、あなたがお目付け役兼執事ってことにしない? どうせ文化レベルは中世なんだから、そういうこともあるでしょ!」

「急に設定を盛るね。それに中世でもお金持ちや貴族のお嬢様が付き人一人だけで旅行するわけないでしょ。普通なら私兵を引き連れてるよ? そういうのってラノベとかにあるような──」

「今の状況なんて十分ライトノベルでしょ! それに私、家ではお嬢様って呼ばれてたし」

「あっ、そういえば白神さんの家って本当にお金持ちだったっけ……」


 姫愛奈の父は日本有数の資産家で、二人が通っていた星歌高校の理事も務めていた。


「いや、今は関係無いでしょ」

「そうよ。だからロールプレイよ」

「ロールプレイ……」

『まあ、今お前たちは悪役ロールプレイをしているようなものだから、もう一個別のロールプレイを追加しても良いんじゃないか?』

「アンタそれ見ていて面白そうだからって理由で賛成していないよな」

『その通りだ!』

「じゃ、そういうことで……ちょっと青天目! さっさと服の料金を払いなさい! 次はスイーツを食べに行くんだからね!」

「有無も言わせず始まった!?」


 結局二人は〈お嬢様と執事〉という設定で行動することになった。意外にも不審に思われる事はなく、傍若無人(演技)な姫愛奈に手を焼く政臣に同情の目を向ける者もいた。それから数日街で過ごした二人は、国境に接した街へと至る鉄道があるという情報を掴んだ。


「ここから一日の距離にある〈シスキア〉っていう都市に、オセアディアと国境を接する〈ボンデス〉に通じる鉄道がある。費用は手持ちの分で十分足りるし、この街にはシスキア行きのバスもある。アマゼレブから新しい能力と付き人として眷属も貰ったし、もう準備は万端って言って良いね」


 二人は今度はちゃんとしたホテルに泊まり、そこで今後の方針を検討していた。二人の周りにはアマゼレブが寄越した眷属〈ルルクス〉がいた。アマゼレブが使用人として使っている堕天使で、戦闘力も高い。二人の格好に合わせ四人のルルクスはメイド服を着て凛とした佇まいで立っていた。


「国境を越えたら首都に向かう手段を探さなきゃ。多分その頃にはまたお金を調達しないとダメね。問題はどうやって調達するかだけど……」

「そこら辺の盗賊でも殺って金品奪う?」

「山の中ならともかく街中でそんなことしたら大騒ぎになるわよ。面倒ごとはごめんだわ」

「う~ん。でもそれだと他に手段が無いよ? 後は強盗ぐらいしか」

「いや……私の人間的な部分がそれを許さないって言ってるわ」

『あの集落では心底楽しそうに男たちを虐殺していただろうが』


 我慢できずにアマゼレブがツッコミを入れた。


「良いのよあれは。ああいう手合いは死んでも迷惑は掛からないでしょ?」

「いや、俺たちはどちらかというと人に迷惑を掛ける為にここにいるんじゃ……」

「あのね、私たちがするのはよ。この世界全体の敵なんてやる気は無いわ」

「でもクラスのみんなの敵ってことは人間たちの敵ってことだ。この世界の人間の比率がどれくらいなのかは知らないけど、世界を相手取るのと同じくらい大変なことだと思うけどね」


 その後も二人は資金調達の方法を話し合ったが良い案が浮かばず、気晴らしに夜風に当たるため外出をすることにした。


「この世界には月が二つあるのね。それになんかめっちゃ近くない? クレーターがくっきり見えるわよ?」


 姫愛奈は赤と緑に輝く二つの月を指差した。


「神秘的で良いね」

『……あのホテルではお互い何もしなかった割に、デートはするんだな』

「あのホテルに泊まったのは一種の事故だから。私たちはにはならないから」

『これから先ずっといる仲だというのに淡白なものだ。お前は良いのか、政臣』

「痛い目に遭いたくないんで」


 政臣は肩をすくめる。


『そうか。なら溜まったら私が寄越した眷属共を使うと良い。あいつらは種族的に雌だ。身体のつくりは人間のと同じだぞ』

「えっ! マジ!?」

「……本当にそんなことをしたらマジで殺すから」


 姫愛奈はゴミを見る目で政臣を見つめた。


「いや何で!? 白神さんじゃないなら良いでしょ!」

「そういうことじゃないから! 眷属とヤってるなんて知りながらバディを組むなんて気まずすぎでしょ!」

「じゃあ白神さんが相手してくれれば良いじゃないですか!」

「ばっ!? 好きでもないヤツと寝るほど私は落ちぶれてないわよ!」


 口喧嘩を始める二人をアマゼレブが静止する。


『おい、お前ら。あまり騒ぐな。周りをよく見ろ』

「は?」


 二人は口喧嘩を止めて周囲を見回し、すぐに言葉の意味を悟った。背を向き合い、戦闘服に着替える。


『さすがに気が付いたか。いわゆる殺気を感じられるようにしてやったからな。だが結界に入ったことも気付かないのは良くないな。後で〈祝福〉を強化せねば』

「結界?」

『私はお前たちを上から見下ろすように見ているが、お前たちは今かなり大きい結界の中に閉じ込められているぞ?』

「ウソ!?」


 だが、二人に確かめる時間は無かった。先ほどから感じていた殺気が動き出し、こちらに飛び掛かってきた。


「──ッ!?」


 姫愛奈は咄嗟に振り下ろされた剣を大鎌で防いだ。金属音と火花が戦闘開始のゴングとなり、四方から襲撃者がやって来る。二人は逃げる暇も無く包囲された。襲撃者たちは白い装束にフードを被り、素顔は分からない。


「……何なのコイツら」

「明らかに盗賊じゃないね」

『剣とはな。銃火器の存在するこの世界であえてその武装を選ぶということは……』

「ということは?」

『特殊な力や、専門の戦闘技能を会得している何らかの組織の者たちだろうな。お前たちの言葉を使うと特殊部隊といったところか』

「普通にヤバくね?」


 襲撃者たちは何やらボソボソと呟く。すると刀身が赤く発光し始めた。


『剣に魔法を込めたか。おそらく〈魔導士〉というやつだ』


 アマゼレブの言葉に二人は緊張感を張り巡らす。襲撃者たちは剣を構えると、一斉に斬りかかってきた。


 


 


 

 


 

 



 


 

 


 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 

 


 

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